BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

IBF世界フェザー級タイトルマッチ

2009-08-24 23:55:05 | Boxing
王者 クリストバル・クルス VS 挑戦者 ホルヘ・ソリス

クルス 判定勝利

考察 ~クルス~

大毅がかわいく見えるほどのwrestler fighterだ。
マリーシアと言えなくもないが、それでも観ていて気分が良いボクサーではない。
捨てパンチはおろかリードブローもほとんどなく、
頭を第三のパンチに活用しながら前進していくスタイルはしかし、
ストレート系を基本に組み立てられており、
強めの左フックを主体に組み立てる通常のメキシカンとは一味違った。
バッティング、ゴング後の加撃、自分のさりげないローブローと
相手のローブローへのオーバーアクションと、
ボクシングの負の部分をポジティブに見せる妙なボクサーだ。
粟生や榎はクルスとスパーしてくれば色々と勉強になるのでは?

考察 ~ソリス~

興毅がかわいく見えるほどのローブローの使い手だ。
パッキャオ戦ではバッティングからの左ストレートでKOされたが、
そこで力業も必要だと悟ったのか?
ある意味メキシカン対決だからこそ実現したfoul festだった。
外国人相手にこれやったら大問題だよ。
左を強く多彩に振るうのはオーソドックスな/のメキシカンのセオリーだが、
相手の喧嘩ボクシングに飲み込まれたか。
11ラウンドからの左ジャブと右アッパーを基調にしたアウトボクシングを
序盤から徹底できれば終盤にKOもしくは明確な判定を拾えただろう。
個人的には観たいと思わないがラバーマッチが組まれるのは時間の問題か。

WBA世界ライト級暫定王座決定戦

2009-08-24 23:39:51 | Boxing
1位 ウルバノ・アンティロン VS 3位 ミゲール・アコスタ

アコスタ 9ラウンドTKO勝利

考察 ~アコスタ~

左足を軸に右足を時計回りにピボットさせながら左フックを打つ時があったが、
いったいどうやって打っているのだ?
また足を止めて打つ左は常にスウェーないしダッキングに移行できる体勢を崩さない。
パンチは軽めだが、筋肉にバネがあり、効かせるパンチと引っかけるパンチを
自在に使い分けられる。
右は時に突き上げ、時に大外から振るったが、その際に左は下げっぱなし。
目の良さに自信があると同時に、これによって脇を閉めてパンチにシャープさを与えている。
最後に両手を高く掲げた場面でじっくり観察できたが、
上腕二頭筋と上腕三頭筋の均整がとれている。
あのアッパー、フックのキレ、そして回転はここから生まれていたのか。
ジョーの駄洒落は「ミゲールのアッパーがアゴをコスッタ」で決まりだと思ったが…

考察 ~アンティロン~

相手のタイプも自身のスタイルも異なるが、
構図としてはアルセvsミハレスによく似ていたと思う。
ガードを高く保ち、強引に潜り込んで打ち合いにもっていくというのは
武骨なメキシカンの伝統的スタイルで、マルガリート、ソトらに通じるが
アンティロンには前二者ほどのタフさも馬力もなかった。
問答無用の打ち合いに持ち込むにはアゴの強さと精神のスタミナが必要。
そしてパンチで相手を下がらせること。
プレッシャーをかけて追い回すのは相手によっては逆にコントロールされてしまう。
単発の左がたびたびアコスタの顔面を捉えてはいたが、
二の矢三の矢が続かなかった。
いつもなら際限なく打ち続けられただろうが、
elusiveな相手に中途半端な一発屋で終わってしまった。

Naito-Kameda: Why Networks Should Care (But Won’t)

2009-08-23 01:38:15 | Translated Boxing News
boxingscene.comでおなじみの辣腕記者Jake Donovan氏の許可のもと、当ブログ管理人の「涼しい木星」の文責において翻訳版をお届けします。アメリカ人記者が内藤対亀田をどのように見ているのか、それを知る貴重な手がかりになればと思うと同時に、日本という国のスポーツジャーナリズムを見直してみる良い機会にもなると思います(私はDonovan氏の見方に全面的に賛成しているわけではありません、念のため)。事実の誤認などがあれば、訳者の責任とお考えください。原文はhttp://www.boxingscene.com/?m=show&id=21712を参照のこと。

内藤vs亀田:アメリカのTV局が何故注目すべきなのか(そしておそらく注目しないのか)
2009年8月21日 ジェイク・ドノヴァン記

アメリカに本拠を構える他のプロスポーツがアメリカ国内だけに金を払って、滅多に国境線を超えないとすると、それらのスポーツはどうなるのか。ふと立ち止まってこういうことを考えた経験がおありだろうか?

おそらくだが、それらのスポーツは我々が愛するボクシングというゲームと肩を並べることになるだろう。

ここで主張しておきたいのは、我々は時代を超えるような秋のシーズンに目を向けているということだ。すべてが順調であれば、スケジュールがいっぱいになっていることに疑問の余地はない―はずだった。

スケジュールの中で最も注目されていた試合が早くもなくなってしまったのである。ケリー・パブリックがポール・ウィリアムスを相手にミドル級タイトルの防衛戦を行うはずが延期となり、試合そのものが中止されるのではないかという懸念も捲き起こっている。

もしこの試合が実現すれば、同一階級の最高の選手同士の対戦、あるいは2人のパウンド・フォー・パウンド候補が特定体重(所謂キャッチウェート、契約体重。別のケース、たとえばパブリックvsウィリアムスの場合は一方のボクサーがもう片方のボクサーの階級へと上げる)で戦うという最近の流行の試合の一つになることだろう。

上の記述に当てはまりながら、アメリカのどの放送局の経営上層部のレーダーにも捉えられていない特定のカードがある。注目されてしかるべき試合である。というのも、そこには拳二つで夢と金を掴むという最高レベルのプライズファイティングにあるべき要素の全てが込められているからだ。

掘り下げた視線で見れば、内藤大助が自身のフライ級リニアル王座をワイルドな人気者、亀田興毅を相手に防衛するというファン待望の一戦に当てはまる作為的アングルなどありえないということに気付くだろう。

だがインターネットで時折見かける報道を別にすれば、日本ボクシング史上最大のイベントの一つになるであろう一大興行をアメリカの主要放送局が購入・放送してくれるのを固唾を飲んで見守るのはやめたほうがいい。

試合は東京で11月29日に行われることが内定しており、日本中が関心を寄せている。それもボクシング界の悪童(=boxing bad boy)亀田興毅(20勝無敗13KO)のセレブ的地位によるところが大だからだ。

18歳を前にしてプロ入りし、20歳の誕生日を待たずしてライトフライ級の世界王者に上り詰めた興毅のボクシング人生は常に早熟の天才との評価とともにあった。興毅が14歳で元ジュニアフライ級世界王者でボクシング殿堂入りも期待される井岡弘樹(当時年齢差17歳)との2ラウンドのエキシビションへの参加を打診された頃から亀田家はTVドキュメンタリの題材だった。

興毅は20歳まで三か月という時点で初めての(そして現時点で唯一の)世界王座を、判定に関して疑義が沸騰したものの獲得した。興毅が2006年8月にファン・ホセ・ランダエタを相手に勝利をプレゼントされたと感じたファンの数は少なくなかった。同時に日本のスポーツファンでこの試合を観戦した者の数も少なくなかった。なぜならこの試合は五千万人という途轍もない視聴者を生み出したからだ。

4ヶ月後のリターンマッチで戻ってきた視聴者は実に三千万人、興毅はそこで文句無しの判定勝ちを収め、王座を返上しフライ級へと照準を向けた。

対決の萌芽はここに始まった。

当時のリニアル王者は内藤ではなく、内藤に黒星を与えた唯一の存在にしてフライ級の防衛記録を17にまで積み上げていたポンサクレック・ウォンジョンカムだった。連勝記録は他ならぬ内藤(35勝2敗3分22KO)によって終わりを迎えた。初回KO負けと7ラウンド負傷判定負けという過去の対戦成績を乗り越え、2007年7月についに宿敵に判定勝ちを収めたのである。
だが、内藤は日本で育ち、日本国外で試合も経験している(その点では興毅も同じ)が、今秋ようやく実現しそうな両者の対決をファン垂涎のカードたらしめるのは内藤が単に王座を獲得したからというわけではない。内藤の初防衛戦で明るみに出た亀田家の汚点によるものなのだ。

ポンサクレックからタイトルを奪取してからわずか三か月足らずで、内藤は興毅の弟、大毅を挑戦者に迎えた。試合は見るに堪えない反則三昧となり、大毅がボクサーからレスラーに変身し、王者をボディスラムでキャンバスに叩きつけたところで頂点を極めた。

幸いにも内藤は重篤な怪我を負うことなく、勝者として高々と両手を掲げ、大差の判定勝利でもってベルトを持ち帰ったのだった。亀田の次男は試合中に故意に犯した数々の反則のためにコミッションから謹慎を言い渡され、底浅いキャリアで喫した初の敗北を挽回する機会もなくそれから一年間を無為に過ごす羽目に陥った。

興毅もまたその夜に弟の「手段を厭わず勝つ」というメンタリティに一役買ったかどで厳しい批判にさらされた。テレビのマイクは、兄が弟に王者の目の上の傷をさらに広げるために「肘でもいいから目に入れろ」という耳を疑うようなアドバイスを与えていたのを拾っていたのだ。

内藤の人生は一転して順風満帆となった。ポンサクレックとの4戦目の12ラウンド引き分けを含む4度の防衛をそこから積み重ねた。当今では前代未聞の第5戦も視野に入っていたが、内藤が今年5月の熊朝忠戦で負ったまぶたの負傷のためその予定は未定となっている。

ポンサクレックは升田貴久を挑戦者に某承認団体の暫定世界王座を来週に防衛予定である。勝者は30年前にまでさかのぼるリニアル王者の称号(註:ミゲール・カント由来か)を懸けて内藤と戦うこととなろう。

興毅もまた弟の遺恨試合を年内に内藤と戦うに先立って試合が予定されている。目前に控えるははるか格下のメキシコのジャーニーマン、ウンベルト・プールを迎えての9月初旬の東京での調整試合である。

全ての役者が勝った時、11月29日のタイトルマッチには単なる『正当な』世界戦ということ以上のストーリーが生まれる。

この試合は2009年のHBOとShowtimeの全対戦カードを合計するよりも多くの視聴者を引き付けることが期待される。

チャンピオンとチャレンジャーの間には紛い物ではない本物の敵対関係が存在する。両者を隔てる14という年齢差が作り出すベテランと新鋭の交錯という究極のシナリオがそこに加わるのは言わずもがなだ。

勝者を待ち受けるのは同階級の最多防衛記録保持者のポンサクレックとなろう。そしてそこから3ポンド上の階級ではアメリカの視聴者にも馴染みのビック・ダルチニヤンやノニト・ドネアも待ち構えている。

NBAやメジャーリーグを前面に押し立てるアメリカの放送局の経営陣が、そもそもの始まりから世界的であり続けてきたボクシングをグローバルスポーツとして視聴者に披露するまたとない機会が整っている。

だが我々アメリカ人は皆知っているのだ。世界のこちら側のボクシングはどれほど国内の人気が縮小し続けようとも新鮮な才能を求めて北米地域を出ることは滅多になく、結局は旧弊に固執するしかないのだということを。

WBA世界ミドル級タイトルマッチ

2009-08-18 00:17:09 | Boxing
王者 フェリックス・シュトルム VS 挑戦者 コーレン・ゲボル

シュトルム UDで防衛成功

考察 ~シュトルム~

3ラウンドはダウンで間違いなし、典型的な地元裁定だった。
サウスポーが苦手というより、近距離戦が苦手というか下手なのか
シュトルムの長所はパンチの引きとガードへの移行の速さだと以前書いたが
これが最も有効に作用するのは中間距離だ。
ただゲボルはそれを見抜いて意図的に距離を潰してきたというより、
これが本来のゲボルのスタイルだからだろう。
連打に対してaccuracyで勝負するのはひとつの選択肢だが、
相手の土俵で戦わざるを得なかったのは骨身に染みついたポリシーによる。
このポリシーを大事にする選手の代表格がシュトルムで、
対照的に戦い方を柔軟に変化させてくるボクサーの好例が佐々木基樹だ。
デラホーヤ戦以外でcareer definingな試合を見せられるかどうかは、
意識革命が起こらなければマッチメーク次第となる。
かと言って凶暴になったシュトルムには魅力を感じない。
素晴らしい戦いを見せたかと思うと、次の試合では苦戦というパターンが多いが、
これは本人が不安定というよりも、相手に研究され、自身も
アブラハムがSミドルに転級した今、戦力比較の意味は薄れてしまった。
そのかわり佐藤がいかに不甲斐ない挑戦者であったかが浮き彫りになってしまった。

考察 ~ゲボル~

アルメニアの池仁珍とでも呼ぶべきか。
元日本王者の沼田は前頭骨の厚みが常人の2倍あるらしいが、
ゲボルの前頭骨もそれぐらいの厚みを持ち、さらに常人の倍の硬さを
持っているのではなかろうか。
そうでなければ頭をこすりつけていくこのファイトスタイルは説明しにくい。
ドイツを主戦場にしているのならなおさらだ。
その割には打たれた瞬間によくアゴが上がる。
アブラハムに失神させられてからアゴが脆くなった可能性もある。
手数が豊富で上下の打ち分けもボリュームを感じさせるが、
パンチの質としてはやや軽いか。
椎骨の生理的湾曲がやや平板で下半身の運動エネルギーが
腰、肩、腕に伝えられる過程でいくぶんロスしているように見える。
こればっかりはトレーニングしてどうなるものでもないし、
弱点でもないし欠点ですらない。
前述したような前頭骨の硬さと併せてこの選手の特徴だ。
この男もE・ミランダ的なポジションに落ち着いて消えていくのだろう。

WBC世界ミドル級暫定王座決定戦

2009-08-18 00:15:49 | Boxing
セバスチャン・ズビック VS ドメニコ・スパダ

スビック UDで勝利

考察 ~ズビック~

ズビックを以下のように表現することに抵抗を覚えるが、
徳山昌守からあらゆるアウトボクサーの特質を除いたようなボクサーだ。
頭を下げ過ぎの左フックは相手の動きを捉えきれていないことを物語り、
右を当てて正面からクリンチに行く様は二の矢三の矢を番えていないことを意味する。
迎え撃つ右はアッパーであれストレートであれ、打った軌道そのままに引き、
サイドステップあるいはボディワークで相手の射程またはパンチをはずすべきだ。
5ラウンドからのクリンチの多用も見苦しかった。
また徳山を例に出すが、クリンチに行くならばフェイントで相手のフックを誘い、
それをダックでかわす、そこから左ボディあるいは右ストを伸ばすようにして
相手の脇の下に自分の頭を持っていき、組みつくのではなく前に歩く。
これもこれで日本では顰蹙を買ったスタイルだったが、
レフェリーに注意されることは全くと言っていいほどなかった。
注意しようにも注意できないクリンチの仕方だからだ。
不可解な暫定王者が誕生したが、いくらドイツ人でもこのボクサーは評価できないだろう。
12ラウンド終了直後の高柳氏の「ひどい展開になりました」という叫びが
この試合の全てを物語っている。

考察 ~スパダ~

かつてのアマの古豪イタリアからの刺客だったが、
これで暫定とはいえ世界タイトルを争ってもいいのだろうか。
ミドルという階級、ヨーロッパ出身でこの旺盛な手数は買いだが
ウーゴ・ガライと同じ匂いが感じられる。
打ち始めると止まらないが、打つ前にカウンターを入れられる場面が多く、
トップ戦線にまで登って来れても、そこから先へは進めそうにない。
クリンチしてくる相手に対して無策だったとも言える。
言うは易し行うは難しと分かっていても、
ツー・ワン、もしくはダブルトリプルのジャブが必要で、
真っ直ぐ下がる相手を真っ直ぐ追いかけるだけでは芸がない。
追い立てると追い詰めるの違いは四角い空間を円く使えるかどうか。
目、ステップ、肩を入れるフェイントなどで相手をコントロールできるかどうかが
愚直と不器用の分かれ目となる。

IBF世界バンタム級タイトルマッチ

2009-08-10 22:58:47 | Boxing
王者 ジョセフ・アグベコ VS 挑戦者 ビック・ダルチニャン

アグベコ ユナニマスディシジョンで勝利

考察 ~アグベコ~

6ラウンド終わりにホプキンスのごときcut the throatを見せていたが、
7ラウンド以降で急に展開が変わったな。
ノックダウン(には見えなかったが)を喫したのは不本意だろうが、
ダメージはなかったはず。
マルケスvsフアレスだったか、2分というラウンドもあったが、
4分というラウンドは実に珍しいものを見た。

7ラウンドで展開が変わった書いたが、実際はもっと前から
アグベコが流れを掴んでいた。
上体を振ることで相手に的を絞らせないと同時に、
上半身主導で振るうパンチの勢いを増す効果もあったように思う。
実際はほとんど当たらなかったが、
ウィービングから放たれるフックは拳の硬質さとも相俟って
ダルチニャンに相当のプレッシャーになったのではないか。
「これに手を出せばかち合うかもしれない」と言おうか。
腰、肩、肘の連動がないパンチながら特にフック系は引きがやけに速い時があり、
先天的なフィジカルでも相手より上だった。
だが惜しいかな、団体統一路線などに踏み出すには派手さ、華やかさが足りない。
地味にシドレンコと雌雄を再び決するぐらいか。

考察 ~ダルチニャン~

実戦ではなく観戦においてダメージを測るには
選手の脚、呼吸、表情などがチェック項目になるが、
それよりももっと分かりやすい判断基準がある。
打ち合い、あるいはクリンチのブレイクの際にレフェリーが
どちらの選手をより凝視しているかを見ることだ。
カットによる出血のせいもあるだろうが、レフェリーが見ていたのは
7:3でダルチニャンだったように感じた。

頭を下げながら打つ右フック、左のオーバーハンドは
以前の腰を落とした構えから斜め上に伸びあがる打ち方と正反対で、
自身にとってナチュラルな変則ではなく不自然な変則に見えた。
いいタイミングで当たったパンチは無数にあったが、
階級・耐久力の差以上に、フォームを崩したパンチでは威力が減じるのは当然。
曲がりなりにも体重を乗せて打つ自身のパンチより、
拳自体の硬さで腕で打ってくる相手のパンチの方が強いことに狼狽しただろう。
バンタムで一試合お披露目兼前哨戦をやるべきだったか。
この試合であらためて階級の壁を実感するとともにパッキャオの異常さを再確認した。

WBC世界ライト級挑戦者決定戦

2009-08-10 22:58:02 | Boxing
1位 アントニオ・デマルコ VS 2位 アンジス・アジャホ

デマルコ 9ラウンドTKO勝利

考察 ~デマルコ~

左ストレートの鋭さはあるが、それを撃ち込むための地固めが足りない。
時折右でショートとロングのアッパーを使い分けるが、主武器はやはり左。
長身を利した打ち方というわけではなく、あくまで水平方向の軌道をキープする。
フィニッシャーは一種類でもいいが、フェイントを駆使するなどして
それを決められるタイミングを構築する方法を複数持たなければ、
世界には届かないのではないか。
無表情にプレッシャーをかけてきながらも手が出ず、
顔面を結構打たせるのは先日の粟生を見るようだ。
粟生との違いはフィジカルとメンタルのタフネス。
バレロを喰ってしまう予感は感じさせないが、
左ストをコンスタントに1ラウンド30発ペースで繰り出せれば
かなりの好勝負を期待できそうだ。

考察 ~アジャホ~

くにゃくにゃした動きに人を喰ったようなパフォーマンスを見せるが、
黒人選手に共通するメンタルの弱さをこの男も持っていた。
へなへなと倒れ込んであわよくば反則打をアピールしようというのは
その時点で心が敗北を受け入れた証拠。
柔軟な上半身にシャープで伸びる左、踊るようなフットワークを持っているのだから、
打たせずに打つを徹底すればいいのだ。
ヨーロッパを主戦場に1~2年ボクシングを作り直せば、
フリオ・ディアスには勝てるだろう。
その頃までフリオがトップ戦線に残っているかどうかは分からないが。

余談。
アブラハム―ミランダⅡから注目していたレフェリーのアッシメニオスが
ここにきてWOWOWによく登場するようになったのは嬉しい。
今日の試合の最後の場面も決然とカウントを進めるところなど
さらなる大舞台を任せられる日も近そうだ。

IBF世界ミドル級タイトルマッチ

2009-08-03 22:57:27 | Boxing
王者 アルツール・アブラハム VS 挑戦者 マヒール・オラル

アブラハム 10ラウンドTKO勝利

考察 ~アブラハム~

これほど明らかに休むラウンドを作る選手も珍しい。
脚を使いながら、被弾を減らし、それでもポイント奪取のために
軽いパンチをポンポンとまとめるのが最近では主流だが、
あからさまに「ちょっと休むぜ」というラウンドを作るのは
チャンピオンにはあるまじき行為だが、この男の場合は許せる。
ジャブの打ち分けに特徴があり、ボディを叩く際には体を沈めながら
右を頬において後背筋を絞って伸びを出すが、
相手が打ってきたところで顔面に打ち返すジャブは
両足をそろえ、ガードに上げた肘の高さそのままに打つ。
牽制というよりも距離の測定だろう。
視界をみずから遮るほどのガードはmain streamから大きく外れているが、
「この隙間で相手の顔面がこの幅まで隠れれば自分の距離だ」ということを
常に頭に置きながら戦っているに違いない。
攻めに転じたときの当て勘の良さも相当のものだ。
4、6ラウンドのノックダウンはまさにそれの賜物。
もちろんパンチ力もミドル級では随一で、
対立王者のパブリックは打ち落としで相手のガードを壊すが、
これは重力の作用とガードを上げた際の肘の可動域による。
アブラハムの場合は水平方向からのパンチでこれをやるのだから、
パンチ力はパブリックよりも上だろう。
直接対決がなくなったのは残念だが、代わりにテイラーが待っている。

閑話休題。
アブラハムがもっと食べたがっているポテトというのは
おそらくドイツの伝統の一品であるアレだろう(名前は知らない)。
管理人も大学生時代にドイツ人の友人によく作ってもらい一緒に食べた。
輪切りにしたじゃがいもをよく茹でて、温めたチーズとかりかりのベーコンを挟み、
好みでペッパーを加えるやつだ。
10ラウンドに右ボディでダウンを奪った際に相手コーナーに
タオル投入を催促するようなジェスチャーと合わせて
アブラハムにさらに親近感が湧いたな。

考察 ~オラル~

序盤の右クロスカウンターに期待を抱かせたが、
王者のエンジンがかかってからは手も足も出なかったな。
一時期のミハレス並みの連打を12ラウンド繰り出すか、
強いパンチでガードの上を叩き続け、攻撃モードをONにさせないかしないと、
攻略はできないだろう。
だが、手数のボクシングはいつの間にか相手の距離に踏み込むことになり、
強打のボクシングはパンチの引きの遅さにつけこまれカウンターを浴びる危険性がある。
かと言って穴がないわけではないんだ。
セルヒオ・マルチネス、あるいはバーナード・ホプキンスなら
アブラハムを判定で退けられると見る。
しかし、ライオンハートが一番の武器であるこの挑戦者は
そこまでのボクシングスキルを持ち合わせてはいなかった。

WBC世界Lヘビー級タイトルマッチ

2009-08-03 22:56:33 | Boxing
王者 アドリアン・ディアコヌ VS 挑戦者 ジャン・パスカル

パスカル ユナニマスディシジョンで勝利 

考察 ~パスカル~

ロイ・ジョーンズ的でありナジーム・ハメド的でもあり、
fun to watchな選手だが、フロッチ戦で露呈したスタミナ難・体力難を
克服するために、脚を使い続けるプランを実行したが、
今度は顔面の打たれ弱さを暴露した。
階級差の問題だけでなく、もっと生得的なものなのだろう。
だからこそボディワークに優れ、ワン・ツーから返される相手の左フックは
鼻先でスウェー、左右フックでボディを叩いてから返される左フックにはダッキングと、
遠距離ボクサーのエッセンスを披露。
特に見所だったのは、両足をそろえたところでも時折見せたスウェー。
身体能力に依存するのは構わんし、出来るならやればいい。
だがこのムーブを操るのボクサーはハメドと同じく、
常にすっ転ばされる危険性を伴っている。
フィジカル・メンタルの両面でvulnerabilityを見せてしまった今、
腕をぶす挑戦者は目白押しだろう。
テイラーと戦わせてみると(塩試合愛好家としては)面白いと思う。


考察 ~ディアコヌ~

どうやって世界を獲ったんだと思わせるほど
強い、上手いという印象に欠ける選手だ。
粟生と同じく、自分から展開を作る能力に欠けており、
観ている側とすれば歯痒いが、陣営は歯ぎしりしていたことだろう。
スピードで煽ってくる相手は目や踏み込みのフェイントで対応するべきで、
コーナー、ロープへ詰める工夫はなかったのだろうか。
滑稽かもしれないが、タイソンばりにガードを上げて上体を振って戦えば、
もっとプレッシャーを与えられただろう。
それを可能にする膝の柔らかさや瞬発力はないが。