サリンジャーが21歳の時に、発表したデビュー作品(1940年)です。
パーティで出会った、あまり魅力的でない女の子と、これまたパッとしない男の子の一瞬の出会いと別れを描いています。
女の子は魅力的だった年上のモト彼(たぶん彼女の一方的な思い込みでしょう)のことを話しますし、男の子は部屋の向こう側で男の子たちに囲まれている小柄なブロンド美人が気にかかっていて会話中も気がそぞろです。
ストーリーらしいストーリーはないのですが、当時の若者たちを、彼らの使う若者言葉で描いたところが、それまでの文学にない魅力だったのでしょう。
この手法は、1951年に出版されて世界的な(特に日本では人気が高いです)ベストセラーになった「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(その記事を参照してください)で大きく開花して、サリンジャーの名前を不滅なものにしました。
ところで、この本を初めて読んだ大学生の時には、主人公の女の子のことを読んで「壁の花」と言う言葉を思い浮かべました。
そのころには、まだダンパ(ダンスパーティのことで、まだディスコがあまりなく、学生グループが自分たちで場所を借りて開いていました)というものがあったのですが、そこで魅力のない女の子たちは壁の花(男の子が誰もダンスに誘ってくれなくて、ずっと壁際に立っているからです)と呼ばれていたのです。
もちろん、いくら女の子を誘っても一緒に踊ってもらえない、さえない男の子たちもたくさんいました(私自身にも苦い思い出があります)。
それから40年以上がたちますが、今でもいわゆる婚活パーティなどで、同様の苦い経験をしている女の子たちや男の子たちはたくさんいることでしょう。
そういった意味では、この作品で描かれた二人は、時代を超えた「若者たち」のある典型なのです。
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サリンジャー選集(2) 若者たち〈短編集1〉 |
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荒地出版社 |