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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇エリー・アメリンクのモーツァルト&シューベルト歌曲集

2012-03-20 10:32:39 | 歌曲(女声)

~モーツァルト&シューベルト歌曲集~

<モーツァルト曲>
静けさがほほえみながらK.152
鳥よ,年ごとにK.307 
寂しい森の中でK.308 
すみれK.476 
魔法使いK.472 
別離の歌K.519 
ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いた時K.520 
夢のすがたK.530 
可愛い糸紡ぎK.531 
夕べの想いK.523 
クローエにK.524 
春へのあこがれK.596 

<シューベルト曲> 
糸を紡ぐグレートヒェンD.118 
歌の中の慰めD.546 
音楽に寄すD.547 
ガニメードD.544 
春のおもいD.686 
恋はいたるところにD.239―6 
笑いと涙D.777 
セレナーデ~きけ,きけ,ひばりD.889 
ズライカI:吹きかようものの気配はD.720 
ズライカII:ああ、湿っぽいお前の羽ばたきがD.717 
エレンの歌III:アヴェ・マリアD.839

ソプラノ:エリー・アメリンク

ピアノ:イエルク・デムス

CD:東芝EMI OC30‐9018

 オランダ生まれのリリック・ソプラノ、エリー・アメリンク(1933年生まれ)の歌声は、明るく澄んでおり、一点の曇りもない青い空を眺めているような、清々しさに加え可憐さも感じる。ドイツのソプラノのエリーザベト・シュヴァルツコップ(1915年―2006年)の声も美しいのではあるが、格調が高く、近寄りがたい気品に満ちている。それに対してエリー・アメリンクの歌声は、大変親しみやすく、気軽に聴くことができる。気軽に聴くことができる、とは言っても曲の捉え方は、実に正統的なものであり、少しも乱れはないのだが、歌声自体に温もりがあり、聴いていて何か心安らぐ雰囲気を辺りに醸し出すのだ。そのエリー・アメリンクがモーツァルトとシューベルトのリートの名曲を録音したのがこのCDである。既にアメリンクは、引退しているので、その意味でも貴重な録音には違いない。

 エリー・アメリンクは、当初からリート歌手に専念して、オペラ歌手とは一線を引いていた。ヨーロッパの歌手のほとんどは、オペラ歌手の傍らリート歌手もしますよ、というケースがほとんどであり、この意味からエリー・アメリンクの存在は特筆される。日本においては、オペラはそうしょっちゅう聴けるものではないが、リートのリサイタルの数は比較的多い。フィッシャー・ディースカウが来日の折「ドイツにいるとリートは死んだと思っていたがたが、日本で生きていた」と言った程である。この点でもエリー・アメリンクは、リート好きの日本人に特に愛されたソプラノ歌手であったろうと思う。エリー・アメリンクは、1958年にジュネーブの国際コンクールで優勝し、以後歌手としての道を歩んだ。歌い方は、大変丁寧で緻密なもので、この点からも日本での評価は高いものがあった。このことを本人も認識していたのか、山田耕筰や中田喜直などの歌曲を日本語で歌ったほどで、引退後も公開講座のために来日するなど、日本との関係は深い歌手であった。

 このCDは、そんな歌声にぴったりのモーツァルトとシューベルトの有名なリートが納められており、類稀な彼女の美しい歌声を思う存分堪能することができる。このCDの第1曲目に収められた、モーツァルトの「静けさがほほえみながら」を聴いてみよう。モーツァルトの翳りのない美しいメロディーに乗ってエリー・アメリンクの、それはそれは美しい歌声がリスニングルーム一面に広がる。エリー・アメリンクの顔は見られないものの、題名にあるように、彼女がほほえみながら歌っているに違いないとさえ思わせる歌声なのだ。現在でも、歌のうまいソプラノは沢山いるだろうが、こんなに聴いていてリスナーの心を和ませてくれる歌手は、あまりいない。というよりは、ほとんどいないと言った方が正確であろう。モーツァルトの最後の曲「春へのあこがれ」も、こんなに情感が篭った歌い方をした例を、これまで私は聴いたことがないほどだ。

 シューベルトの第1曲「糸を紡ぐグレートヒェン」も、如何にもエリー・アメリンク独特の歌い方に思わず聴き惚れてしまう。通常、この曲は暗く思わせぶりに歌うもであるが、エリー・アメリンクは自己の美学を決して捨てようとしない。あくまで、彼女の美意識に立ったシューベルトなのである。そして、最後の「アヴェ・マリア」は、彼女の歌の特質と曲とが完全に一体化して、この世のものとも思われないような、崇高な美しさに溢れかえった世界が目の前に出現する。こんな歌い方ができるソプラノは、もう出てこないのではないか、とさえ感じさせる完成度の高い、同時に暖かみに満ちた歌声なのである。なお、ここでのピアノ伴奏は、オーストリア出身のイエルク・デムス(1928年生まれ)である。先頃来日したパウル・バドゥラ=スコダ(1927年生まれ)およびフリードリヒ・グルダ(1930年―2000年)とともに昔「ウィーンの三羽烏」と呼ばれたピアニストで、ここではエリー・アメリンクとぴたりと息のあった伴奏を聴かせている。(蔵 志津久)


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