★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇メゾ・ソプラノ:藤村実穂子のシューマン/マーラー/ブラームスの歌の世界

2013-02-19 10:32:26 | 歌曲(女声)

シューマン:リーダークライス(異郷にて/間奏曲/森の対話/静寂/月夜/美しき異郷/城砦にて/
                   異郷にて/哀しみ/たそがれ/森で)

マーラー:春の朝/夏の交代(子供の魔法の角笛より)/美しい喇叭の鳴るところ(同)/つらなる想い

ブラームス:ジプシーの歌 (さあ、ジプシーよ/高く波立つリマの流れ/彼女が一番きれいな時は/
                                 神様、あなたは知っている/日焼けした青年が/三つのバラが/時々思
                 い出す/赤い夕焼け雲が )
       :甲斐なきセレナーデ/セレナーデ/日曜日

メゾ・ソプラノ:藤村実穂子

ピアノ:ヴォルフラム・リーガー

CD:フォンテック FOCD 9575

 このCDは、欧米で「最高のメゾソプラノの一人」と呼ばれ、現在、世界を舞台にフリーで活躍している藤村実穂子が、2010年11月7日(所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール)、2010年11年11日(紀尾井ホール)に行ったリサイタルのライヴ録音盤である。藤村実穂子の歌声は、メゾ・ソプラノという特徴が持つ奥深さに加え、さらに、より深遠な雰囲気を湛えた、例えようのないようなその質感に、聴いていて圧倒される思いがする。しかし、そこには重々しい雰囲気と言うよりは、抒情味を含んだ懐かしさがふんだんに込められているので、とても聴きやすい。このCDには、シューマン、マーラーそれにブラームスのお馴染みのリートが収録されており、藤村実穂子が醸し出す深遠な、そして懐かしくも楽しい歌の世界を存分に楽しめる。一曲、一曲が決して表面的な表現に終わることなく、微妙なニュアンスを巧みに表現しており、その味わい深さが、聴き進むうちに、徐々にリスナーの体全体に沁み渡ってくる。

 このCDにはシューマン、マーラーそれにブラームスの、我々にもお馴染みのリートが収録されている。この選曲は、多分、藤村実穂子が日本の聴衆が楽しめる曲目を選び、リサイタルを聴きに来た聴衆に楽しんでもらおうとする姿勢が垣間見えて、誠に好ましいものだ。シューマン:リーダークライスの第1曲「異郷にて」で、既にリスナーは、藤村実穂子の歌の世界に釘付けとなる。実にしみじみとしたシューマン独特の世界がそこには広がる。「間奏曲」「森の対話」で一層その思いが深まり、そして第4曲の「静寂」では、それが頂点に達する。奥行きの深い透明感のある藤村実穂子の世界が遺憾なく披露され、シューマンの歌曲が持つロマンの香りが辺りに立ち込める。冒頭で「現在、欧米で『最高のメゾソプラノの一人』と呼ばれ」と書いたことが、決して誇張でないことがこの1曲だけでも証明できそうだ。マーラーの歌曲において、藤村実穂子はまた別の一面を見せてくれる。シューマンがロマンの世界の発露なら、マーラーの歌声はドラマの世界の発露だ。このマーラーの歌曲では、藤村実穂子の歌劇での実績が遺憾なく発揮されているようであり、その伸び伸びとしたドラマティックな歌の展開に聴き惚れる。さらにブラームス:ジプシーの歌に入ると、その上に力強さも加わり、メゾ・ソプラノの本領発揮と言ったところ。そしてコケティッシュな一面も聴かせてくれており、ブラームスの歌の世界を充分に楽しめることができる。

 藤村実穂子は、東京芸術大学音楽学部声楽科を卒業し、同大学院修了後、ミュンヘン音楽大学大学院に留学する。在楽中にワーグナー・コンクール(バイロイト)で事実上の優勝を果たし、さらにマリア・カナルス・コンクール優勝など、数々の国際コンクールに入賞。その後、オーストリア、グラーツ歌劇場の専属歌手となる。2000年以降はフリーの歌手として、世界中で活躍している。2002年、バイロイト音楽祭の「ニーベルングの指環」において、日本人として初めてフリッカ役(「ラインの黄金」「ワルキューレ」)という大役に抜擢され、一躍注目を浴びる。その後も同音楽祭に毎年主役で出演し、9年連続出演という日本人新記録を立てる。日本での受賞歴は、第12回出光音楽賞(2002年)、第54回芸術選奨新人賞(2003年)、第37回エクソンモービル音楽賞洋楽部門奨励賞(2007年)受賞など。

  今回、藤村実穂子のCDを聴いてみて、「日本人が西洋音楽を歌っている」という範疇を、藤村実穂子はとうに超えて、既に「シューマンを、マーラーを、そしてブラームスをどう表現するのか」というレベルに達していることが聴き取れる。これは、決して無国籍のレベルになるということではなく、より一段高い見地で、日本人歌手として、どのように表現すべきなのか、ということを意味するのだと思う。ドイツ人が作曲した作品を、フランス人演奏家がフランス人として巧みに演奏するように、日本人演奏家の立場で演奏できるはずだ。藤村実穂子は、その先駆けの一人なのだと私には思われてならない。なお、ピアノ伴奏のヴォルフラム・リーガーはドイツ出身のピアニスト。1998年にベルリンのハンス・アイスラー音楽大学の教授に就任。現在、ヨーロッパと日本で定期的にマスタークラスを行っている。ここでのピアノ伴奏は、藤村実穂子との息も合い、藤村実穂子のリートの世界を巧みに演出することに成功している。(蔵 志津久)


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