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「地震が事故原因の可能性」なら、なぜ大飯の再稼動を止めないのか

2012年07月16日 23時42分09秒 | Weblog

[地震が事故原因の可能性」なら、なぜ大飯の再稼動を止めないのか


(東京新聞「こちら特報部」)yori

国会事故調の報告書  東京電力福島原発事故について、国会の事故調査委員会が発表した調査報告書。

 これまで津波を事故原因としてきた各種の報告書と違い、地震でシステムが損傷した可能性を初めて指摘した。

そうならば、津波対策に終始した関西電力大飯原発の安全性は担保されないことになる。

なぜ、政府は大飯原発を止めないのか。

再び「安全神話」を強いる政府に対し、国会はどう対応するのか。

 (出田阿生、小倉貞俊)

 「地震による損傷の可能性は否定できない」-。
 
国会事故調報告書の最大の特徴は、事故原因についてのこの文言だ。

 福島原発事故の検証では、政府事故調、民間事故調、東電の調査報告書が公表された。
 
だが、事故原因に津波のほか「地震」を加えたのは国会事故調が初めてだった。

 「事故原因は津波だけではない。
 
地震が原因のひとつである可能性もあることを排除するのはおかしい」。
 
国会事故調で委員として真相究明に取り組んできた田中三彦氏はこう強調する。

 田中氏は原子炉圧力容器の元設計者で、現在は科学ジャーナリスト。
 
東電が公表しなかった写真を取り寄せ、現場の運転員らに聞き取り調査をするなどして、東電発表の“ウソ”を暴いた。

 福島第一原発1~3号機で炉心溶融が起きた原因について、東電はこれまで一貫して「津波で非常用電源が壊れ、原子炉を冷却できなくなったため」と主張してきた。


 ところが、津波の到達時間と東電発表の原発データの間に矛盾点が見つかった。
 
東電のデータによると、非常用電源が失われたのは震災当日の午後三時三十六分~同四十一分。
 
この時間帯よりも先に津波が到達していなければ「津波が原因」という説明がつかない。

 東電は到達時間を「第一波が午後三時二十七分ごろ、第二波は同三十五分ごろ」としたが、田中氏らが調べると、これは沖合一・五キロ地点での波高計の記録だった。
 
実際の到達時間は、これより二分以上後になる。

 東電から事故当日の写真を入手すると、第一波で海抜四メートルの原発のポンプ取水場が冠水した様子はなかった。
 
これは原発近くの海上にいた船長の証言とも一致した。
 
つまり問題は第二波で、同三十七分以降に津波が到達していたとすれば、三十六分時点の電源喪失の説明がつかない。

 つまり、津波だけが過酷事故を招いた原因ではない可能性があった。
 
それでは、地震で配管が壊れた可能性はないのか。
 
そこで田中氏らが注目したのが「音」だった。

 外部電源を喪失すると安全設計上、タービンへ蒸気を送る「主蒸気ライン」が遮断され、原子炉が隔離される。
 
原子炉が停止しても、燃料の崩壊熱で原子炉内の圧力が上がり、「主蒸気逃し安全弁」が開き、蒸気が格納容器の下部にある圧力抑制室に流入する。

 主蒸気逃し安全弁が開くと高い圧力の蒸気が配管から激しく噴出し、圧力抑制室の壁に当たるなどして轟音(ごうおん)を響かせるという。

      ◆

 事故当時、全電源が喪失した1、2、3号機の内部は真っ暗闇だった。
 
機械の作動音さえ消える中、辺りは静まりかえっていた。
 
唯一の例外がこの弁を開けた時で、ドーン、ズーンという大きな音が響き渡る。
 
「2号機と3号機の運転員はこの音を聞いていたが、1号機からは音が聞こえていなかった」と田中氏。

 なぜか。「圧力容器に接続している配管のどこかが破損し、そこから冷却材が格納容器内に噴出し、最終的に圧力抑制室に流入していれば、大きな音は生じないと思われる」

 国会事故調が明らかにしたのは、津波だけでなく、地震対策を充実させる必要があるということだ。ところが、政府は大飯原発の場合、安全評価(ストレステスト)の一次評価だけで、再稼働を決めてしまった。

 「安全評価は最悪事故に至るまで、どの程度の余裕があるのかを調べるだけ。
 
耐震性を調べるのなら、原子力安全・保安院が二〇〇六年に出した耐震設計審査の新指針で再評価(バックチェック)しなければならない。
 
大飯のように再評価を終えていない原発は再稼働すべきではない」

 保安院は新指針と同時に全国の原発での再評価実施を要請した。
 
だが、それには活断層が連動する可能性を調べるなど、膨大な時間と経費がかかる。
 
ちなみに現時点で、再評価を全て終えた原発はない。

 大飯原発では、敷地内を走る破砕帯(断層)が活断層の可能性があり、周辺に走る三本の活断層と連動する危険がある。
 
関電は破砕帯の写真すら「現在探している」として公表していない。

      ◆

 「大飯原発を動かすかの判断は、報告書が出るのを待ってからにするべきだった」。
 
与野党議員三十人からなる国会事故調の上部機関「両院合同協議会」の幹事、川内博史衆院議員(民主党)はそう語気を強めた。

 川内氏も今回の報告書での「地震による配管損傷の可能性」という点を重視する。
 
「報告書が先に出れば、再稼働に踏み切れなかった。
 
原子炉等規制法には災害防止上、支障がある原発は設置を許可してはいけない定めがある。
 
今からでも大飯原発を止めるべきだ」

 今後の焦点は、報告書の内容がどう生かされるかだ。
 
国会事故調の役割は、設置根拠の「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」では報告書を衆参両院議長に提出した時点で終了する。
 
一方、報告書には「国会に原子力問題に関する常設の委員会を設置する」「原子力法規制を見直す」など七つの提言が盛り込まれた。
 
これらの扱いは国会の意向次第だ。

 報告書について、野田首相は九日の衆院予算委員会で「迅速に対応するものと、吟味して対応するものを整理していく」と答弁。
 
細野豪志原発事故担当相も六日、記者会見で「政府もしっかり分析した上で対応する必要がある」と述べた。

 だが、このまま「報告しっぱなし」で終わりかねないという懸念は拭えない。
 
日本大法学部の岩井奉信教授(政治学)は「報告内容は国会の提言として衆参両院で決議したり、立法化したりすることが望ましい。
 
とはいえ事故調は法的には役割を終えており、このまま『ショー』として幕引きになってもおかしくはない」と指摘する。

 「民主党も自民党も原発を推進したい立場だ。
 
実効性を持たすには、事故調設置の際、法律に『提言をどう活用するのか』まで付帯決議として盛り込む方法もあった」

 川内氏は「事故調は国会が全会一致で設置した憲政史上初の調査委員会だ。原発の運転停止も、(提言で示された常設の)委員会で協議していくべきだ。国会は立法機関であって権力闘争の場ではない」と語った。

<デスクメモ> 「地震が事故原因である可能性は再稼働への疑問を増している」-。
 
五日付の米ニューヨーク・タイムズ(電子版)はこう伝えた。
 
政府は盛んに電力不足が企業の海外競争力を奪うという。
 
だが、安易な原発再稼働が日本に対する信頼をいかに損ねていることか。
 
そこに気づかぬ政権の鈍さに嘆息する。(牧)

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