ちいちゃんのひとりごと

ちいちゃんのひとりごとを勝手気ままに書いています。

「菊乃の気持ち」9

2016年02月07日 | 介護
2016.2.7
 あるとき佐久間からメールが来た。
「菊乃さん、正式に僕と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」
菊乃は迷った。返事に困っていた。菊乃は母親が不倫の末に生まれた子である。父親の顔も名前も知らない。生まれる前に父親は亡くなったと言うことになっている。嘘は付き通せない。菊乃は佐久間に「とりあえずお友達で良ければ…」と返事をした。
「お友達ですか?お友達から恋人に…」
菊乃はあくまでお友達と言い続けた。
 菊乃はあるとき再び佐久間に会った。佐久間の車に乗り、佐久間の運転に任せていると一件の家の前に車が止まった。
「僕の実家です」
佐久間が言った。
「あの、何も持って来なかったんですけど…」
「構いませよ。さあどうぞ!」
菊乃は佐久間に言われるままに車を降りた。佐久間がドアのチャイムを鳴らすと中から声がした。
「良夫?」
女性の声だった。ほどなくしてドアが開いた。
「ただいま!今日は母さんに合わせたい人がいて連れてきたんだ!」
「さあさあ入って!」
菊乃は言われるままに玄関に入った。佐久間が母に言った。
「紹介します。森菊乃さんです。現在お付き合いしています」
「はじめまして!森菊乃です!」
母はあわてて奥から良夫の父を呼んだ!
「お父さん!お父さん!」
父が玄関までやってきた。
「玄関ではなんですからとりあえず中へどうぞ!」と、母がすすめた。
「お邪魔します!」良夫も菊乃も靴を脱いで家に上がった。
二人は居間に通された。少ししてお茶が運ばれた。最初に良夫が口火を切った。
「紹介します。いま僕が真剣にお付き合いしようと思っている森菊乃さんです。24歳のトリマーさんです」
「父と母です」菊乃は少しびっくりしたが「初めまして!森菊乃です。トリマーをしています。お店で知り合いました」
菊乃はそれだけ言うのが精いっぱいだった。
「良夫の父の健二です」
「母の郁子です」
「お店のお客さんで毎月ワンちゃんを連れてきてくれるんですよ」と、菊乃が言った。
「良夫のどこが良かったんですか?」
「わかりません!まだお店以外では2回しかお会いしたことがないので…。でも真面目そうな方ですね」
「菊乃さんと言いましたか?良夫は菊乃さんのどこが良かったのかい?」
「真面目で誠実そうだったから…」
「今日会って今日で二人の交際を認めるわけにはいかないな」
良夫の母が言った。
「失礼ですが2~3お聞きしていいですか?」
「はい!」
「ご家族は?」
「母と祖母の3人です」
「お父様は?」
「とっくに亡くなりました」菊乃はとっさに嘘をついた。もしかしたら父親はどこかで生きているかも知れないと思った。
「祖母に育てられました。母はずーっと今でも働いています」
「ご苦労なさったんですね」
黙っていた父親が話を始めた。
「お母様のお歳は?」
「52歳になります」
「失礼ですがお仕事は?」
「保険の仕事を…。セールスレディなんです」
父の中にそれだけ聞くとピンときたものがあった。もしやと思った。
「大変でしたね。母子家庭ですか?で、お母様のお名前は?」
「澄子です!それが何か?」
父は菊乃の口から「澄子」と聞いてびっくりした。
「森澄子」そうです。それは…。

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