現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

手塚治虫「火の鳥 黎明編」

2018-12-19 17:46:02 | コミックス
 永遠に死なず、その血を飲めば人間も不老不死になると言われている、火の鳥をめぐる人間たちを描いた、数多くの傑作を持つ不世出の漫画家である作者のライフワークにして代表作の一つです。
 1963年に雑誌「COM」に連載されたこの作品は、古今東西を問わずに多くの権力者が求めた不老不死をテーマに、作者の広範な分野に広がる膨大な知識をもとに、日本の神話、邪馬台国伝説、騎馬民族の存在などの当時の最新の歴史情報、作者の本来の専門である医学知識などを自在に操って、壮大なスケールで描いています。
 しかも、けっして堅苦しい物語にせずに、アクション、ユーモア、男女の恋愛など、エンターテインメント性満載で、読者を引きつけています。
 そして、何より、いつの時代も未来を切り開いていく担い手である子どもたちへの限りない愛情と、彼らを産み育てていく女性たちへの心からの尊敬がこめられていて、50年も前に描かれたとは思えない先見性を持っています。
 児童文学で言えばケストナーの諸作品とも共通するこれらのメッセージは、現代においても少年(少女)漫画や児童文学にとっても最も大事なものであると信じています。

火の鳥 1・黎明編
クリエーター情報なし
朝日新聞出版
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ワイアット・アープ

2018-12-19 09:51:48 | 映画
 1994年のアメリカの西部劇です。
 西部劇における正義のヒーローの一人であるワイアット・アープの実像に迫ろうとする伝記映画の大作ですが、興業的にも大失敗(製作費6500万ドルに対して、北米での興行収入は2500万ドルでした)して、ゴールデンラズベリー賞の最低主演男優賞(ケビン・コスナー)と最低リメイク・続編賞を受賞するという不名誉を味わいました。
 実際の映画は、当時のアメリカ各地の風物を忠実に再現していて、映像も含めて丁寧に作られた作品だと思いました。
 失敗の原因は、ワイアットワープの正義のヒーローとしてのイメージを覆そうとするために、負のイメージ(最愛の妻が病死したショックで身を持ち崩し、酒におぼれて浮浪者になり、馬泥棒(当時は縛り首になる重大な犯罪)までして投獄され、父の財力のおかげで脱獄して逃げた(当時は州を越えてしまえば追手はきませんでした)。二度目の内縁の妻(娼婦)を捨てて新しい女に走った。兄弟の敵を討つためには、法律も無視。死んだ敵にさらに銃弾を撃ち込む残酷さなど)を強調するばかりに、観客が主人公に共感を持てなかったことが一番でしょう。
 さらに、その主人公を、当時いい人役ばかりを演じていたケビン・コスナーが演じたので、見ている方はミスマッチを感じてしまいます。
 この作品で強調しようとした家族の「血の結束」を描くために、主人公の少年時代から時代を追って描いたために、上映時間が3時間11分と非常に長くなって、エンターテインメント映画としては受け入れられなくなってしまったこともあるでしょう(俗に一本100分ぐらいが、娯楽映画には適した長さなのですが、その二倍近くの長さがあります)。
 かといって、この映画で強調されている家族の「血の結束」が、ブラックマンデー(1987年)からの回復期にあった1994年におけるアメリカ社会に芸術作品としてマッチしていたともいえません。
 また、決闘シーンなどのリアリティを重視したために、まるでかつての日本の実録やくざ映画のように死体や出血が生々しく、女性や子どもの観客にはそっぽを向かれたことでしょう。
 そういえば、アープ兄弟たちとクラントン兄弟たちの復讐合戦による血で血を洗うような抗争は、広島を中心とした当時のやくざ抗争と同じで、基本的には利権争いや縄張り争いにすぎなかったのかもしれません。
 さらに、当時の風俗を再現しようとするあまりに、いろいろな差別や偏見(人種(ユダヤ人や先住民など)、女性(男性の性処理や子どもを作るための道具としてしか考えていないなど)の、動物(バッファローの虐殺など)など)が生な形で描かれすぎていて、観客は嫌悪感を感じてしまいます。
 評価点としては、ドク・ホリデイ役のデニス・クエイドが独特のくどい演技で存在感を出していました(他の男優たちは、敵も味方もみんな髭を生やしているせいもあって、日本人にはなかなか区別がつきにくかったです)。

ワイアット・アープ (字幕版)
クリエーター情報なし
メーカー情報なし
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