御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

中上健次 「地の果て 至上の時」

2009-11-24 21:24:33 | 書評
ちょっと長い中断を含んだので結局半年近くかかったろうか。
それにしても長い話がだらだらと続く。秋幸とその父龍造の愛憎を軸にして些事の積み重ねのような出来事が次々と積み重ねられる。水の宗教の教祖の母親が死んで腐乱死体となって人前に披露されるようなことはあったものの、最後の龍造の自殺とヨシ兄が鉄夫に銃で撃たれるところまではある種淡々と日々が積み重なってゆく。もちろん紀子の家出のような事件もあり、けっこうドラマチックなことは起きているのだが、大事とも扱われず話は進む。濃密な文体のせいか、山とか先の楽しみをもたせないのになぜか600ページあまりを読んでしまった。
しっかし、枯木灘の時も思ったが、この愛憎と暴力の気配がない混ぜになった世界はなじみの手触りがある。そういえば龍造はうちの隣に住んでいたおじさんと重なる。僕らにはいいおじさんだったが、焼け野原になった町の土地を好きなように我がものにして財を為した悪党だ、との噂もあった。

少々解説の類を見たが父殺しだとか王がどうのこうのとかいって、やっぱりなんか間違っている気がした。これはなじみとか直感的な手触りの世界ですよ。愛憎と暴力の気配のある世界、恐らくかつて日本の地方に常にあったと思われる世界、になじみがあるかどうかだろうな。