BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBCシルバー・Sウェルター級王座決定戦

2011-07-23 18:18:39 | Boxing
バーネス・マーティロスヤン VS サウル・ローマン

マーティロスヤン 7ラウンドTKO勝利

考察 ~マーティロスヤン~

ワン・ツーは基本ではあるものの、ワンはその上を行く基本中の基本。
今までの格下相手では見えてこなかった様々な欠点が浮き彫りになった。
まずはジャブの不足。
上背もリーチもハンドスピードあるので、これまではワン・ツーのみで
相手は容易に退いてくれたが、ランカー対決となるとそうは問屋が卸さない。
手数としてのジャブが少ないのは技術的な問題ではなく、精神的な問題。
いきなりダウンをもらって冷静さを欠いたが故に、
早くダウンを奪い返したいという念に駆られてしまったのだろう。
またその原因となったダウンはディフェンス技術の不足。
1ラウンドからツーの打ち終わりに左フックを軽くかぶせられてはいた。
攻撃がワンパターンな選手は、もらうパンチもワンパターンになるということか。
一時期やたらとS・マルチネスに突っかかっていたが、
実際にそこまでたどり着くには名前も実力もまだまだ足りない。


考察 ~ローマン~

コーンロウって黒人によく似合うなあ。
現タイガースで元ロッテのコバヒロがコーンロウを編んでいたが、
彼は長身で手足が長く、顔は扁平なのに彫りが深いという、
ある意味日本人離れしたところがあったので似合っていた。
ローマンのボクシングはというとスタイルとは対照的に泥臭さが持ち味なのか、
最も光ったのはインサイドでのショートアッパー連打。
メキシカンは肩から突き上げ、日本人は手打ちになりがちなパンチだが、
黒人が打つと実にリズミカルになる。
問題はその距離になるまでに貰いすぎたことで、タフガイといえども限界は来るもの。
負け数が多いが、実力者相手に一発入れるだけの力もあるので、
今後も現役&潜在的世界ランカーへのgatekeeper的な存在であり続けるんだろうな。

WBC世界フェザー級タイトルマッチ

2011-07-11 22:09:56 | Boxing
王者 ジョニー・ゴンサレス VS 挑戦者 トマス・ビジャ

ゴンサレス 4ラウンドTKO勝利

考察 ~ゴンサレス~

指名挑戦者として長谷川からダッシュしたベルトなのだから
初防衛戦でいきなり強敵とやる必要はない。
対戦相手が急遽変更になってかえって調整試合的な要素が強まったな。
箱がこんなにガラガラな状態で戦うのは本意ではなかろう。
メキシコ人は長谷川戦に拍手喝采だったと聞くから、
年末あたりにメキシコでお披露目戦、
そして最近ストーカーっぽく付け狙っているガンボア戦は来年早々か。
日本からの刺客?
ちょっと今は候補が見当たらない。


考察 ~ビジャ~

これがもし世界戦ではなく、地域タイトル戦や国内タイトル戦なら
3ラウンド早々にレフェリーストップ。
トレーナー次第では2ラウンド終了時にタオル投入もありうる。
とにかく上から下から右から左から、あらゆる角度からパンチを食い、
自身のパンチがまともにヒットしたのは2ラウンドの右クロスのみ。
タフだなとは思うが、最後はやはり膝を屈した。
それにしても思うのは、やはり長谷川は打たれ弱いのか。

Sウェルター級12回戦

2011-07-10 16:09:03 | Boxing
ポール・ウィリアムス VS エリスランディ・ララ

ウィリアムス MDで勝利

考察 ~ウィリアムス~

管理人採点では116-112でララ。
この採点はcontroversyを呼ぶこと間違いない。

初回、いきなりいい右フックをもらった直後にクリンチからの押し相撲で倒されたが、
あの時点ですでに効かされていたのか?
前回の敗北を引きずらないところは流石といえるが、
この路線で戦い続ければアゴがハーンズになるのはもう時間の問題だ。
中盤以降はインターバルごとにコーナーでうがいをしていたが、
吐き出す水の赤いこと赤いこと。
サウスポーの左をもらいまくるという技術的な悪癖が修正されていないのは
予想外とも言えるし、予想通りとも言える。
前回記事でここを直せば地味なボクサーになると書いたが、
陣営がその方針を選ばなかっただけのこと。
花実兼備のボクサーというのは理想ではあるものの、
そう簡単には作れないものだ。

それにしてもまるでS・マルチネスやC・キンタナとの初戦をなぞるがごとくの展開と結果。
これはリマッチが必須だろう。
そのリマッチの結果がどうなるのかは、
一にかかってウィリアムスの変化(≠成長)の有無による。
ちなみにマルチネスとのラバーマッチは確実に遠のいたと断言できる。
(そんな必要はないと管理人は思っているけれど)

とにかく頭に血が昇りやすいという欠点を見事に露呈してしまったわけだが、
これは性格的なもので修正するのは難しい。
我々はよく無責任にスポーツ選手を評してメンタルが弱いとか
精神面に問題があるだとか放言してしまう傾向にあるが、
人間の内面をガラリと変えられるものは世の中数えるほどしかない。
すなわち恋愛と宗教。
ボクシングにはその両方のエッセンスがある。
つまり中毒性(addiction)と献身(dedication)。
下田ともども生まれ変わってほしいが、さて。

考察 ~ララ~

リング上で対峙した瞬間にパッキャオvsデラホーヤ、
そしてヘイvsウラディミールの2つの構図が浮かんだが、
その後の展開として近かったのは前者。

絶望的とも思えるフレームの差をスピードで十二分に埋めてみせた。
リズミカルな動きからスピードに乗ることは日本人の同階級にも
出来る選手は探せばいるだろうが、一瞬の静止状態からネコ科の動物よろしく
一瞬でトップスピードに持っていくことができるのは、
やはりそれだけの身体的素養があるからだろう。
また、マルチネス戦の年間最高KOは対戦相手にウィリアムス恐るに足らずの
念を抱かせるに十分で、ララもポーカーフェイスながら自信を持っていたはず。
リゴンドーがコルドバ戦で最後に流したように、
ララもどこか流した感があったが、修羅場をくぐったという経験は大きい。

タンコブと呼ぶにはあまりにでかすぎる腫れに、
何かの弾みでカット → 大量出血 → 負傷判定という結末も
頭をよぎるも、最終ラウンドまで戦い抜いたことで胸をなでおろした。
内藤が出目金かと見紛うほどの腫れを負ったこともあり、
目にまで腫れが及ばないあたり運も味方していると思ったのだが……

記録の上でケチがついたのは痛いが、この選手はSウェルターにおける
A・ウォード的な存在になる予感すらする。
ニュータイプ戦士ララとか高柳氏は最後に絶叫していたが、
インドで精神修養が必要なのはポールの方だろう。

WBA世界Sバンタム級タイトルマッチ

2011-07-10 15:32:27 | Boxing
王者 下田昭文 VS 挑戦者 リコ・ラモス

ラモス 7ラウンドKO勝利

考察 ~下田~

動き自体はキレキレだったが、無駄が多いというか雑というか。
たとえば同階級最強と目される西岡と比較して、
スピード、スタミナ、パンチ力ですら優っていると思われるが、
総合力(全部を足した力という意味ではなく全部を足す力)では負けている。
序盤からスピードとワイルドさで優位に立ち、相手は動き回るだけになったが、
そういう相手を追い回すばかりで、追い詰める手段には乏しかった。
ジョー小泉が右リードの不足を指摘していたが、その通りだった。
事実、右のショートのカウンターは随所でもらっていたし、
左の飛び込み際には左フックを合わされていたし、
ダッキングからの左→右の返しには右を合わされる予感が漂っていた。
それにしても李戦で見せたスタミナと集中力の持続が、
たった一戦で裏切られる結末になろうとは……
7ラウンドいきなりの失速に見えるが、6ラウンドからその萌芽はあった。
まっすぐ入って単発で勝負するように見えたからだ。
失速の理由、背景には異国の気候風土の違い、日本人初の快挙を狙うという心理的重圧、
指名挑戦者への不安と恐怖、アウェーの雰囲気など様々あろうが、
いずれもが敗因であり、そのどれも決定的な要因にしてはならない。
求めらるのはコンディショニングやスキルやメンタル面ではなく、
それらを複合させる力だ。


考察 ~ラモス~

相手が速ければじっくり見てしまうのは洋の東西を問わないらしいが、
この挑戦者は王者のワンパターンの攻めを逆に責めてきた。
すなわちカウンターの右と左フック。
事前に強調されていた遠い距離からのいきなり左右は一発もなく、
序盤はすべて王者の注文通りに展開していくのかとすら思えた。
欲がない性格なのか、それとも見た目以上のathleticismを持たないのか、
消極的にカウンターを狙うばかりで、これはこれで有効だが決め手になるのか
と疑問を抱き始めたところで唐突にフィニッシュが訪れた。
こればかりは下田本人でないと分からないが、
スタミナ切れなのか打ち疲れなのか打たれ疲れなのか、
はたまた流血の原因となったバッティング(だったような)が予想外に効いたのか。
王者を攻略したというよりは相手が勝手にコケた印象の方が強い。

随所に上手さは見せたが、安定王者の風格はない。
弱みを見せなかったが、さりとて強みも見せられず。
リゴンドーとの統一戦が行われなければ、ドネアの4階級目の格好の標的か。
あるいは帝拳を始め日本から刺客を送り込めるか。

WBA・IBF・WBO世界ヘビー級王座統一戦

2011-07-04 18:54:47 | Boxing
F・O王者 ウラディミール・クリチコ VS A王者 デビッド・ヘイ 

クリチコ判定勝利

考察 ~クリチコ~

あえて予想記事をものさなかったのは、直近のヘイの試合かクリチコの試合かで
ヘイの大差判定負けを予想していたのでそれで十分と思っていたから。
それでも個人的には期待感や緊張感を失わない好試合だった。
なぜならヘイがどの時点で勝負に出て、どのタイミングでノックアウトされるのかに
興味の焦点があったからだ(そんな人はマイノリティかもしれないが)。

それにしても実況はヘイのスピードを強調していたな。
ジョー小泉なんかは「高柳さん、スピードとクイックネスは違うんですよ」とか
一席ぶつかと期待していたが、そうはならなかった。
左ジャブも右ストレートも速く、追い足も最短距離でリングのcut-offが抜群に巧い。
また相手の攻撃の選択肢が飛び込みざまの右ぐらいに絞られていたのも手伝って、
スウェーバックも際立って速く見えた。

これだけの身体能力と反射神経があるのならばダルチニャンを仕留めたドネアの左さながらの
カウンターのレフトフックがどこかの時点で炸裂する予感すら浮かんだが、
そうならなかったのは偏に挑戦者(敢えてそう呼ぼう)の決断力の欠如による。
テニスにも野球にもサッカーにも将棋にも当てはまるが、
名勝負というのは対戦者同士の実力が拮抗してこそ生まれる。
クリチコ兄弟の試合がつまらないと批判する向きは海外(特にUSA)メディアにもファンにも多いが、
それだけのレベルの高さのボクシングを披露しているというふうに見方を変えれば、
これだけ楽しめるボクサーも実は数少ないのだ。


考察 ~ヘイ~

最近ではメイウェザーがモズリーを少し待たせたが、
ヘイのこのやり方は悪質とすら言っていいと思われる。
これは心理戦、神経戦の一環としても有効とは思えない。
場内アナウンスが必要になるほど待たせて、関係各位やテレビ局やファンに
どれだけ迷惑がかかるのか分かっているのだろうか。

実況、解説にスピードを絶賛されていたし、確かにスピードはあるけれど、
褒めるところが少しずれているのではとも思う。
野球にたとえれば、ある程度素養と背景があれば140km/hの球は打てるし、
ピッチャーの牽制球でアウトになることなく帰塁することもできるだろう。
ヘイの能力とキャリアならクリチコのパンチを回避して当然とも思えるし、
また避ける気満々なのだから、避けるに決まっている。
これは上体の柔らかさと下半身の安定に支えられたmovesetだが、
攻撃に関しては対照的に驚くほど腰の軽さが目立った。
再三再四のスリップダウンはフィジカルの違いと同時に
腰の軽さ高さの証明でもあったと思う。
高くて遠い的に当てる練習はとことんやってきたはずだが、
トレーニングでは掴めない距離感、クリチコだけが持つ威圧感は12ラウンド通じて
克服することはできず。
おそらく30~40ラウンドをクリチコ本人相手に費やしても結果は同じだろう。
11ラウンドのsimulationには少々同情してしまった。
観る側にsentimentalismを誘うのはメンタルの弱さにはつながるとは限らないが、
sympathyを誘うのはほぼメンタルの弱さの表れと見てよい。
散々ブログで黒人ボクサーはメンタルが弱いと書いているけれど、
差別発言ではない、念のため。
ボクシング界全般の歴史的な傾向として白人のメンタル>フィジカルな点と
黒人のフィジカル>メンタルな点を強調せんがためです。

WBC世界ライト級タイトルマッチ

2011-07-04 10:58:47 | Boxing
王者 ウンベルト・ソト VS 挑戦者 佐々木基樹

ソト 11ラウンド途中負傷判定勝利

考察 ~ソト~

肩幅が広すぎず狭すぎず、また胸板も厚すぎず薄すぎず、
それでいて手足の長さに恵まれているように見える体型は
ボクシングをするうえでの大きなアドバンテージだ。
無論、Styles make fights.の格言通り、スタイルあってこそなのだが、
この王者は長い距離からのワン・ツーあり、左右のショートとロングのアッパーあり、
肘をたたんでのフックの連打ありと、スキルとスタイルがcompatibleになっている。

こないだのリナレス戦でもそうだったが、最近のメキシコのリングというのは
滑りやすくなっているのだろうか。
ソト本人はSライト進出を目論んでいるらしいが、
決定戦ばかりで今ひとつパンチに欠けるリナレスのキャリアを考えると、
ここは一つリナレスに佐々木の仇を報じてもらいたいところ。
セニョールがこの試合を作ったのは佐々木の引退の花道2割、
リナレスの挑戦に先だっての偵察8割だろうと推測されるのだから。


考察 ~佐々木~

3ラウンドの子外刈りに度々のバッティング、
極めつけは11ラウンドのランニング・ニー・アタックと、
ボクシング以外の格闘要素満載で、もちろんそれらはすべて
日本のファンは予想済みである。
公開採点も手伝って減点もなんのその。
5ラウンドのダウンはロープに詰められた瞬間にもらった右の
under the earが伏線になったように見えたが、
その後のバランスを見るに深刻なダメージとはならなかったようだ。
座り込み?
あれはほぼ100%演技でしょうね。

佐々木を名状するに奇襲やトリッキーという言葉が用いられるが、
それらは大筋で間違いないものと思う。
しかし、己の欲せざるところを他人に施して勝てるかというさにあらず。
アゴを打ってこいというアピールやロイ・ジョーンズばりの後ろで腕組みする
パフォーマンスは相手の思考やリズムをある程度はかき乱したが、
同じぐらい自分のボクシングにも悪影響を及ぼしたように感じられた。
パンチ以外の策に走りすぎたとでも言おうか。
かつて竹原が豆タンク型のKorean fighter相手に左フックの正面衝突で
派手なダブルノックダウンを喫したが、
ああいうパンチを数種類用意していたと予想したのだが。

つまるところ奇襲というのは観る側戦う側にある種の期待や予想があって成功するもの。
比較的最近の分かりやすい例を挙げると興毅vsランダエタⅡになるのかな。
ソト自身が挑戦者の明確な全体像を作り上げるほどに警戒してきてくれなかったのが
最大の敗因になったのかもしれない。
引退?
もう一試合ぐらい日本でやるでしょ?