BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

WBC世界Lヘビー級暫定王座決定戦

2009-11-30 23:29:03 | Boxing
チャド・ドーソン VS グレンコフ・ジョンソン

ドーソン 判定勝利

考察 ~ドーソン~

前戦はジャブでコントロールしようとして大失敗したが、
今回は確実な学習成果を見せた。
打ち合いに徹底的に応じようとしなかったのは
自身のアゴへの不安からではなく、ゲームプラン通りに戦うことに集中したからだ。
ジャブを突いてあるいは下がり、あるいはサイドステップしたのは
消極的な戦法ではなく、歴戦のベテランに敬意を表したゆえだ。
長身サウスポーの教科書通りと浜田氏が評するそのスタイルの神髄は
ずばり『打たせずに打つ』である。
打ち合いへの誘惑を見事に断ち切り、
速く、長く、硬質な拳を正確にヒットさせ、
相手の攻撃は脚、ボディワーク、ブロックでほぼシャットアウト。
特に後半に見せた相手を呼び込んでの密着ディフェンスは見事。
頭と頭をこすり合わせるスタイルはボディへのgut check合戦となるが、
上体を立たせ両脇を閉め込んだストマックをケア。
キドニーは打てないわけで、小さなフックを引っかけて容易に抜け出した。
左を制する者は世界を制すと言うが、
距離を操る者はリングを制すのだ。

内藤-興毅でも感じたが、フェイントが間合いを制すのではなく、
間合いがフェイントを無効化するのか。
メイウェザーや徳山の難攻不落さの一端を垣間見た気がする。

考察 ~ジョンソン~

打ちつ打たれつの武骨なファイターに見えるが、さにあらず。
打たれた瞬間にとる体勢はナチュラルに相手のコンビネーションを防ぐ形になり、
ワンはもらってもツー・スリー・フォーはまともにもらわないのだ。
ウィービング、あるいは両脇を絞ってガードを上げる動作は
自身の攻勢(≠攻撃)への布石として機能した。
しかし、結局まともに届いたパンチは左ボディのみ。
コーナーから再三"Do it again! What are you waiting for?!"との声が飛んでいたが、
しつこさが身上の選手がしつこさを発揮できないのは、
相手が心理的に疲弊してくれなかったからだ。
フックの合間にインサイドから小さいパンチをねじ込んだ前戦のスタイルを封じめられたのは
相手のフットワークとハンドスピードによる。
同じ距離から同じタイミングで打っても絶対届かないし当たらない。
後半では打たせて距離を詰めさせる場面も演出したが、
相手の防御の良さに阻まれた。
どう見ても完敗だが引退や転級は考えられない。
なぜならこの男は骨の髄までボクサーだから。

あと5年は闘い続けられる。
私生活で破綻することもありえないだろう。
若手の踏み台どころか、希望の芽を摘んでしまう男だ。
だが長く戦えるスタイルを確立しているだけに融通が効かない。
この男と戦う若手は勝ち負けにこだわるのではなく、
どこまで自分のボクシングができるか、通用するかを眼目にすべきだ。

WBC世界フライ級タイトルマッチ

2009-11-29 22:32:09 | Boxing
王者 内藤大助 VS 挑戦者 亀田興毅

亀田 UDで勝利

考察 ~亀田~

猿面冠者だったのか。
エンターテインメント性の全てを犠牲にし、
ポイントを全てかっさらうことのみに専心した
見事なゲームプランと実行力。
パッキャオとは似ても似つかぬスタイルだったが、
どこかL・ビュテを思わせるスタンスだった。
清水が見せたアウトボクシングをよく研究したのだろう。
間合いを通常よりも2歩広く取り、相手の全体像を視界に収める。
ジャブには右フック、ストレートはバックステップもしくは左で迎撃。
単発具合は王者とドッコイだが、こちらは常にプラン通りだった。
フッカーの王者に対し、特に左ガードの置き所を一度も誤らず、
八の字ガードの真ん中から右を再三再四もらいはしたのもの、
これは王者のサンデーパンチではなかった。
この夜の戦いぶり、つまり相手と武器と防具を徹底的に研究し、
それ以上に自身の武器と防具を徹底的に検証し、
ゲームプランを間違いなく実行できるコンディションを作るならば、
長く防衛できるだろう。
そのためにはKOを捨てなければならないが。
案外、これで本格的に徳山みたいな渋すぎる路線に行けるのかも。
しかし、欠点も一つ見えた。
それはジャブが少なすぎるということでもなく、
コンビネーションが打てないという技術論でもない。
柔軟さやcoordinationに欠けるというphysical面でもない。
ボクサーに不可欠なエゴが欠落していることだ。
これだけの戦いを見せて、まだ親父が必要なのか。

考察 ~内藤~

単発強打を着弾させようという意識が強過ぎ、
さらにモーションの大きなフェイントに執着し過ぎで、
打ち合いの中でのサイドステップに長けてはいても、
下がる相手への追い足は上手くない。
あらゆる欠点をさらけ出した形になったが、
スタミナやタフネスへの不安はまったく杞憂だった。
スタミナ強化を強調していたが、技術的な向上は目指さなかったのか?
ワン・ワン・ツー(ワワン・ツーと言うべきか)とフック・ダック・フックだけでは
あまりに引き出しが少なすぎた。
カウンターパンチャー相手に正面に立ちすぎたが、
倒れないという自信が過信になっていたようだ。
判で押したように左をもらい続けたが、
最終回までスタミナを残していたように感じられたのは
皮肉にも打たれ疲れではなく、打ち疲れがなかったこと。
鼻はやっぱり早い段階で折れていたか?
ダメージと痛みは必ずしも比例しないが、
あれは精神に響くもらい方。
あれで斜陽から落日が確実に見えた。
頭を第三のパンチとして要所で使う選手だけに、
これで打ち合いに持ち込むことにためらいを覚えたのでは?
アゴの骨折はごく一部のターミネーターを除いて即終了となるが、
鼻の骨折は様々に作用する。
激闘型には厳しい負傷で、アウトボクサーにとっては逃げ切り決断の契機。
コンディションやメンタル、プランまで含めて結果的に完敗を喫した。
再起はあるのだろうか?

内藤VS亀田 海外予想記事

2009-11-29 16:17:14 | Boxing
Flyweight Dominance : Within Reach For Kameda Brothers
http://www.boxingscene.com/?m=show&id=23768

Daisuke Naito-Koki Kameda: The Pre-Fight Report Card
http://www.boxingscene.com/?m=show&id=23784

翻訳は時間がないので断念。
両方の記事とも亀田興毅の勝利を予想。
アメリカの予想は日本と対照的?
ま、あとはゴングを待つだけですね。

WBC世界フライ級予想

2009-11-28 18:40:08 | Boxing
管理人予想:内藤の小差判定勝ち

まあ普通にこうでしょ。
内藤は熊戦でのダメージがまだ残っていると見る。
打ち合いになったら思わぬカウンターを喰うかもしれないし、
思わぬパンチを浴びせるかもしれない。
序盤次第で内藤がアウトボクシングに出ることも考えられなくはない。
その場合はサウスポーを苦にしない、キャリアを活かしたポイントゲームで
時にヒヤリとする場面を演出しつつも、危なげなく勝利するだろう。

興毅は多分、大毅よりも相性はいい。
だが、最近の戦いっぷりを見るにもうひとつレベルが掴めない。
メヒコの友人曰く、「強いのか弱いのか分からない」
全く同感である。
日本のパッキャオを目指すの言や善し!
every trick in the book(反則除く)を見せてもらおう。
ハイレベルな試合は評価するし、低レベルな試合は評価しない。
オタク、マニアの審美眼は結局そこに尽きるのだ。

予想

2009-11-27 22:28:34 | Boxing
今月末の試合の予想は悩む。
どういう予想をするかよりも予想するかしないかで悩む。
まあ、きっと明日には予想するのだろう。
パッキャオや長谷川の試合前のようなドキドキ感は味わえていないが、
試合では楽しませてほしい。
そういう意味で今回の予想は難しい・・・と思う。

スーパーシックス Sミドル級予選リーグSTAGE1

2009-11-24 22:19:10 | Boxing
アルツール・アブラハム VS ジャーメイン・テイラー

アブラハム 12ラウンドTKO勝利

考察 ~アブラハム~

F・ローチやアメリカの有望なボクサーは最近、
「相手のミスを待ってもダメ。ミスは誰でも犯すもの。
 それよりも相手の癖を見抜くことが肝心だ」という
趣旨のコメントを盛んに出しているが、
アブラハムも何戦か前からこの境地に達したのだろうか。
IBF王者時代は「相手のミスを逃さず突くことができた」
というコメントを発していたが、この日の相手はレベルが違う。
戦後のインタビューでは初回からKOを狙っていたと言っていたが、
それはテイラーの癖を見破ろうとしていたということなのか。
テイラーにはグローブのサムの部分で鼻梁から前額のあたりを
小刻みにつっつく癖があるのは誰もが知っているが、
あれがその後のガードの隙間につながるということを見抜いたというのか。
まさか・・・
左右左のつなぎのショートの右に相手を眠らせるだけのパワーを秘めるのは
同階級の誰にとっても脅威である。
だが、本当の脅威はその一発を必ず的中させてくる当て勘。
小細工なし、駆け引きなしのボクシングに見えるが、
リング上で相対した時にだけ感じ取れる何かがあるのだろうか。
それを察知した瞬間というのは吹っ飛ばされる瞬間でもあるのだが。

それにしてもジョー小泉は以前からずいぶんアブラハムに否定的だねえ。
長いラウンドと強烈なKOの両方を堪能させてくれる稀有なボクサーなのにね。

考察 ~テイラー~

ジャブ、フットワーク、ワン・ツーのスピードを生命線とするが、
この試合ではジャブを機能させてもらえず、むしろ単発の左右フックが
相手の顔面を的確に捉えていた。
ボディ狙いは悪くなかったが、あれだけ猫背でアゴを引き、ぶっとい腕で
がっちり守られると打つところがなくなる。
むしろ強いパンチを入れようとするよりもガードの上を速射砲で撃ちまくり、
判定に持ち込む戦略の方が機能するのではと思う。
そしてテイラーはそれができるボクサーだ。
だが、ジャブが有効打たりえず、踏み込む右はカウンター被弾の危険を負うため、
結局はジャブに固執せざるを得なかった。
単発のジャブは一歩後ろに下がって受け流され、
踏み込みの前段のジャブ(特にダブル)はがっちり受け止められては、
プランを修正せざるを得ない。
テイラーと言えば相手と噛み合わない選手だが、自分のペースを守ることにかけては
相手が一枚も二枚も上手だった。
あのKOシーンは焦りでroutine workに陥った隙を突かれたのだろうか?
見えていたとは思うのだが。

ホプキンスを2度に渡って撃退し、名人ライトと分け、達人スピンクスを退けた
このボクシングマスターにしてパブリック、フロッチ、テイラーに劇的KO負けとはね。
白人パンチャーに勝てないkarmaでも背負っているのか。
渋く勝利し、ド派手に散るのはentertainmentとdiscouragementの極致。
嗚呼、哀愁のJ・テイラーよ、このままフェードアウトしてしまうしかないのか。
けどアメリカのホープ二人はお客さんにしてる黒人ボクサーだよ。

ところで、ジョーの駄洒落はジャーメイン・ポテトと予想したが外れてしまった。

WBO世界Sウェルター級暫定王座決定戦

2009-11-24 02:50:00 | Boxing
アルフレド・アングロ VS ハリー・ジョー・ヨルギー

アングロ 3ラウンドTKO勝利

考察 ~アングロ~

シントロン戦の敗北がまったくこたえていないのか、
そのファイトマインドは常に打たれたら打つ、打たれなくても打つで、
試合展開を自分のものにするための地固めを一切行わない。
眼や肩のフェイント、相手のパンチ力の確認など駆け引きをせず、
自らのアゴとパンチを頼みに攻撃一辺倒。
何戦か前までにあった老獪さやスイッチする癖がなくなった分、
力強さと危うさの両方が増したとでも言うか。
この危うさは魅力的でもあるが、ジンジルクやマルチネスのような
チャンピオン連中に通用するとは考えられない。
連打力という長所に隠れているが、この選手はガードの置き所が甘いと感じる。
アゴとテンプルのどちらのガードにも比重を割かないのは、
常に打ちやすい体勢を保つためとは思うが、
サイドステップや高速ジャブを多用する相手には、
ガードを上げる、もしくは近くせざるを得ず、
得意の連打を出す前に封じ込められるのではないか。
挑戦すべき王者は吟味しなければならない。

余談。
ダウン後の加撃は厳しく減点しなければ、一部のボクサーはつけあがってしまう。
レフェリングの重要性は試合裁きと同時に、ボクサーの矯正の意味もある。

考察 ~ヨルギー~

レフェリーが無能だったせいで壊されたね。
スキンヘッドは気が強く、打たれ強さも併せ持つか、
その逆にメンタルもフィジカルも弱いかどちらかの印象が強い。
この選手は気が強く打たれ弱い。
初回から相手に呑まれていたが、これは相手が悪かったせいか。
パンチをもらって効かされれば、クリンチに行くかムキになって打ち返すかだが、
この試合ではそのどちらも中途半端だった。
パンチが当たらない相手ではなかっただろうが、
ストレートにひるまずフックをかぶせてくる相手との対戦を想定していなかったのだろう。
早い話が暫定とはいえ世界王座の決定戦に出てくるレベルの選手ではなかった。
本来の筋を通すならシントロンが出てくるべきで、
WBAばかりでなくWBOも無軌道な王座戦乱発に乗り出したということなのだろうか。

WBC米大陸ウェルター級王座決定戦

2009-11-24 02:14:30 | Boxing
ヘスス・ソト・カラス VS アルフォンソ・ゴメス

ゴメス 6ラウンド負傷判定勝利

考察 ~ゴメス~

髪型一つでここまで精悍な顔つきに変わるものか。
コットには軽くひねられたが、この試合はガッティ戦の頃のような
シャープなストレートとコンビネーションが見られた。
華麗なスタイルと武骨なスタイルの長所が上手く組み合わさっているが、
相手が体力や体格に優る場合、そこをスポイルするような技術は目立たなかった。
自身がウェルターとしては標準的な肉体なので、身長・リーチに優る相手には
もう一工夫が必要となる。
アッパーを多用してくる相手ならばサイドへのステップが肝要だが、
武骨なスタイルの方が自身の中で強いのか、正面からのパンチ交換に応じてしまった。
ローブローその他の減点で勝ちを拾ったが、この選手は強い選手に負けることで
心が折れるようなことはなく、逆にさらに成長する契機とすることができる。
順調にキャリアを築いていけば平凡な世界王者になるか、
もしくはコラーゾのようなウェルター級の番人になるのではないか。

考察 ~カラス~

一時はコットのマルガリート戦後の復帰相手に検討されていた相手なので、
注目して見たが、コットにとっては相性の悪い相手だろう。
マルガリートを彷彿させる長身メキシカンでアッパーの使い手となればなおさらだ。
コットを脅かすのではなく、コットの復帰戦にはふさわしくない。
防衛戦の相手ならば、GOサインも出せただろうが。
この選手はファイタータイプの割に腰が軽く見えるが、
上半身の柔らかさで連打力を保持しており、
そのことが同時に打たれた際の衝撃を緩和している。
メキシコの大型(ウェルターを敢えてそう表現する)な選手は
アンドラーデ、マルガリートなど異様な打たれ強さを持つことが多いが、
この選手もその系譜に連なると思う。
取れる星を取りこぼしたが、メキシカンは敗北を教訓にする民族なので
これで後退したとは陣営も考えていないだろう。
本人も面構えから判断するに、この結果もカエルの面に小便だろうな。
次の試合では思う存分フラストレーションを解消させてもらうぜ。
そう言っているように見えた。

WBCユース・ウェルター級タイトルマッチ

2009-11-24 01:50:37 | Boxing
サウル・アルバレス VS カルロス・レオナルド・エレラ

アルバレス 1ラウンドeffective knockoutで勝利

考察 ~アルバレス~

2年ぐらい前のボクワーでちょこっと特集されてた奴だな。
筋骨隆々の肉体と打たせずに打つというポリシーが現時点では
良い方向に作用しているようだ。
若い割に、いや、若いからか、えらいハイペースで試合しているが、
ヘビーのT・フィールズみたいにならないように祈りたい。

考察 ~エレラ~

まあ、よくいるカマセ犬って奴ですね。
こういうボクサーはただの引き立て役であるばかりでなく、
試合という最高の練習環境をホープに提供するのだ。

Why One Champ Per Division Will Never Again Work

2009-11-22 00:36:57 | Translated Boxing News
毎度おなじみのJake Donovan氏の記事です。日本は世界的に見てもAとCしか承認していないという珍しいボクシング国です。海外と日本の温度差、ボクシング界の今後を考えてみるために格好の記事であると思い、翻訳の上、お届けします。原文はhttp://www.boxingscene.com/?m=show&id=22993を参照のこと。事実の誤認や誤記、誤訳の類はすべて管理人である「涼しい木星」の文責に帰します。

“なぜ一階級一王者制は今後機能しないのか”

我々がより前に進もうとするほど、より多くのファンが古き良き時代への回帰を要求する。

ボクシング界にはチャンピオンがあまりにも多すぎる。聞き飽きた指摘である。世界的潮流を過去のあるべき姿に戻そうとするならば、一階級に一人のチャンピオンだけが存在していた時代へと回帰する必要があろう。現代では本物のチャンピオンが誰であるか、もはや誰にも分からない。なぜならば、チャンピオンたちばかりでなく、彼らの母親までもがベルトを腰に巻いているように思われるからだ。

複数王者制が大規模な混乱のもとになっているという主張には多くの真実が含まれているが、これまで顧みられなかった点というのは、一階級一王者制度に我々が立ちかえった時、ボクシング界はどのように流れていくのかということである。

今年を例にとって考えてみれば、一階級一王者制度はボクシング史家や次世代の専門家の卵たちがかくあるべしと説くような紋切り型の解決策ではないことに得心していただけるものと思う。

完全無欠の制度などあり得ない。論ずるまでもないことだ。そして理論的に言えば、一人を宣してチャンピオンとする方が、3~4人の人間に「俺が王様なんだ」と吹聴して回らせるよりも遥かに道理が通っている。だが、衆目が一致して“チャンピオンと認める男”が相当の期間にわたってリングに上がることができないとすればどうなるのだ?

2009年へようこそ。

統一ミドル級チャンピオンのケリー・パブリックが、君臨は長く防衛は少ないという在位においてまたもや撤退の憂き目に遭った。ブドウ球菌感染のため複数階級を股にかけて戦うポール・ウィリアムスとの防衛戦予定が延期となったのだ。幾度となく調整と協議を繰り返した末の二度目の延期である。両者は当初、10月3日に相見える予定だったが、その後12月5日に日付をずらすこととなった。この予定が今回またも延期。中止とならなかったことをどう受け取るべきか。

パブリックは注目に値しない相手選手を相手にこれまでわずか2度の防衛、9月の後半に2年間の在位を数えるようになってしまった。

パブリックのタイトル防衛路線が信じられないほど落胆させられるものである一方で、階級の先頭に立っていながら、どういうわけか先陣を切っていこうとしない(divisional leaders failing to… well, lead)のはパブリックだけではないのである。

現在、真に正当な王座を保持していると主張できる8名のボクサーがいる。ウラディミール・クリチコ(ヘビー級)、トマス・アダメク(クルーザー級)、ゾルト・エルデイ(ライトヘビー級)、ケリー・パブリック(ミドル級)、マニー・パッキャオ(スーパーライト級)、ファン・マヌエル・マルケス(ライト級)、内藤大助(フライ級)、そしてイバン・カルデロン(ライトフライ級)である

パブリックを含む8人のうち、誰もがパウンド・フォー・パウンドのリストに記載するのはパッキャオとマルケスだけである。パッキャオはトップの座か、それに非常に近い位置に、マルケスは上位5位以内のどこかである。両者ともに長きにわたって挑んで来るもの全てと戦い、また複数の階級を股にかけて戦ったことでそれだけの名声を得るに至ったのだ。

唯一の問題は、彼らへの挑戦者たちのほとんど全員がもといた階級を飛び越えて挑戦してきたことだ。

オッズ通りの結果となるならば、11月14日はマニー・パッキャオに7つ目の階級でのベルトをもたらすことになるだろう。7階級のうち継承(lineal)王座は4つである。これほどの偉業はボクシング史を遡るとともに歴史に新たな一ページを書き加えていくという点で驚異的でもある。

パッキャオの打ちたてた数々の金字塔はどれも素晴らしいが、それだけでは証明できていないものもある。特定階級での覇権を明確に示す在位である。彼は階級最高のボクサー―またはその階級のチャンピオン―を倒す力を証明してみせた。だが、彼が王者として挑戦者たちを迎え撃ったことはこの数年間ない。

マルケスは現ライト級王者としての在位を含め、3階級制覇チャンピオンである。ホエル・カサマヨルを熱闘の末に倒し、ベルトを獲得した5ヶ月後の初防衛戦は桁外れの打撃戦となった。トップコンテンダーのファン・ディアスを打ちつ打たれつの壮絶な試合の末に打ち倒し、現代ボクシングの名勝負を作り上げたのだ。

次なる挑戦者の浮上を待つ間に、マルケス陣営の頭脳は引退を撤回してきたフロイド・メイウェザーJrに2階級を飛び越えて挑戦するのが賢明だと判断した。ファイトマネーは申し分なしの400万ドル。プロモーターの取り分80万ドルが差し引かれたが、メイウェザーの契約キャッチウェートの超過により臨時ボーナスを得ることになった。

しかしながら、報酬が常にリスクを上回るとは限らない。マルケスは本来の自分のボクシングをさせてもらえず、実質的な完封負けを喫することとなった。結果として、主だったボクシング誌のPFPランキングの降格を味わうことになってしまったのだ。

マルケスの今後については現時点では不透明である。待ち受けるは指名挑戦者のマイケル・カチディス。ただし、マルケスの将来に関する議論で急浮上してきた名前ではない。

リッキー・ハットンとの一大決戦についての交渉も最近では報じられている。実現するとなれば、間違いなく140lbかそれ以上のウェートでとなろう。また、パッキャオとのラバー・マッチの可能性もささやかれている。

ライト級ではマルケスは今でも階級全体を引っ張っていくべきリーダーと考えられているが、マルケス本人はそのことにさほど執心ではないようだ。

デビッド・ヘイの去ったクルーザー級が同様の運命を辿ることになるかどうかは、トマス・アダメクがどれだけ上手くヘビー級の肉体を作れるかにかかっていると言っても過言ではない。

アンドリュー・ゴロタとのポーランド全土を巻き込む同国人対決が済めば、同級の絵図はより鮮明になるだろう。とはいうものの、現クルーザー級のリーダーは、クリチコ兄弟のいずれかとの激突を来年今頃までに実現したいと考えているようだ。

昨年12月、2008年の年間最高試合の一つで、アダメクが3度のダウンを記録した末に継承王座を奪取したスティーブ・カニンガムとの再戦の提案もなされているが、アダメク自身からはこれに関して何のコメントも出されていない。

リターンマッチは不自然でも何でもない。ただメイン・イベント社だけがテレビ局の関心を得ることに腐心したに過ぎない。ビジネスの観点から、アダメクがヘビー級の水に合うかどうかをテストすることを批判することはたやすい。名勝負間違いなしの再戦がテレビ局の経営陣の関心をわずかなりとも得られないというならば、確かにクルーザー級に留まる意味はどこにもない。

だが、クルーザー級でのアダメクの今後はしばらく保留となる。アダメク自身はヘビー級でも好調だというが、望ましい条件が提示されれば、勇んでクルーザー級に復帰してくると見られている。

自分の階級のあらゆる挑戦者と戦うという気概に満ちた男であるとは言えまい。

ゾルト・エルデイやイバン・カルデロンといったチャンピオンたちにしてみれば、そのようなことへの関心はほとんど存在しないも同然のようだ。

エルデイの理解に苦しむライトヘビー級での王座在位は来月ようやく終結するかもしれない。たとえそれが不戦敗だとしてもだ。目指すはクルーザー級への進出。アルファベットタイトル獲得を目論み、ジャコベ・フラゴメニに挑戦する予定である。

予定されているこの試合は継承ライトヘビー級王者としての5年以上の在位において経験したどの試合よりも厳しいものとなろう。なぜならライトヘビー級では彼は下位ランカーを好餌とし、敬意を払うに足る世界ランカーたちとの対戦を避けるばかりだったからである。

カルデロンはその小さな体にベルトを巻くこと実に6年以上。過去2年はジュニアフライ級のリーダーとして過ごしてきた。

その間の防衛5度。タイトルを奪った相手であるウーゴ・カサレスへの連勝も含んでいる。メキシカンのライバルとのリターンマッチは、偶然のバッティングによって生じた傷のため突然の試合終了となり、このパターンはなんと3試合連続で起きている。

エドガル・ソーサやブライアン・ビロリアとの統一戦の噂はささやかれ続けているが、そのつど噂止まりである。一方で、彼も35歳の誕生日を間近に控えており、階級のリーダーたるとの評価にあぐらをかくというよりは、実戦でもってそれを証明できるような試合を戦う時間が残されていないのだろう。

現時点では、内藤大助のフライ級王座への君臨について非難すべき点はあまり見当たらない。今年7月に在位2周年を数えたが、2007年7月に内藤はフライ級史上最長防衛記録保持者にして長年の宿敵ポンサクレック・ウォンジョンカムを王座から引き摺り下ろしたのである。昨年の3月には前王者相手にドロー防衛も果たしている。

次なる防衛戦は11月の日本人対決。ワイルドな人気者、元ジュニアフライ級世界王者にしてトップ10の世界ランカーである亀田興毅との一大決戦である。

内藤が継承王座を真に守り続けている数少ない王者の一人であるというのは皮肉なことだ。なぜなら、フライ級には4人の世界王者が存在するが、統一戦は滅多に挙行されず。統一戦の可能性が真剣に検討されることすら稀なのだから。それでもフライ級は全てのチャンピオンたち―継承か否かを問わず―が自らのホームで築き上げた戦績を根拠に我こそは王者なりと主張できる階級なのである。

ウラディミール・クリチコはボクシング界の継承王者の中では最も最近その地位を得た。今年の夏前半の対ルスラン・チャガエフ戦の一方的な9ラウンドTKOの功績である。この勝利によりヘビー級の頂上にぽっかりと空いていた穴が埋まったのだ。2004年のレノックス・ルイスの引退表明以降、ヘビー級の頂点は負の螺旋に陥っていたのである。

彼のヘビー級の継承王座獲得はヘビー級に安定をもたらすはずだった。だが、クリチコが2009年の残りを休養に当てるということで、一人ならず二人のヘビー級トップコンテンダーのキャリアが前進の機を失い、肩の手術を行うということもあり、2010年のうちの数か月も彼の肩が回復するまではヘビー級の停滞は続くものと思われる。

2010年の3月に復帰してくるというのが本当ならば、試合間隔は実に9カ月以上に及ぶことになる。過去の栄光のほんのわずかな光明にすらすでに餓えている階級にあって、最高のボクサーが無為に日々を傍観するというのはどう考えても良いことであるとは言えない。

ボクシングファンがウラディミールとその兄ビタリが双頭の怪物であると不平を言い続けている一方で、ビタリがウラディミールが対戦できない相手と諾々と戦っているというその事実そのものがヘビー級のトップを活発にしているというのは何と皮肉なことか。ウラディミールは2009年に1試合を戦っただけと記録にされるであろう一方で、12月12日はビタリの年内3度目-直近14か月というスパンでは4度目-の防衛戦を行う予定で、そのべてが正当な1桁世界ランカー(サミュエル・ピーター、ファン・カルロス・ゴメス、クリス・アレオラ、ケビン・ジョンソン)相手なのである。

もしもビタリの腰にアルファベット承認団体のベルトが巻かれていなければ、ヘビー級のトップランカー達とのこれほどの連戦は起こらないだろう。今日のような時代にはなおさらのことである。

複数のアルファベット承認団体という選択肢がなくなれば、残された最高のボクサーたち(the rest of the best)は最高の中の最高(the very best)を目指して互いに戦うだろう。歴史家なれば当然そう言いたくもなる。しかし、一階級複数王者は過去20年のボクシング界の格付けや成功にとって不利益となるものではなかった。

一階級に二人以上のチャンピオンが存在することの唯一の問題は、チャンピオン同士が決して互いに戦おうとしない、そしてチャンピオンを王座から引き摺り下ろそうと目論む有力なコンテンダーにその機会が与えられないということだけなのである。さよう、これでは確かに誰が最高の中の最高なのかという混乱につながるばかりである。しかし、少なくともその謎を解き明かす道に至る可能性は存在している。

可能性はあくまで可能性である。だが、階級のリーダーとしてその階級をリードしていくことを放棄したリーダーよりもこちらの可能性の方が期待できる。王を名乗れるのは1階級に一人のみ。だが、ほとんど全ての階級のリーダーたちはもはやリーダーたりえていない。これが我々ボクシングファンを取り巻く現状なのである。