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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇チェリビダッケのブルックナー:交響曲第7番のライブ録音盤

2011-01-11 13:44:47 | 交響曲

ブルックナー:交響曲第7番

指揮:セルジュ・チェリビダッケ

管弦楽:シュトゥットガルト放送交響楽団

CD:ARKADIA CDGI 763.1

 ブルックナーは、9つの交響曲を作曲している。通常、9曲の交響曲を作曲すれば、自ずと性格を異なって作曲する方が当たり前であろう。例えば、ベートーヴェンであれば、よく言われるのが奇数番号の曲と偶数番号の曲の性格の相違である。奇数番号は、「第九」に象徴されるごとく、闘争心に連ねかれた不屈の意思が強く前面に押し出されている。これに対し、偶数番号の曲は、「田園」に代表されるように、温和で平和な感情が湧き出るような感じの曲である。ところが、ブルックナーに限っては、ベートーヴェンと同じ9曲の交響曲を作曲したが、9曲ともそう大きな性格の変化がない。これは違った意味で大変な作業であったと思う。要するに一つのテーマを追い続け、9曲を作曲していくのだから・・・。ブルックナーが追い求めたテーマは、いったい何か。最大のテーマは、神への祈りなのであろう。9曲を通して敬虔な宗教家としてのブルックナーの姿勢が貫き通されている。

 宗教的意味合いのほか、1曲の演奏時間が長いこともあり、ブルックナーの交響曲を愛好する人は、ある意味ではどうしても限られてしまう。ところがである、ブルックナーの交響曲は、一面では豊かな自然と共に生きる、自然への感謝の気持ちがいっぱい込められた交響曲でもあるのである。今、地球環境への関心が全世界で広がっているが、ブルックナーの交響曲の真髄は、今の環境問題への取り組みを予見したかのように、如何に人類にとって自然が大切かということを、淡々と表現している”自然賛歌”のかのように私には聴こえる。そういった意味から9曲のブルックナーの交響曲は、世界初の”エコ交響曲”と言っては言い過ぎかもしれないが、これらの曲が持つ別の側面が見えてくる。9曲のうちで比較的演奏されることが多いのが、第4番「ロマンティック」、今回のCDの第7番、第8番、第9番であろう。私は、これまで第4番と第9番(フルトヴェングラーの強烈な録音が印象深い)を愛聴してきたが、今回第7番を改めて聴いてみて、これも凄い交響曲だなと実感できた。

 そう実感できたのも、今回のCDが名指揮者チェリビダッケが振った特別なCDだからなのである。特別なCDという意味は、1971年8月6日にシュトゥットガルトで行われた「シュトゥットガルト放送交響楽団創立25周年記念演奏会」のライブ録音盤であるからである。ブルックナーの交響曲を聴くポイントの一つは、いい指揮者のものを聴くことだ。ただ、だらだらと演奏されては、長くて苦痛な時間を過ごすことになる。メリハリの利いた、ここが聴き所だとばかり演奏してくれるのがなによりだ。その点チェリビダッケは、ブルックナーの交響曲を聴くには最適な指揮者の一人だと、このCDを聴き終ると実感できる。セルジュ・チェリビダッケ(1912年-1996年)は、ルーマニア生まれた指揮者で、主にドイツで活躍した。第2次世界大戦直後、ベルリン・フィルの指揮者としてデビューするが、トラブルを起こしベルリン・フィルを去ったあと、ベルリン放送交響楽団首席指揮者、南ドイツ放送交響楽団(後のシュトゥットガルト放送交響楽団)の音楽監督(今回のCDが最初の客演指揮のライブ録音で大変好評だったため、後に音楽監督に就任の切っ掛けになったという)、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督などを務めた。

 このCDはライブ録音盤であるが聴きやすい音質で収録されている。第1楽章の出だしから、ブルックナー特有の曖昧模糊とした弱音が、ゆっくりと姿を現すが、チェリビダッケは、単に曖昧さを強調するばかりでなく、豊かでまろやかな音を演出してくれるので、誠にもって聴きやすいし、妙に神秘的になることもない。第2楽章は、一番指揮者の力量が現れる楽章であるが、チェリビダッケは本当に感動的に曲を盛り上げる。その内省的な表現は、あたかも美の極致とでもいったらいいような境地にリスナーを誘う。しかし、決して宗教的な深みだけでなく、普遍性のあるものだけに私などは共感できる。第3楽章は、誠に印象的なスケルッツオがこれまでの内省的な雰囲気を一挙に取り払い、思いのたけを天にも届けとばかりオーケストラが奏でるが、チェリビダッケは、劇的な表現と静寂さを、ものの見事バランス良く指揮するので、かえって印象が強く残る演奏となった。第4楽章は、オーケストラの音の美しさを純粋に愉しむことができる。もう、ブルックナー節がどうのこうのということより、オーケストラの持つ音の表現力の幅広さを前面に提示することにより、聴く人が神、自然、宇宙といったことを、それぞれ思い描くのかもしれないない。チェリビダッケは、最後まで徹底して緻密に冷静にブルックナーの世界を描き切っていることに感心した。(蔵 志津久)


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