現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

千葉省三「とらちゃんの日記」講談社版少年少女世界文学全集

2023-12-08 13:49:18 | 作品論

 1925年(大正14年)9月に、自ら編集する「童話」に掲載した大正童心主義童話の代表作です。
 1929年(昭和4年)6月5日に古今書院から出版された作者の童話集「トテ馬車」に、巻頭作として収録されています。
 大正時代の農村(作者の故郷の栃木県だと思われます)を舞台に、夏休み中(八月の一ヶ月間のようです)のとらちゃん(小学六年生)の日記の形を借りて、当時の子どもたちの様子を生き生きと描いています。
 中編(単行本では62ページ)の限られた紙数の中で、村の子どもたちの楽しい遊びだけでなく、豊かな自然、農村の暮らし、子どもたちも担っている村の仕事、東京から病気疎開(肺病との噂がありましたが、その後とらちゃんたちと遊んでいるので、違うようです)してきたお金持ちの子どもとの交流、いじめや弱い者を守る正義感、プチ家出(トム・ソーヤーを想起させます)、さらには、貧困や死などの重いテーマまで、たくみに書き込んでいる筆力は、当時としては傑出しています。
 写生をベースにした豊かな散文、主人公を中心にした子どもたちの正確な心理描写、物語の中での主人公たち(それを追体験する子ども読者たちも)の成長。社会の変革の意志(ささやかですが)など、この作品の持つ多くの特長は、現代児童文学(定義などは関連する記事を参照してください)に引き継がれました。
 児童文学研究者の宮川健郎がまとめた現代児童文学の目指した「豊かな散文性」、「子どもへの関心」、「変革の意志」の三要点(関連する記事を参照してください)を兼ね備えた児童文学が大正期に書かれていたことは特筆すべきでしょう。
 いわゆる近代童話の「三種の神器」、小川未明、浜田廣介、坪田譲治を否定した石井桃子たちによる「子どもと文学」が、宮沢賢治、新見南吉と並んで、作者を肯定的に評価したのも当然のことだったでしょう(関連する記事を参照してください)。




 

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