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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇エヴァ・リンドが歌う“ウィーン愛唱歌集”

2010-09-16 09:39:17 | 歌曲(女声)

ウィーン愛唱歌集

ヨハン・シュトラウス2世:春の声/愛の歌/尼僧たちの合唱(オペレッタ「カサノヴァ」より)/レモンの花咲くころ/シーヴェリングのリラの花/皇帝円舞曲

ヨゼフ・シュトラウス:オーストリアの村つばめ

アルディーティ:話して!

ソプラノ:エヴァ・リンド

指揮:フランツ・バウアー=トイスル

管弦楽:ウィーン・フォルクスオーバー管弦楽団

合唱:ウィーン・フォルクスオーバー合唱団

CD:日本フォノグラフ(西独PHILIPS) 35CD-598

 ウィーンと聞くと誰もが“音楽の都”というイメージを思い浮かべる。モーツァルトをはじめ大作曲家たちが活躍したのだから当たり前なのであろうが、東洋人である日本人にとっても何かしら郷愁を呼ぶのだから不思議と言えば不思議なことではある。これは、シュトラウス・ファミリーの作曲家たちが書いたオペレッタや小品が、日本人の感性と相性がいいといことも少なからず影響しているであろう。昔、ウィーンの市長が飛行機の中で渥美清演じる寅さんの映画を見て、たちまち大ファンになったというから、何がしか気脈が通じるものがあるのかもしれない。今回のCDの最初の曲、ヨハン・シュトラウス2世作曲の「春の声」を聴いて多くの日本人が「いいな~」と感じると思う。昔から日本人は短歌や俳句などの“短い芸術”を得意としてきたが、ウィーンのオペレッタや歌も、長大というよりピリッとした小品としての切れ味が光るのである。

 こんなウィーンの愛唱歌を1枚のCDに収めたのが今回のCDである。歌うはソプラノのエヴァ・リンド。エヴァ・リンドは、1966年、オーストリアのインスブルック生まれ。このCDが録音されたのが1986年10月20日―25日、ウィーンなのでエヴァ・リンドが20歳のときということになる。第1曲目のヨハン・シュトラウス2世作曲の「春の声」を聴いただけで、彼女の“汚れを知らぬげの初々しい声”と清楚な姿に、誰もがうっとりと聴き惚れてしまうのに違いない。若さとというものが持つ無限の力を感ぜざるを得ない。特別声量が大きいというわけでもないし、飛び抜けての美声というわけではないのだが、その透き通る若々しい声を聴くと、ウィーンの雰囲気がわっと押し寄せて来るみたいで、何か幸福な気持ちに誘われるのだ。要は、毎年正月にウィーンから実況放映される“ニューイヤーコンサート”そのものといったところであり、歌がうまいとかへただとかの、つまらぬ理屈などを持ち出すのは野暮と言うものだ。今や中堅のソプラノとなったエヴァ・リンドは、今年来日して歌っていたようですね。
 
 ところで、ヨハン・シュトラウスは、多くの日本人が知っている作曲家の名前ではあるのだが、2世、3世さらにヨゼフ・シュトラウスとなると、「はて一体どいう関係なのか」とこれまた多くの人が、こんがらかってしまうのではなかろうか。そこでいい機会なので整理してみることにしよう。ヨハン・シュトラウス1世(1804年―1849年)は、 ウィンナー・ワルツの基礎を確立したことから「ワルツの父」と呼ばれており、要するにファミリーのドンだ。 ヨハン・シュトラウス2世(1825年―1899年)は、1世の長男であり「ワルツ王」と呼ばれる。

 単に「ヨハン・シュトラウス」と呼ぶ場合、通常はこの長男の2世を指すから話がややこしくなる。親父を超えて長男が有名になりすぎたためであり、親としては嬉しいのか悲しいのかという関係である。 ヨゼフ・シュトラウス(1827年―1870年)は、1世の次男でこの人も作曲家。 エドゥアルト・シュトラウス(1835年―1916年)は、1世の三男で同じく作曲家。このほかにもシュトラウス・ファミリーの一員で作曲家となった者もおり、正に作曲家ファミリーである。このようなことは、洋の東西を通してあまり例のないことではなかろうか。このCDは、ヨハン・シュトラウス2世の「皇帝円舞曲」で締めくくられているが、これまで管弦楽でしか聴いてこなかった曲が、ウィーン・フォルクオーバー管弦楽団を背景に、エヴァ・リンドのソプラノ、それにウィーン・フォルクスオーバー合唱団によって歌われると、また一味違った「皇帝円舞曲」が目の前に出現し、なかなか楽しいものだ。(蔵 志津久)


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