御託専科

時評、書評、そしてちょっとだけビジネス

田村隆一「腐敗性物質」

2009-11-10 22:36:24 | 書評
腐刻画

 ドイツの腐刻画でみた或る風景が いま彼の眼前にある それは
黄昏から夜に入ってゆく古代都市の俯瞰図のようでもあり あるい
は深夜から未明に導かれてゆく近代の懸崖を模した写実画のごとく
にも想われた

 この男 つまり私が語りはじめた彼は 若年にして父を殺した 
その秋 母親は美しく発狂した

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うん、やっぱりすごいね。
この詩を巡ってある人と話になり、現代詩文庫の田村分をなくして以来ネットで我慢していた(というよりネットでいつでも見られるからと思い見ずに安心していた)が、まあこの際と思ってネットで本を探してみると自選詩集とされているものがあったので早速買い求めた。

で、この際と思い通読して思ったこと。
①到着するまでに久々に宮沢賢治とか中原中也とか丸山薫を引っ張り出して眺めていたのだが、それらに比べて田村の何とごつごつしていることよ。詩人としての巧みさ・洗練は決して高くはない。
②それでも、「四千の日と夜」に収められているものは無骨なまま、ごつごつしたまま、恐ろしくよく響いてくる。それまでのクラシック音楽に対するストラビンスキーの登場のように。上の詩も含め、「荒削りでわけがわかんないけどすごい」、と思わせるものが多い。
③しかしそれ以降のものは今ひとつ響かない。むしろ偽悪的に聞こえてくるものもあり、あまり良い趣味を感じない。
④終戦ののちの時代背景が田村をして詩を吟ぜしめ、田村は詩を発することにより生きることができたのだろう。しかし、そのあとは蛇足だったのでは。つまり必然の詩は「四千の日と夜」にすべて吐き出されたのだ。