BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBO世界ウェルター級タイトルマッチ

2011-05-08 23:58:08 | Boxing
王者 マニー・パッキャオ VS 挑戦者 シェーン・モズリー 

パッキャオ 判定勝ち

考察 ~パッキャオ~

ボクサーは誰しも最大の武器を持っているもので、
勝負の仕掛けはそれを当てるための布石作りから始まる。
この試合では初回、踏み込み幅を小さく取り相手の反応を観察し、
また顔面が遠かったこともあり、ボディに狙いをつけた。
以降のラウンドでは踏み込み幅を徐々に大きく取り、
3ラウンドには唐突に一発が炸裂。
その一発はスウェーする相手のアゴに向けてのものだったと思われるが、
実際にはダックしており、瞬間的に軌道修正したようだ。
あれがもし、モラレス3で喰らわせたような腕を伸ばし切る左だったならば
そこで10カウントが入っていた可能性もある。

ダウンと判定されたのはハードラック以外の何物でもないが、
ジャッジが10-8となるところを完全無視したのは面白い。
当然そうあるべきであるし、実際にそうなったことは救い。

またダウン後に明らかに感情的に激していたのも珍しい光景だった。
普段のパッキャオはクリンチ時に相手を打たないが、
11ラウンドだったか、ボディと後頭部にコツンコツンと当てていた。
明らかにパフォーマンス含みのフットワークや威嚇の姿勢よりも
こちらの方が明らかに怖く、不気味だった。
モズリーとしては猛獣と格していたような感覚だろうが、
観る側としては「パッキャオも人間だったか」とある意味安堵できた。
マルガリート戦では相手が不憫すぎて打てないという場面もあったが、
コット戦では思いっきり打っていた。
そのコット戦のように最終ラウンドに踏み込んでの左をぶち込めれば
レフェリーの裁量でストップに持ち込めたかもしれないが、
モズリーほどの選手があれだけ露骨に逃げればKOを逃しても致し方ない。


考察 ~モズリー~

1~2ラウンドは緊張感とともに期待感があった。
右を溜めているように見えたからだ。
当然のことながら、序盤に勝負を決めるプランはなく、
決め手となるのは必然的に距離、間合い、角度、タイミングとなる。
パッキャオの踏み込みの鋭さ、パンチ力、フェイント等々を測るに
ジャブを以ってするのが定跡ながら、それをしないことにcards up his sleevesの存在を臭わせたが、
見せたのはカウンターの左フックのみ。
それも牽制ではなく警戒。
仕掛けを作るのではなく、仕掛けられるのを明らかに恐れていた。
メイウェザーにぶち込んだ右ストレートと右フックが火を噴く展開を
自ら放棄したと言わざるを得ない。
パッキャオにあってメイウェザーにない何かがそうさせたのか?
それともモズリーもデラホーヤ同様、couldn't pull the trigger anymoreだったのか?
はたまたクロッティ、中盤以降のコットのようにsurvival modeに最初から入っていたのか?
答えはそのどれでもありえ、かつ、どれでもありえない。
状況に対する原因が一つに絞れるものなら、対応策も出てくるもの。
強いて一つ上げるとするならば、中盤のパッキャオが一瞬だけテレビ画面に映らせた
Eye of the Tigerに、正しく猛獣に徒手空拳で立ち向かう心境になったものと思われる。
メイウェザー戦ではあらゆる負の感情を顕わにしたが、
今回のパッキャオ戦で顕わになったのはただ一つ、a sense of alienation(疎外感)だ。
この言葉はseparation from selfともseparation from the worldとも受け取れるが、
モズリーも自分が自分でなくなる、世界の誰も自分のことを理解してくれないという
気持ちを味わったのではなかろうか。

実際のリング上での事柄に目を転ずると、バッティングの多さが気になった。
バッティングそのものを武器にしてしまう選手も存在する
(チ・インジンなどのkorean fighters、日本では徳山や内藤、亀田ら)
が、パッキャオ、モズリーともそういうタイプではない。
バッティングの原因には様々あり、意図的なものは論外として、
この試合で頻発した原因はモズリー側にある。
パッキャオの踏み込みに対して無策だったから。
左右の違いがある場合、基本的には頭の位置は非対称になり、
右vs右もしくは左vs左よりもぶつかる頻度は減るものだが、
そうならなかったのはモズリーの責任。
それを論じ出すときりがないので割愛。

唯一の意志としての左フックは、たとえばドネアのような圧倒的なスピードはなく、
それはスキルの違いとともにリーチそのものがその運動に不向きになった。
腕が長いということはそれだけで巻くのに時間がかかるものだから。
(0コンマ0何秒という差だろうけれども)
厳密な測定は不可能だが、左フックを迎撃ではなく警戒に用いたのは
相手の踏み込みの方が自身の左の巻きよりも速いという感覚があったからだろう。
このスピードに対抗できるのはS・マルチネスしかいない。
もしくはハグラ―戦時のレナードとか。

世紀の凡戦になってしまったわけだが、
何故こうしないという打開策をあれこれ探るよりも
何がそれをさせないのかという視点で改めて観れば、
発見するものも多い試合のはず。
ただし、それにはモズリーの次戦が必要。
観客のブーイングを浴びまくった彼にそれがあるのかどうかはプロモーターのみぞ知る。
うん?今、フリーエージェントだったっけ?

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4 コメント

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なんとまあ (UMEPY)
2011-05-09 00:34:35
色々と分析はしたくなる試合でしたね。
とはいえ紛れもない凡戦でしたが。

過去の試合と見比べて見ると、メイ対モズリー、あるいはパッキャオ対デラホーヤ(orコットの後半)が考察材料になりそうな試合だと感じます。

クロッティはパッキャオ戦において最初から判定負け上等、KO負けだけは避けつつ後出し左フックが当たれば儲けもの的なプランであったように見受けられましたが、
モズリーは自身の精神的トラブルがモロに出ていて、それがありありと戦い方に現れていて
かつ自身が何をやってるのかわからない、混乱しっぱなしというのが観客にも生々しく伝わる有り様でした。
メイ戦でもモズリーは混乱状態のままでしたし、パッキャオはデラホーヤをも同様の状況に陥れました。
ただしデラホーヤは打たれ強くなかなか倒れはせず、守備に徹するモズリーにはパンチが当たらなかった。

1、2Rの動きは警戒感の強さも含めて決して悪くはなく、
特にパッキャオのガードを右ストレートで割った場面など見るべき部分もありました。
私は結果としてやはりあの3Rのダウンを食ったワンツーがその後の展開の全てのきっかけであったのだと感じます。
それほどあのときのモズリーにとって、あの被弾は想定外の、ありえない、あってはならない事態だったのだろうと。
自分が最大限に警戒している踏み込みワンツーを、わかっていても食ってしまうのでは
詰みも同然ではないか、と心が折れたかなと。

しかしながら実際はそんなわけはなく、
少なくともパンチを出さなければ勝てない、自身のワンツーを痛打すれば
必ずパッキャオだって倒せるはずだし、
パンチを出してそのプレッシャーをパッキャオに与えなければ勝てるはずがない。
さらにいうなればそれが彼らの仕事であり、モズリーにそれがわからないはずがない。

そういった思考能力を吹っ飛ばしたのはパッキャオのどの部分であったのか
改めて考えてみたいところです。
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Unknown (涼しい木星/管理人)
2011-05-09 22:43:32
UMEPYさん - ボクシングではよく見えないパンチが取りざたされますが、それはほとんど見えない角度から打たれたものですね。パッキャオがD・ディアスをバタンと倒れさせたのはそういう分かりやすい見えないパンチでしたし、ハットンもそれでやられましたね。けれどデラホーヤやコットは(よほど目が悪くない限り…という前提は成立しませんね)、そんなパンチを浴びたわけでもないのに「見えなかった」と述懐してますね。ここ2戦のモズリーからはやたらメンタルの弱さを感じてしまいます。同時に私はクロッティのある意味情けないring smartnessとマルガリートの恐ろしいほどのwill to fightにあらためて感心しています。

ちなみにさっきWOWOWで見直してみたらパッキャオがクリンチで打ってきたのは12ラウンドでした。やはり私はこれを見て寒心しました。多分そんなところを見ているファンは多くないでしょうけれど(マニアはきっと注目したはずです)。

ある記者によるとモズリーとパッキャオのグラブタッチが44回に及んだとのこと。ラウンド開始時やバッティング後のスポーツマンシップだけでは説明しにくい数です。ここらあたりについて考えてみるのも面白そうです。
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確かに (UMEPY)
2011-05-12 00:46:24
グローブタッチの数は多かったですねー。
通例まあ序盤は試合が切れるごとにやったりはするものの
中盤以降徐々に収束していくもんですけどねえ・・・
ダイレクトに感情読みをするのもいささか乱暴ですが
モズリー側に、ちょっと一息つかないといてもたってもいられないような心情があったのかなと
見ながら感じていました。
というよりは戦いの空気からの「逃げ」の姿勢の表れかなあ。

モズリーはあの3Rの一撃で、メイウェザー戦で味わった絶望が胸に去来したかもしれませんね。
味わった恐怖の種類は「何を打っても当たらない」と「どれだけ警戒しても倒される」という
異なる種類のものではあったかもしれませんが。
精神的ダメージはメイ戦以上に深刻でしょう。まあしかし私は今のところ
その傷を最初につけたメイもパッキャオと同様に評価しておくことにします。
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Unknown (涼しい木星/管理人)
2011-05-14 23:02:55
UMEPYさん - 何かあるたびにグラブタッチしていたことが印象的だった試合では、私にはミハレスvs川嶋Ⅱが思い起こされます。最後の最後の川嶋のスリップ(と判断されたダウン)後に川嶋が差し出したグラブをいきなり無視して右フックを打ってきた場面が特に印象的でした。あれはきっと、地元判定気味だったことにミハレスがちょっとムカついてたんだと思います。

モズリーの場合はおっしゃるとおり「逃げ」の姿勢の発露でしょうね。絶望や恐怖……というのが言葉として適切かどうかは私にはちょっと判断がつかないです。一番しっくり来るのは"Fight or Flight"、「闘争か逃走」かなと思います。メイウェザー戦ではボクシングスキルに圧倒されて、混乱したのだと思いますが、パッキャオに対しては、肉食動物の前の草食動物になってしまったような心境だったのかな、と思います。
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