ぶつぶつ地蔵

地蔵 呟く ひーの言葉を。ぶつぶつと…。

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アインシュタインからアトムへ

2005-12-12 02:51:08 | 舞台関係
「我々の仕事は真理の追及です。それがどう利用されようと、それは我々の問題じゃない。そこに真理がある限り、我々はそれを追及する義務があるんです。」

これは、1994年『アインシュタインの子供たち』のパンフレットで柳恵三が言っている言葉である。
そして、2005年『アトムへの伝言』
柳博士の意向のもとで造られた最高のエンターテイメント・ロボット『カッパ』

『アインシュタインの子供たち』と称された天才科学者が作り出した世界で初めてのヒューマノイドは、世界で初めて人殺しの道具として利用された。
この物語はアトムへの伝言でありながら、アインシュタインの子供たちの懺悔の物語りでもある。そしてその心の行方は、アトムへの伝言となる。
真理を追及する事で、人を傷つけるロボットを(柳以外は)「知らなかった」とは言え、造ってしまった自分達から世界への。また、もし知ってしまったとしても、その探究心を押さえられたか?という自分自身への。

人殺しのロボットを作り出したのが悪なる科学であるならば、その悪を越える事ができるのはただ一つの善なる科学だけである。と柳は言い、新たなヒューマノイドの開発を始める。しかし柳本人は過去の重圧に耐え切れず狂気の嵐の中へと落ちてしまう。
柳の言葉から研究されたのが、芸人の持つ至高のテクノロジー「笑い」。その力を持つロボットがカッパだったのである。
稀代の芸人、海老乃家ラッパに弟子入りし、カッパは精進を重ねる。アインシュタインの子供たちの心を乗せて。
海老乃家ラッパはかつて相模サブローと組み、ガツンと殴られたり飛ばされたりしても「ちぃ~とも痛くない」というギャグで一世を風靡した芸人である。相方の死と共にそのギャグは封印され、テレビで見る事がなくなった。
いよいよそのラッパとコンビで売り出すというその時に、嵐が来る。それは、『過去の傷』という名の嵐だったのかもしれない。
過去があるからこそ、現在はある。しかし過去は時として、その過去に捕われ過ぎた時に現在に侵食して来る事もある。

それは、ラッパの相方の忘れ形見が欲に目が暗んだ時だったのかもしれない。
それは、風化しつつあったアインシュタインの子供たちの過ちが世間の話題に上った時かもしれない。
そしてその原因は、ロボットであるはずのカッパが心を持ったせいかもしれない。

機械は夢を見ない。
なぜなら、機械の頭脳は入力されたデータであるから。
なのにカッパは夢を見た。
自分を作り出した笑いを理解出来ない科学者達が自分の突っ込みを見て笑う夢を。
笑う。お腹をよじって笑う。
これは、柳が。そして科学者全員が望んだ夢であったのだろう。

師匠への侮辱に耐え切れなかったカッパは、人を傷つけてしまう。
狂気の嵐が去った柳博士の現実は、アインシュタインの時よりも酷い悪夢であった。
人間よりももっと上等な心を持ってしまったが為に、カッパはバラバラに消し去られる運命となる。
師匠であるラッパは、カッパの為に最初で最後、最高の晴れ舞台を演出する。

『地雷』と言うものをご存じだろうか。
この地雷をネタにしたコントが数多く存在するらしい。
ラッパがカッパに与えた最高の舞台は『地雷』を使った芸である。
地雷ってね、踏んだ時には爆発せず、足をあげた瞬間にスイッチが入り爆発するんだって。だから、地雷を踏んでもそのスイッチを入れない限りは爆発はしないんだ。

科学者達はいろんなものを見つけだし、造り出す。
その中には、思いもよらない使い方をされているものも沢山あるのだろう。

ラッパは地雷の恐ろしさを世間に知らせるため、それが人の心から消えないくらいのインパクトのあるものとして残るように、カッパに地雷の自爆芸をさせようとしているのだ。

何千万も掛けた本物そっくりのセットを破壊する時のリアリティーように。
人間そっくりなカッパというロボットが地雷の恐ろしさを伝える。一世一代の世界で唯一の。カッパだけの芸。

最後にカッパが言う。
「ちぃ~とも、痛くなぁ~い!」


自分達が追及したものが、もし、方向を過ったなら。その行く手を塞がなければならない。
歴史の始まりには、大きな犠牲がつきもの。新しいロボットの可能性の為の犠牲。

ずっと気になっている事がある。
柳博士は狂気の先に、カッパを見て「笑え」たのだろうか。


暗転の後、キラキラとカッパの笑顔が舞台を埋め尽した。







今回の扉座の舞台は本当にいろんな事を考えさせられた。毎度考えさせられるんだけど、それ以上に
実は、前回の『アインシュタインの子供たち』を見ている私なのだが、からきしストーリーを覚えていないのである。なんか、恐くて難しい・・・って印象だけ覚えてるんだけど。
今回は、凄く笑えて、凄く泣けて、凄く痛い物語だった。ホントに心がいろんな刺激を受け過ぎて観劇後はヨレヨレに疲れちゃうくらい(ついでに泣き過ぎで顔ボロボロやし
とにかく見終わった時の正直な感想は「横内、凄い・・・」でしたもん。それ以外思い付かなかった。
沢山の人に見てもらいたい作品だった。そして、いろんな感想を聞きたい作品だった。特に、何かを造り出すお仕事をしている(これからする)人には是非是非見て欲しいって思った。

そうそう、観劇後に柳博士役の杉山さんに聞いてみたの。オイラの疑問
オイラ「全ての原因の柳博士はラストのカッパのギャグで笑えたのでしょうか?私、柳博士が笑ってくれないと、この物語は救われないと思うんですけど・・・」
杉さん「いや~、博士は病因送りでしょ。」
オイラ「・・・ちぃ~とも救われなぁ~い~~~~