BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBC世界Sミドル級タイトルマッチ ~SUPER SIX Semi Finals~

2011-06-27 21:56:49 | Boxing
王者 カール・フロッチ VS 挑戦者 グレン・ジョンソン

フロッチ 判定勝ち

考察 ~フロッチ~

アブラハム相手に自身満々でジャブを突き刺しまくった王者にして
このジョンソンの重圧に下がらざるを得なくなることに軽い驚きを禁じ得ない。
肉を切らせて骨を断つのをポリシーとするこの男が、
ラウンド中のメリハリ(あまりついていなかったが)でポイントを奪取しようと
考えた背景には様々な理由、要因があるものと考えられる。
たとえば減量苦、調整失敗、神経質になっても仕方ない相手ホームでの試合、
強豪との連戦が義務付けられたリーグ戦、トーナメント故のメンタルの疲弊
ということもあるかもしれない。
ポイントを上げるための策として、威力を殺してスピードを上乗せするための
オープン気味でのフック連打と、リング狭しと時に相手に背を向けるほどに
足を使い、打ち合いを拒否した。
自身のディフェンスの拠り所である懐の深さとタフネスが、
相手のディフェンスの拠り所であるガード、ブロック、体のflexibilityに
決して好相性ではないことにも起因する。
打たれるスタイルと打たせるスタイルは似て非なるものなのだ。


考察 ~ジョンソン~

おっさんボクサーの星といえば、管理人的にはホプキンスよりもこちらを推す。
年齢という要素にファンのpathosとsympathyが絶妙なブレンドで反映されるからだ。
そこには壊されるかもしれないという懸念と勝って欲しいという願いの
ambivalentな思いが不可分だからだ。
負け数の多さが現代ボクシングのトップどころでは突出しているが、
それよりも密かにキャリアクラッシャーであるところに管理人は恐ろしさを感じる。
たとえばロイ・ジョーンズJrを本当に破壊したのはターバーではなくジョンソンであろうし、
C・ドーソンから若々しさを奪い、パスカルへの敗北の布石となったのもジョンソンだ。
しかし、負けの数にはやはり背景がある。
長距離からのストレート系のパンチにはガードがはまるのだが、
自身も鋭角的な右ストレートを攻撃の基調とするだけに徹底的に距離を取られると噛み合わなかった。
またインサイドではガードの置きどころゆえに軽目の左右フック連打にも悩まされ、
一発で決定的なダメージを食うことは数度しかなかったものの、
自身も得意のパターンである右の打ち下ろしは効果的に使えなかった。
軽いパンチであっても防御したくなるのはボクサーの常。
結果には釈然としないだろうが、内容としては敗北だった。
しかし、これでgatekeeper的な意味での商品価値はキープされましたね。

IBOバンタム級王座決定戦

2011-06-20 18:11:29 | Boxing
ビック・ダルチニャン VS ヨニー・ペレス

ダルチニャン 5ラウンド負傷判定勝利

考察 ~ダルチニャン~

体全体の瞬発力は、たとえばミハレス戦の頃と比べると落ちたが、
パンチ力は往時の力を残しており、むしろ飛び込んでの一発に頼らず、
強打の連打を使うようになったことで、アクシデントの要素が減った。
省エネを心がけているわけではなかろうが、
無理のないボクシングをすることで無茶をしなくなったというか。

youtubeでボクシングの動画を次々に視聴していると、
なぜか関連動画に猫パンチ動画が上がっていたりする。
面白がってさらにそれらを見ていくと様々な猫動画にたどり着くわけだが、
中には野生の大型猫がヘビを捕らえるものまであった。
ヘビは必死に威嚇するものの猫はそれに怯むことなく
打ち下ろしのパンチを頭部に容赦なく叩き込んでいき
ついにはノックアウトに至るのだが、この試合はまさにそんな感じだった。

それにしてもこの10年でボクシングシーンには矍鑠としたボクサーが
ずいぶんと増えた気がする。
トレーニング内容、トレーニング環境、食事、試合間隔の空け方、
モチベーションの維持方法にメンタルケアまでが進化した証拠だろう。
内藤とたいして年齢は変わらず、マッチメーク的にはより厳しいにもかかわらず、
活躍できるのはやはり妙なこだわりを持たず、
時に応じて階級を上げるからという点も付け加えられるだろう。


考察 ~ペレス~

この試合は1ラウンド開始すぐの相手の左を無造作に
もらってしまったところで実質的に終わってしまっていたものと思う。
アグベコ戦では身体面でも頭脳面でも秀でたところを見せていただけに
これには拍子抜けさせられた。
インサイドから鋭角的にショートのパンチを打つこともできるし、
足とジャブを使ってのアウトボクシングもこなせるこの選手にして
全てが中途半端になってしまったのは、
開幕の一発でゲームプランがご破算になったからに他ならない。
ガードの置きどころ、ジャブの距離、強度、タイミング、足捌きに
恐怖かあるいはそれに近い感情が如実に現れていたように思う。

総合的な力で上回っていればいい、という哲学は野球やサッカーのような
長丁場のシーズンスポーツにこそ当てはまるものの、
一発勝負のボクシングには時にそぐわない。
ダルチニャンに勝ったアグベコに自分は勝っているのだという、
ボクシングでは禁断の三段論法の陥穽に嵌ったのか。
黒人は黒人に臆するところ無くとも白人を目の前にすると萎縮する傾向が
どうしてもあるのか。

WBA世界Sライト級暫定王座決定戦

2011-06-13 22:08:01 | Boxing
マルコス・マイダナ VS エリック・モラレス

マイダナ 判定勝ち

考察 ~マイダナ~

一撃に特化したスタイルで、たとえば日本の指導者なら
ガードの位置、足の運び、パンチングフォームなどを
これでもかというぐらいに修正されそうだが、
いつ、どこで、誰と戦っても安定している(=乱れない、の意)
そのファイトスタイルは常に観る者に激闘を約束する。
ただし、A・カーンのようにとことんスピードとフットワークを使うような相手は苦手で、
一人相撲に陥ってしまうことも証明している。
もちろん一人相撲でもスリルと期待を維持させるから厳密には一人相撲ではないのかもしれない。

当てるための布石としてのリードや追い回しは使っていたが、
相手の経験とスキルが明らかに自身のpressureを上回る場面もあり、
苦闘になることもあったが、それがまた自身のペースにもなった。
WOWOWで見る限りでは快勝という試合はなく、
冒頭に言ったとおり、激闘の連続だ。

それにしても指導者との出会いはあらゆる分野で重要だとつくづく思う。
イチロー、野茂は仰木監督でなければフォーム修正を施されたのは間違いないし、
そうなっていれば大成しなかったのも間違いない。
マイダナにしてもいい出会いがあったに違いない。
それともアルゼンチンはどこかの島国とは違って、
個性を尊重する土壌、伝統が豊かなのだろうか。
いや、よくよく考えるとS・マルチネス以外のボクサーを見るに
パンチャー偏重の国のようにも思えるが、さて。


考察 ~モラレス~

試合が決まった時点からメディアにKO負け、病院送りを危惧する記事が多かったし、
復帰後の試合内容から同様の危惧を抱いていたファンは多いはず。
自分もその一人だった。
ボクサーは敗戦を重ねるごとに通常は弱体化し、
引退から復帰しても往年の輝きは戻らないことが遥かに多い。
(メイウェザーの場合は引退しているといえるのだろうか?)
V・クリチコは数少ない例外だろう。

復帰後の試合はどれも輝いたと言えるものではなかったが、
ring rustを削ぎ落とす過程だったのか。
打ちつ打たれつの中で見せるカウンターと防御勘は見事だった。
また片目がほぼふさがった状態で敢えてボクシングせず、
打ち合いの中に活路を見出したことで、
自らの経験が最大に生きる展開に持ち込めたのは僥倖だったようだ。

これはマルケス、バレラについても当てはまることだと思うが、
モラレスは元々の骨格が標準よりも細いのかな。
ウェートを上げるほどに胴回りが太くなるのを見て、ふとそう思った。
メキシカンに長らく四階級制覇が出てこなかったのは
民族的な身体特性があるからなのかもしれない。
日本人はもっと細いように思えるのだが、どうだろか。
ファイティング原田は太く頑丈な骨格を持っていると考えられるが、
彼以外に階級をどんどん上げた例が少なく、判断は難しい。
亀田興毅?
どう考えても芯は細いでしょ。

WBA世界フライ級タイトルマッチ

2011-06-13 19:45:19 | Boxing
王者 ルイス・コンセプション VS 挑戦者 エルナン・マルケス

マルケス 11ラウンドTKO勝利 

考察 ~コンセプション~

ゴルフの世界では「ドライバーはショー、パットはマネー」という格言があるが、
ボクシングに置き換えると「パンチはショー、ディフェンスはマネー」となるか。
往々にしてボクシング界ではこれがvice versa(逆もまた真)となるのだが。
この選手は(求められるべき)ボクサーのエッセンスよりも、
ショーマン、エンターテイナーとしての要素が強すぎる。
5ラウンドの右の超速アッパーは外れはしたが、当たれば10カウント確実もの。
しかし、それを打つまえのガードがガラ空きでは……
とにかく右の一発のリスクが自分にとっても相手にとっても高すぎる、いわば諸刃の剣だ。
当然相手にダメージを与えもしたが、その後はカウンターで応酬された。
通常、肉体的なダメージを被れば、本能的にそれを避けようとするものだが、
この選手は観ていた限り、そうした行動に出ようとしない。
アドレナリンやセロトニン分泌が通常人よりはるかに多いだけでなく、
攻撃的な性格が本能をも抑え込んでいるようだ。
いや、むしろ最も原始的な本能丸出しで戦うからこうなるのだろうか。


考察 ~マルケス~

展開としてはまったく異なるが、随所にカサマヨルvsカチディスを彷彿させる
カウンターが入った。
視野が狭いファイターには側面からのカウンターが有効であることを
証明するかのような試合だった。
カウンターの右フックが面白いようにヒットし、実際にダメージも与え、
顔面も変形させたが、相手のタフネスがこちらの攻撃を上回っていた。
ここで精神的に辟易することなく、状況に応じた守備と攻撃に徹したのは
相手とは対照的に理性的な判断だった。
下馬評は不利で、管理人も実際にunderdogだと思っていたが、
どうしてなかなか予想を裏切ってくれる。
ドネアとの対戦経験とその後のドネアの圧倒的なパフォーマンスが
自身の源になっているのだろうと推測する。
清水がコンセプションと内定してたという噂もあったが、
一撃に特化した前王者よりも総合力で勝負できそうなこちらの方が、
選択肢としては悪くない。