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「軍艦島 -海上産業都市に住む-」 伊藤千行(写真) 阿久井喜孝(文)

2010-01-11 17:46:51 | 書評
1946年から閉山(1969年春)直前まで軍艦島で鉱夫として働いてきた伊藤氏(故人)の写真に解説をつけた本。
廃墟としての軍艦島を取り上げる本やドキュメンタリーや小説ばかりを目にしていたため、これは意外なところを突かれた感じがした。当然ながら生きていたときの軍艦島は活気にあふれている。当たり前の話だが。詳細は省略するが、例えば昔の銀座の町並みを撮影したものとか、どこかの企業城下町を撮影したものとさして変わる印象ではない。つまり今(変形してなお)生きている街の過去の光景と本質的には違わない印象である。
写真を撮った人のご夫人が対談に出ていたが、離島後は別にたずねちゃあいないとあっけらかんとおっしゃった。それから、「いつも軍艦島が廃墟として紹介されるんで残念だ」ともおっしゃってた。

もっともだね。閉山後の廃墟を見ていろいろ想像を膨らませるのはいいが、それは勝手な感興であって、生きていたときの軍艦島とか、住んでいた人の気分とかとさして関係があるわけじゃあないかも知れんな、と醒まされた気がする。ちゃんと生前をしのべるものがあればそれをよすがに往事をしのぶのが正しい接し方なんだろう。ほかの遺跡の類でも自分が誤解しないように用心したほうがいいね。いや、感興を持つのがわるいっていうわけじゃあないのだが、それが身勝手な思い込みかもしれないと用心する知的自制は必要だろうなあ、ということ。

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