御託専科

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「生命保険の罠」後田 亨

2009-07-01 06:45:05 | 書評
知り合いの若い女性が語ったこと。彼女も友人たちも就職氷河期に学校を出て、就職にえらく苦労した。それで生命保険営業の職を得た人も2-3人いた。しかし、案の定というか何というか、親戚・友人+αに入ってもらったところで行き詰って辞めたそうな。せっかく氷河期に手にした仕事だというのに。
業界出身者としては、お決まりのパターンが今でも変わっていないんだなあ、今でもやっているのかい、との感慨を持ったのだが、そのとき彼女が発した「なんであんな仕事があるんですか」という、疑問のような静かな憤りのような言葉はずしんと響いた。
ほんと、なんであんな仕事があるんだろう。保険を売るのは良いとしても、品物の良し悪しを論じさせるすきも与えず、傾斜の強いヒエラルキーの中、末端へ末端へとプレッシャーをしわ寄せして行くえげつなさ。その先でどのようなゆがんだことが生じているかを知りつつもやり方を変えない会社。かつてのサラ金とさして変わりはない。それが放置されるどころか強化されている。そして、思えば僕はその土壌の提供する栄養吸って育ったのだ。なんということか....

さて、書評である。著者は長らく日本生命で保険を売り、のちに複数会社の保険を扱う代理店を知り合いとともにおこしている。ミリオンダラークラブに入ったりしているようなので繁盛しているようだ。保険を製造する側が売る側と一体だと上記のようなことが起きるわけだが、こういう代理店が増えるとかなり健全なプレッシャーが保険会社にかかるので大変良いことだ。あとは消費者の方が知識をつけて、代理店・販売者への正当な圧力を正当な選好を通じてかけてゆくということかな。もしかしたら保険販売文明開化は目前かもしれない。
保険業界を告発する口調のバランスのよさは秀逸である。感情的に攻撃するだけの悪しき告発本ではないし、もちろんべた褒めする御用本ではない。保険を扱って売る人間として保険会社に対等の立場で要望を言えばこのようになるのだろうな、と思わせる、実務的で冷静な内容である。ご本人の立場(代理店)がそうさせる面もあろうが、ご人徳かなあとも思う。

なお、著者の言っていること、薦めていることは保険出身者にはまったく同意できることばかりである。最後の方にあった著者の会社の若い同僚の保険選択はさすがとうならされた。皆さん是非参考にするべきだと思う。それから、著者がいう良い保険の見分け方(販売員に「貴方はどんな保険に入っています?」)は、卓見といえよう。

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