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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇エリー・アメリンクの歌曲名曲集

2008-12-04 11:29:55 | 歌曲(女声)

メンデルスゾーン:歌の翼に
ベートーベン:君を愛す
R・シュトラウス:セレナード
マスネ:エレジー
シューベルト:野ばら

ソプラノ:エリー・アメリンク

ピアノ:ルドルフ・ヤンセン

 エリー・アメリンクは、我々の世代にとってはクラシック音楽のアイドル的存在であった。気品のある例えようもない美しい歌声を聴くと“クラシック音楽ってほんとにいいですね”という思いが自然に沸き起こってきてしまうほどだ。ここに収められている曲は、みな寛いで聴くことができる名小品ばかりで、理屈なく楽しめる。音楽はある意味で数学的な理屈の芸術かもしれないが、それを超えた自然な感情を思い起こしてくれるのがこのCDである。アメリンクはこれらの有名な小品を完璧なほどの歌唱力で歌いきっているが、リスナーにとってはそれが押し付けに聴こえず、何か安らぎを醸してくれるところに、このCDの不滅の存在価値がある。「もうこれ以上の歌い方ってあるのかな」という思いもするほどの素晴らしい出来栄えだ。

 このCDの終わりの方に、山田耕作の「からたちの花」が収められている。それもアメリンクがピアノ伴奏なしで、しかも日本語で(!)で歌っている。聴いてみるとこれもなかなかいい。我々日本人が子供のころから聴いてきたあの「からたちの花」そのままなのである。よく考えてみると山田耕作は“洋行帰り”の最初の日本人で、100%日本の土壌から生み出された曲とはいえないので、アメリンクが「からたちの花」をアカペラで歌ったからといって格段驚くことではないかもしれない。ただもっと考えてみたいのが、この西洋音楽の小品歌曲の傑作が収められているCDの中で、山田耕作の「からたちの花」は決して他の曲に比べ劣っていないし、肩を並べていることだ。クラシック音楽というと、日本の演奏家や作曲家は“亜流”と見られがちであるが、もうこの考え方は捨てた方がいい。

 このCDのライナーノートをみていたら、石井宏氏が次のようなことを書いていた。「たとえば“赤とんぼ”のメロディであるが、あれはシューマンの“序曲とアレグロ”の中の一節から取っている。だが、多くの日本人にとって“赤とんぼ”は決してドイツ・ロマン派の音楽には聞こえず、むしろ子供の時代への郷愁をそそる音楽として聞こえるはずである」と。あの「赤とんぼ」がシューマン原曲とはつゆ知らなかったが、もともと、芸術にしろ技術にしろまったくのオリジナルなどというのは、実のところほとんどない。子供は学校で模倣することで知識を得る。それが大人になったからといって、がらりと変わるはずがない。数年前ある日本の画家が、外人の画家の絵を模写したということで槍玉に挙げられたが、私には少々かわいそうに思えた。なにしろゴッホも広重の絵をモチーフにして作品を描き、今では世界的名画として通っているほどだから(実はその広重も模写をして有名になったのだ)。

 もうこの辺で、日本も“日本発クラシック音楽”を世界に向けて堂々と発信した方がいい。例えば、日本の合唱界では有名な「落葉松」(野上彰作詞、小林秀雄作曲)などは、世界の著名な歌手に歌ってもらえば、世界中で高く評価してもらえるはずだ。ただ、受身で待っていては誰からも評価されない。積極的に世界に紹介する努力をしないと。今年9月に日本人として初めてフランス国立リヨン歌劇場首席指揮者に就任した大野和士は、以前から自ら演歌好きといっており(私もそうであるが)、この前テレビで「矢切の渡しがあるオペラの一節とそっくりなことを発見した。これはノーベル賞ものですよ」と言っていたが、将来、演歌が世界中で歌われることだってあるかも・・・。(蔵 志津久)


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