By strength and guile(力と知恵を)
ガチ低学歴の私に一番関係無さそうな話題。
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頭のいい人とさほどでもない人を分ける決定打 大切なのは化学反応、抽象化する頭の使い方だ
2021/04/21 17:30
https://toyokeizai.net/articles/-/422743
誰もが大量の情報を簡単に手に入れられる今、オリジナリティーのある発想力がより強く求められています。
ではオリジナリティーとは何でしょうか。『東大教授が教える知的に考える練習』の著者、柳川範之・東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授が本書より解説します。
オリジナリティーは完全にゼロからは生まれない
私たちは、オリジナリティーと聞くと、ゼロから考え出すものだと思いがちですが、そうではありません。まずは、従来からあるものを組み合わせたり、さまざまなものを取り入れる段階があります。自分のオリジナリティーを出すのは、そこからどのように変えていくかにかかっているのです。
私が論文を書くときも、そういう発想をしています。一からモデルを組み立てていくことは少なくて、ある問題意識で論文を書きたいと思ったら、経済学におけるさまざまな分野の論文を読みあさるのです。書こうとしているテーマとは違う分野の論文もありますが、それでいいのです。そうすると、「この論文に書かれたモデルは自分が考えている問題意識に使えるかもしれない」、あるいは「このデータ分析の方法は使えるかもしれない」というように結びつくわけです。
すると、そのままでは使えなくても、自分の問題意識に合わせる形でその論文の骨組みやデータを持ってくることは可能です。
論文の形がある程度まとまってくると、今度は追加で分析するために、何か良いアイデアはないかと、またいろいろな論文を読みあさります。そうすると、「この話は少しくっつけると面白いかもしれない」ということが出てきて、論文の幅が広がっていく、というように進んでいきます。
もちろん、これは他人の表現を真似るという意味ではありません。そもそも、言葉というのは私たちが自由に発明するたぐいのものではなく、誰もが共通して認識できるものでなくてはなりません。印象的な表現や斬新なコピーもすべて、すでにあるものをどう組み合わせるかにつきるのです。
そう考えると、完全にオリジナルな言葉や表現というものはないとわかります。
例えば、アインシュタインにしても、ピカソにしても、独創的で天才だという扱われ方をしていますが、けっしてものごとをゼロからつくりあげたわけではありません。頭のトレーニングをきちんとこなすことができれば、誰でも思いがけないものをつくり出すことが可能なのです。
とくに、これだけ情報が流れている現代では、新しいものをつくり出すベースになる情報は、世の中に満ちあふれています。新しい組み合わせを見つけ出せるチャンスは広がっているのです。
抽象化する力を高めて、頭の中で化学反応を起こす
それでは、新しい組み合わせは、ただ組み合わせてみればよいのでしょうか。
組み合わせる、くっつけるといっても、単に別々のものをくっつけてみるだけでは、新たな発見や進展は見えてきそうにありません。大事なのは、そこで化学反応を起こすことです。
では、化学反応を起こすにはどうすればよいのでしょうか。
そこで大切になるのが、抽象化する頭の使い方です。この抽象化の力を高めて、まったく異なっているように見える情報を結びつけていくことが有効になります。
そのためにどんな頭の使い方をすればよいのか具体的に考えてみましょう。
歴史の事例を見ていくと、気がはやって不確かな情報に飛びついた戦国武将が、重要な戦いに負けたというような話が出てきます。これを現代の自分の置かれた状況への教訓にするには、このエピソードを簡単な言葉で表して、話を抽象化して、頭の中に入れておくことが有効です。これは、基本的には思考の土台をつくるために、情報を抽象化する作業ですが、さらに発展させていくことを考えてみましょう。
このエピソードには、もともとさまざまなデータが詰まっています。その戦国武将の名前はもちろんのこと、相手の武将の名前、戦いのあった日時や場所、不確かな情報とは何か、どれほどの負けっぷりだったのか、等々です。
もし、このエピソードを自分のビジネス上での判断に役立てようとすると、このエピソードをそのまま使っても意味がありません。そこで、抽象化が必要になります。
当たり前ですが、武将の名前は誰でもよく、そもそも武将である必要もありません。日付も場所も不要です。そして最終的に、「トップが、あやふやな情報をもとに早まった決定をするのは失敗のもと」という骨組みだけの情報に置き換わるわけです。この作業が抽象化であり、情報の骨組み化です。
そのあとで、今度はこの骨組みの情報に、私たちの身近なデータを肉付けしていくのが具体化という作業です。例えば、抽象的な「トップ」という表現を、「社長」あるいは具体的な固有名詞の「○○代表取締役」に置き換えたり、「あやふやな情報」の部分に具体的な情報の内容を当てはめます。もちろん、もっと具体的なデータを加えてもいいでしょう。
こうすることで、戦国時代のエピソードが現代の教訓となるわけです。
歴史の本を読んで現代に生かそうというとき、私たちは意識するしないにかかわらず、こうした作業をしているのです。抽象化では、固有名詞を普通名詞に変え、細かいデータの部分をカットしたのち、普遍性のあるメッセージだけの骨組みにします。具体化では、逆に普通名詞を固有名詞に変え、具体的なデータを当てはめていくということをしていくわけです。
歴史を勉強していくときに、織田信長がいつどうした、豊臣秀吉が何をしたという事実を頭に入れるだけでは、それは単なる知識にすぎません。そこからは、自分の悩みに対する示唆は得られないのです。
歴史を単なる知識に終わらせるのではなく、そこから何かを汲み取ろうとしている人は、無意識のうちに先ほどのような頭の使い方を行っています。そして、それを自分のことに置き換えたうえで、例えば「あの豊臣秀吉も自分と同じようなところで悩んでいたり工夫をしたりしていたのだろう」と共感を覚えたり教訓にしたりします。
これは実は、抽象化した情報を、具体化させたり自分に置き換えたりする工夫をしていることを意味しています。
異分野に転換させる頭の使い方を意識する
このように、考える力を高めていくには、「具体」と「抽象」の双方向のトレーニングが大事です。これは、たとえるとジュースの濃縮と還元に当たります。
「具体→抽象」というのは、絞ったジュースをいったん濃縮すること。そして、「抽象→具体」というのは、また水分で薄めて還元することに当たります。この2つの作業を繰り返すことが、思考を高めていくには欠かせないのです。
世の中のニュースを自分の身近な世界に当てはめたり、自分に引きつけて考えるという行為は、こうしたことを頭の中で行っているはずです。それを無意識の習慣にできるところまで徹底できると大きな武器になります。
もちろん、同じように抽象から具体に進めて理解するのでも、経済学の抽象的な理論を経済や経営という同じ分野の具体的な問題に当てはめるだけでなく、もうワンステップ展開して難易度を上げ、経済学以外の異分野に転換させる頭の使い方を意識してみるといいトレーニングになると思います。
「具体」と「抽象」の双方向のトレーニングが身についてくると、どんな分野の情報が入ってきても、ほかに転換して応用できるようになります。
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頭のいい人とさほどでもない人を分ける決定打 大切なのは化学反応、抽象化する頭の使い方だ
2021/04/21 17:30
https://toyokeizai.net/articles/-/422743
誰もが大量の情報を簡単に手に入れられる今、オリジナリティーのある発想力がより強く求められています。
ではオリジナリティーとは何でしょうか。『東大教授が教える知的に考える練習』の著者、柳川範之・東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授が本書より解説します。
オリジナリティーは完全にゼロからは生まれない
私たちは、オリジナリティーと聞くと、ゼロから考え出すものだと思いがちですが、そうではありません。まずは、従来からあるものを組み合わせたり、さまざまなものを取り入れる段階があります。自分のオリジナリティーを出すのは、そこからどのように変えていくかにかかっているのです。
私が論文を書くときも、そういう発想をしています。一からモデルを組み立てていくことは少なくて、ある問題意識で論文を書きたいと思ったら、経済学におけるさまざまな分野の論文を読みあさるのです。書こうとしているテーマとは違う分野の論文もありますが、それでいいのです。そうすると、「この論文に書かれたモデルは自分が考えている問題意識に使えるかもしれない」、あるいは「このデータ分析の方法は使えるかもしれない」というように結びつくわけです。
すると、そのままでは使えなくても、自分の問題意識に合わせる形でその論文の骨組みやデータを持ってくることは可能です。
論文の形がある程度まとまってくると、今度は追加で分析するために、何か良いアイデアはないかと、またいろいろな論文を読みあさります。そうすると、「この話は少しくっつけると面白いかもしれない」ということが出てきて、論文の幅が広がっていく、というように進んでいきます。
もちろん、これは他人の表現を真似るという意味ではありません。そもそも、言葉というのは私たちが自由に発明するたぐいのものではなく、誰もが共通して認識できるものでなくてはなりません。印象的な表現や斬新なコピーもすべて、すでにあるものをどう組み合わせるかにつきるのです。
そう考えると、完全にオリジナルな言葉や表現というものはないとわかります。
例えば、アインシュタインにしても、ピカソにしても、独創的で天才だという扱われ方をしていますが、けっしてものごとをゼロからつくりあげたわけではありません。頭のトレーニングをきちんとこなすことができれば、誰でも思いがけないものをつくり出すことが可能なのです。
とくに、これだけ情報が流れている現代では、新しいものをつくり出すベースになる情報は、世の中に満ちあふれています。新しい組み合わせを見つけ出せるチャンスは広がっているのです。
抽象化する力を高めて、頭の中で化学反応を起こす
それでは、新しい組み合わせは、ただ組み合わせてみればよいのでしょうか。
組み合わせる、くっつけるといっても、単に別々のものをくっつけてみるだけでは、新たな発見や進展は見えてきそうにありません。大事なのは、そこで化学反応を起こすことです。
では、化学反応を起こすにはどうすればよいのでしょうか。
そこで大切になるのが、抽象化する頭の使い方です。この抽象化の力を高めて、まったく異なっているように見える情報を結びつけていくことが有効になります。
そのためにどんな頭の使い方をすればよいのか具体的に考えてみましょう。
歴史の事例を見ていくと、気がはやって不確かな情報に飛びついた戦国武将が、重要な戦いに負けたというような話が出てきます。これを現代の自分の置かれた状況への教訓にするには、このエピソードを簡単な言葉で表して、話を抽象化して、頭の中に入れておくことが有効です。これは、基本的には思考の土台をつくるために、情報を抽象化する作業ですが、さらに発展させていくことを考えてみましょう。
このエピソードには、もともとさまざまなデータが詰まっています。その戦国武将の名前はもちろんのこと、相手の武将の名前、戦いのあった日時や場所、不確かな情報とは何か、どれほどの負けっぷりだったのか、等々です。
もし、このエピソードを自分のビジネス上での判断に役立てようとすると、このエピソードをそのまま使っても意味がありません。そこで、抽象化が必要になります。
当たり前ですが、武将の名前は誰でもよく、そもそも武将である必要もありません。日付も場所も不要です。そして最終的に、「トップが、あやふやな情報をもとに早まった決定をするのは失敗のもと」という骨組みだけの情報に置き換わるわけです。この作業が抽象化であり、情報の骨組み化です。
そのあとで、今度はこの骨組みの情報に、私たちの身近なデータを肉付けしていくのが具体化という作業です。例えば、抽象的な「トップ」という表現を、「社長」あるいは具体的な固有名詞の「○○代表取締役」に置き換えたり、「あやふやな情報」の部分に具体的な情報の内容を当てはめます。もちろん、もっと具体的なデータを加えてもいいでしょう。
こうすることで、戦国時代のエピソードが現代の教訓となるわけです。
歴史の本を読んで現代に生かそうというとき、私たちは意識するしないにかかわらず、こうした作業をしているのです。抽象化では、固有名詞を普通名詞に変え、細かいデータの部分をカットしたのち、普遍性のあるメッセージだけの骨組みにします。具体化では、逆に普通名詞を固有名詞に変え、具体的なデータを当てはめていくということをしていくわけです。
歴史を勉強していくときに、織田信長がいつどうした、豊臣秀吉が何をしたという事実を頭に入れるだけでは、それは単なる知識にすぎません。そこからは、自分の悩みに対する示唆は得られないのです。
歴史を単なる知識に終わらせるのではなく、そこから何かを汲み取ろうとしている人は、無意識のうちに先ほどのような頭の使い方を行っています。そして、それを自分のことに置き換えたうえで、例えば「あの豊臣秀吉も自分と同じようなところで悩んでいたり工夫をしたりしていたのだろう」と共感を覚えたり教訓にしたりします。
これは実は、抽象化した情報を、具体化させたり自分に置き換えたりする工夫をしていることを意味しています。
異分野に転換させる頭の使い方を意識する
このように、考える力を高めていくには、「具体」と「抽象」の双方向のトレーニングが大事です。これは、たとえるとジュースの濃縮と還元に当たります。
「具体→抽象」というのは、絞ったジュースをいったん濃縮すること。そして、「抽象→具体」というのは、また水分で薄めて還元することに当たります。この2つの作業を繰り返すことが、思考を高めていくには欠かせないのです。
世の中のニュースを自分の身近な世界に当てはめたり、自分に引きつけて考えるという行為は、こうしたことを頭の中で行っているはずです。それを無意識の習慣にできるところまで徹底できると大きな武器になります。
もちろん、同じように抽象から具体に進めて理解するのでも、経済学の抽象的な理論を経済や経営という同じ分野の具体的な問題に当てはめるだけでなく、もうワンステップ展開して難易度を上げ、経済学以外の異分野に転換させる頭の使い方を意識してみるといいトレーニングになると思います。
「具体」と「抽象」の双方向のトレーニングが身についてくると、どんな分野の情報が入ってきても、ほかに転換して応用できるようになります。
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佐藤優「もしもアメリカがトランプ大統領のままなら、ロシアのウクライナ侵攻は起こらなかった」 「ロシアが軍事介入するなら、アメリカも軍を送る」と脅せたはず | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
2022/03/02 12:00
https://president.jp/articles/-/55173
ロシアによるウクライナ侵攻が続いている。元外交官で作家の佐藤優氏はアメリカのバイデン政権の「国際情勢を分析する専門家がプーチンの論理をわかっていない」、トランプ前大統領の「私が大統領ならウクライナ侵攻は起きなかった」という主張は「意外と事柄の本質を突いている」という――。
プーチンは精神を病んだのか
2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻に踏み切りました。
すべての国連加盟国は武力による威嚇や武力行使に訴えてはいけないという、戦後長らく守られてきた国連憲章第2条4項の約束事を露骨に破り、既存の国際秩序を破壊したわけですから、ロシアの責任は法的にも道義的にも大きい。ロシアの行っていることは厳しく指弾されなくてはいけません。
しかし、情勢を正確に分析するためには、ロシア側の理屈、つまりはプーチン大統領の頭の中を冷静に理解する必要があります。
米議員の中にはプーチン大統領の精神状態を危惧する声もあります。ホワイトハウスのサキ報道官は2月27日、テレビのインタビューで「(プーチン氏は)コロナ禍で明らかに孤立している」と指摘しましたが、私の見る限り、プーチン大統領はいたって冷静で孤立もしていません。
プーチンの強烈な被害者意識
プーチン大統領の演説を聞くと、ロシアは1990年代初頭から抑え込まれ、このままでは大国として生き残れなくなるという危機意識が、非常に強いことがわかります。国民に向けて行った2月24日のテレビ演説では、こう述べていました。
〈過去30年間、われわれはNATO主要国との間で、安全保障の原則について辛抱強く合意しようと試みてきた。NATOは、われわれの抗議や懸念にもかかわらず拡大し続けた。そして、兵器はロシアの国境に近づいている。なぜこんなことが起きているのか。(中略)答えは明瞭だ。1980年代後半、ソ連は弱体化し、その後崩壊した。われわれが自信を失ったのはほんの一瞬だったが、世界の力の均衡を崩すには十分だった。〉
〈これ以上のNATOの拡大やウクライナ国内に軍事拠点を構えようとする試みは受け入れられない。NATOは米国の外交政策の道具だ。〉
〈米国と同盟国にとって、これはロシアの封じ込め政策だ〉(2月24日・共同)
ソ連の崩壊によって国力が衰え、90年代から2000年代初めまでのロシアは、アメリカによって一方的な軍縮を強いられ、耐えてきた。だが、あの頃とはもう違うんだという自負は、ロシア人全体に共通するものだといえます。
プーチン、アメリカに挑むも、米国民は「関わりたくない」
2月21日には、「ウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカの単なる操り人形だから、話をしても意味がない。問題はアメリカだ」という主旨の演説をしました。
つまりロシアは、アメリカの覇権に挑んだのだとわかります。これまで、イランのハメネイ師や北朝鮮の金正恩総書記など何人かの指導者がアメリカに挑みましたが、これだけ大規模な挑戦はありませんでした。
ではアメリカは、今回の事態をどう受け止めているのか。
AP通信が行ったアメリカの世論調査によると、ウクライナ情勢で「米国が主要な役割を果たすべきだ」という回答が26%にとどまった一方で、「小さな役割を果たすべき」は52%、「役割を果たすべきではない」との回答は20%でした。
アメリカ国民の大半は、こんな戦争に関与しないでほしいと思っているのです。
トランプなら電話をかけて直にディールする
トランプ前大統領が掲げた「アメリカ第一主義」は、国民が共有する感覚です。トランプ氏は、国民が進んで選び出した大統領だったのです。
そのトランプ氏は当初、プーチン大統領に理解を示していました。
ロシアが軍事侵攻を始めるに先立ち、ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力が実効支配してきた「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を独立国家として認める大統領令に署名したことについて、22日、トークラジオ「C&Bショー」のインタビューでこう言いました。
「プーチンはウクライナの広い地域を『独立した』と言っている。私は『なんて賢いんだ』と言ったんだ。彼は(軍を送って)地域の平和を維持すると言っている。最強の平和維持軍だ。我々もメキシコ国境で同じことをできる」(2月23日・朝日新聞デジタル)
平和維持を名目に軍を展開したロシアの手法は、メキシコ国境の不法移民対策に応用が可能だという考えを示したのです。
さすがにロシアがウクライナに軍事侵攻した後の2月26日の演説では、「ロシアのウクライナへの攻撃は、決して許してはならない残虐行為である」と非難したものの、
「プーチンは賢い。問題は我々の国の指導者たちが愚かなことだ」
「プーチンは(バイデン米政権の)情けないアフガン撤退を見て、無慈悲なウクライナ攻撃を決断したことは疑いない」
「私は21世紀の米国大統領で、任期中にロシアが他国に侵攻しなかった唯一の大統領だ」
「私が大統領ならこれは起きなかった」(2月28日・同前)
などと語って、バイデン政権やNATOの対応を批判しています。
トランプ氏の見方は、意外と事柄の本質を突いているといえます。
要するに「俺だったらすぐプーチンに電話をかけて、直にディールをする」と言いたいのでしょう。きちんと取引していればこんな事態に至らなかったという指摘は、トランプ氏の言う通りです。
トランプ氏ならばモスクワに飛んで行ってプーチン大統領と会談し、「ロシアがウクライナに軍事介入するならば、アメリカも軍を送る。アメリカ第一主義はひと休みだ」と言ってプーチン大統領を脅したうえで、取り引きを持ちかけ、戦争を回避したと思います。
耐乏生活に強いロシア人
バイデン大統領の弱点は、民主主義国が団結すれば全体主義に勝つものと思っていることです。世界がイデオロギーでは動かないことが、わかっていません。さらに、ソ連崩壊後の混乱で砂糖や石鹸の入手にさえ苦労した耐乏生活を経験しているロシア人が、経済制裁に屈しない人たちだということも、バイデン大統領はわかっていないのです。
アメリカ政府で国際情勢を分析する専門家のレベルが、基準に達していない。
そのことは、昨年夏のアフガニスタンからの米軍撤退を見れば明らかでした。21年7月、バイデン大統領は「(反政府組織タリバンが全土を制圧する可能性は)ありえない」としていましたが、8月にタリバンは全土を掌握。ガニ政権の正規軍は30万人もいたのに、わずか7万のタリバンにまったく歯が立たないことを、事前に読めていませんでした。アメリカ型の正義がいつも勝つわけではないという半年前の失敗から、何も学んでいないのです。
アメリカがウクライナへ軍を送らないのは、国内での賛同が得られないからです。プーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせました。第3次世界大戦のリスクがある介入をアメリカは絶対にしないとプーチン大統領が確信しているからです。バイデン大統領があまりに早くから軍事的な手段をとらないと表明してしまったため、プーチン大統領が勢いづいたのです。
バイデン大統領はロシアに対して、経済制裁くらいしか切るカードがありません。プーチン大統領は、2~3年後に結局はEU諸国が、ロシアの変更した現状を追認せざるを得なくなり、10年後にはアメリカもそれに倣うことになると考えているのでしょう。
トランプが再び大統領になる日
アメリカは、ロシアの暴力性を軽視したのです。ある程度の圧力をかけ、インテリジェンス情報の異例の公開だと言ってロシア軍の動きをオープンにすれば怖がるだろうと思ったのに、ロシアは怯みませんでした。またも大きな読み違えです。
私が問題だと思っているのは、アメリカのブリンケン国務長官が、2月24日に予定していたロシアのラブロフ外相との会談をキャンセルしたことです。
会談の実施は、ロシアが侵攻しないことが前提条件だったためです。ブリンケン長官は「いまや侵攻が始まり、ロシアが外交を拒絶することを明確にした。会談を実施する意味はない」と述べたそうですが、この判断は感情的すぎます。アメリカは軍事介入するつもりがないのですから、ロシアと交渉するしか手段がないのです。
外交では、相手が間違っているときや、関係が悪化したときこそ、積極的に会う努力をしなければいけません。ウクライナにおける戦闘の拡大を防ぐために、ブリンケン国務長官はいまからでもラブロフ外相と会談して、解決策を探るべきです。
ただでさえ支持率が低迷するバイデン政権ですが、ウクライナ情勢がこのまま混迷を続ければ、11月の中間選挙や2年後の大統領選挙に影響を及ぼすことは必至です。再びトランプ氏が大統領になることもあり得るのです。
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佐藤優「もしもアメリカがトランプ大統領のままなら、ロシアのウクライナ侵攻は起こらなかった」 「ロシアが軍事介入するなら、アメリカも軍を送る」と脅せたはず | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
2022/03/02 12:00
https://president.jp/articles/-/55173
ロシアによるウクライナ侵攻が続いている。元外交官で作家の佐藤優氏はアメリカのバイデン政権の「国際情勢を分析する専門家がプーチンの論理をわかっていない」、トランプ前大統領の「私が大統領ならウクライナ侵攻は起きなかった」という主張は「意外と事柄の本質を突いている」という――。
プーチンは精神を病んだのか
2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻に踏み切りました。
すべての国連加盟国は武力による威嚇や武力行使に訴えてはいけないという、戦後長らく守られてきた国連憲章第2条4項の約束事を露骨に破り、既存の国際秩序を破壊したわけですから、ロシアの責任は法的にも道義的にも大きい。ロシアの行っていることは厳しく指弾されなくてはいけません。
しかし、情勢を正確に分析するためには、ロシア側の理屈、つまりはプーチン大統領の頭の中を冷静に理解する必要があります。
米議員の中にはプーチン大統領の精神状態を危惧する声もあります。ホワイトハウスのサキ報道官は2月27日、テレビのインタビューで「(プーチン氏は)コロナ禍で明らかに孤立している」と指摘しましたが、私の見る限り、プーチン大統領はいたって冷静で孤立もしていません。
プーチンの強烈な被害者意識
プーチン大統領の演説を聞くと、ロシアは1990年代初頭から抑え込まれ、このままでは大国として生き残れなくなるという危機意識が、非常に強いことがわかります。国民に向けて行った2月24日のテレビ演説では、こう述べていました。
〈過去30年間、われわれはNATO主要国との間で、安全保障の原則について辛抱強く合意しようと試みてきた。NATOは、われわれの抗議や懸念にもかかわらず拡大し続けた。そして、兵器はロシアの国境に近づいている。なぜこんなことが起きているのか。(中略)答えは明瞭だ。1980年代後半、ソ連は弱体化し、その後崩壊した。われわれが自信を失ったのはほんの一瞬だったが、世界の力の均衡を崩すには十分だった。〉
〈これ以上のNATOの拡大やウクライナ国内に軍事拠点を構えようとする試みは受け入れられない。NATOは米国の外交政策の道具だ。〉
〈米国と同盟国にとって、これはロシアの封じ込め政策だ〉(2月24日・共同)
ソ連の崩壊によって国力が衰え、90年代から2000年代初めまでのロシアは、アメリカによって一方的な軍縮を強いられ、耐えてきた。だが、あの頃とはもう違うんだという自負は、ロシア人全体に共通するものだといえます。
プーチン、アメリカに挑むも、米国民は「関わりたくない」
2月21日には、「ウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカの単なる操り人形だから、話をしても意味がない。問題はアメリカだ」という主旨の演説をしました。
つまりロシアは、アメリカの覇権に挑んだのだとわかります。これまで、イランのハメネイ師や北朝鮮の金正恩総書記など何人かの指導者がアメリカに挑みましたが、これだけ大規模な挑戦はありませんでした。
ではアメリカは、今回の事態をどう受け止めているのか。
AP通信が行ったアメリカの世論調査によると、ウクライナ情勢で「米国が主要な役割を果たすべきだ」という回答が26%にとどまった一方で、「小さな役割を果たすべき」は52%、「役割を果たすべきではない」との回答は20%でした。
アメリカ国民の大半は、こんな戦争に関与しないでほしいと思っているのです。
トランプなら電話をかけて直にディールする
トランプ前大統領が掲げた「アメリカ第一主義」は、国民が共有する感覚です。トランプ氏は、国民が進んで選び出した大統領だったのです。
そのトランプ氏は当初、プーチン大統領に理解を示していました。
ロシアが軍事侵攻を始めるに先立ち、ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力が実効支配してきた「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を独立国家として認める大統領令に署名したことについて、22日、トークラジオ「C&Bショー」のインタビューでこう言いました。
「プーチンはウクライナの広い地域を『独立した』と言っている。私は『なんて賢いんだ』と言ったんだ。彼は(軍を送って)地域の平和を維持すると言っている。最強の平和維持軍だ。我々もメキシコ国境で同じことをできる」(2月23日・朝日新聞デジタル)
平和維持を名目に軍を展開したロシアの手法は、メキシコ国境の不法移民対策に応用が可能だという考えを示したのです。
さすがにロシアがウクライナに軍事侵攻した後の2月26日の演説では、「ロシアのウクライナへの攻撃は、決して許してはならない残虐行為である」と非難したものの、
「プーチンは賢い。問題は我々の国の指導者たちが愚かなことだ」
「プーチンは(バイデン米政権の)情けないアフガン撤退を見て、無慈悲なウクライナ攻撃を決断したことは疑いない」
「私は21世紀の米国大統領で、任期中にロシアが他国に侵攻しなかった唯一の大統領だ」
「私が大統領ならこれは起きなかった」(2月28日・同前)
などと語って、バイデン政権やNATOの対応を批判しています。
トランプ氏の見方は、意外と事柄の本質を突いているといえます。
要するに「俺だったらすぐプーチンに電話をかけて、直にディールをする」と言いたいのでしょう。きちんと取引していればこんな事態に至らなかったという指摘は、トランプ氏の言う通りです。
トランプ氏ならばモスクワに飛んで行ってプーチン大統領と会談し、「ロシアがウクライナに軍事介入するならば、アメリカも軍を送る。アメリカ第一主義はひと休みだ」と言ってプーチン大統領を脅したうえで、取り引きを持ちかけ、戦争を回避したと思います。
耐乏生活に強いロシア人
バイデン大統領の弱点は、民主主義国が団結すれば全体主義に勝つものと思っていることです。世界がイデオロギーでは動かないことが、わかっていません。さらに、ソ連崩壊後の混乱で砂糖や石鹸の入手にさえ苦労した耐乏生活を経験しているロシア人が、経済制裁に屈しない人たちだということも、バイデン大統領はわかっていないのです。
アメリカ政府で国際情勢を分析する専門家のレベルが、基準に達していない。
そのことは、昨年夏のアフガニスタンからの米軍撤退を見れば明らかでした。21年7月、バイデン大統領は「(反政府組織タリバンが全土を制圧する可能性は)ありえない」としていましたが、8月にタリバンは全土を掌握。ガニ政権の正規軍は30万人もいたのに、わずか7万のタリバンにまったく歯が立たないことを、事前に読めていませんでした。アメリカ型の正義がいつも勝つわけではないという半年前の失敗から、何も学んでいないのです。
アメリカがウクライナへ軍を送らないのは、国内での賛同が得られないからです。プーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせました。第3次世界大戦のリスクがある介入をアメリカは絶対にしないとプーチン大統領が確信しているからです。バイデン大統領があまりに早くから軍事的な手段をとらないと表明してしまったため、プーチン大統領が勢いづいたのです。
バイデン大統領はロシアに対して、経済制裁くらいしか切るカードがありません。プーチン大統領は、2~3年後に結局はEU諸国が、ロシアの変更した現状を追認せざるを得なくなり、10年後にはアメリカもそれに倣うことになると考えているのでしょう。
トランプが再び大統領になる日
アメリカは、ロシアの暴力性を軽視したのです。ある程度の圧力をかけ、インテリジェンス情報の異例の公開だと言ってロシア軍の動きをオープンにすれば怖がるだろうと思ったのに、ロシアは怯みませんでした。またも大きな読み違えです。
私が問題だと思っているのは、アメリカのブリンケン国務長官が、2月24日に予定していたロシアのラブロフ外相との会談をキャンセルしたことです。
会談の実施は、ロシアが侵攻しないことが前提条件だったためです。ブリンケン長官は「いまや侵攻が始まり、ロシアが外交を拒絶することを明確にした。会談を実施する意味はない」と述べたそうですが、この判断は感情的すぎます。アメリカは軍事介入するつもりがないのですから、ロシアと交渉するしか手段がないのです。
外交では、相手が間違っているときや、関係が悪化したときこそ、積極的に会う努力をしなければいけません。ウクライナにおける戦闘の拡大を防ぐために、ブリンケン国務長官はいまからでもラブロフ外相と会談して、解決策を探るべきです。
ただでさえ支持率が低迷するバイデン政権ですが、ウクライナ情勢がこのまま混迷を続ければ、11月の中間選挙や2年後の大統領選挙に影響を及ぼすことは必至です。再びトランプ氏が大統領になることもあり得るのです。
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佐藤優「プーチン大統領の目的は『ウクライナに傀儡政権を樹立すること』ではない」
2022/03/03 15:00
https://president.jp/articles/-/55227
ロシアのウクライナ侵攻にはどんな目的があるのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「プーチン大統領の目的は傀儡政権の樹立ではない。完全な傀儡政権はウクライナの国民に支持されないことを、プーチン大統領は歴史から学んでいる」という――。
プーチンの目的は3つある
ロシアによるウクライナへの攻撃は、国連憲章に違反し、国際秩序を力づくで変更しようとする試みで、断じて認めることはできません。ロシアの責任は法的にも道義的にも大きく、厳しく指弾されなくてはいけません。
ただし、ロシアの進軍が止まらない以上、これから何が起きるのか、ひいては今回の軍事行動がどのような内在的論理に基づいているのか、正しく理解する必要があります。
大半のメディアや識者が、「プーチン大統領の目的は、ウクライナに傀儡政権を樹立することだ」と言っています。しかし私の見立ては異なります。
まず、ロシアがウクライナへ侵攻した目的は、3つあります。
1つ目は、ウクライナ東部のルガンスク州とドネツク州にいるロシア系住民の保護。そのうち70万人は、ロシア国籍をもつ人たちです。
2つ目は、ウクライナを軍事的な脅威ではなくすこと。すなわち、ウクライナ軍の攻撃的な兵器をすべて叩き潰すことです。ロシアが一番恐れていることは、ロシアと隣接する国に敵対する軍事大国が存在することです。ソ連時代の第2次世界大戦時にドイツ軍の侵略を受けて、2600万人もの犠牲者が出た苦い経験から来ています。
ですから、第2次世界大戦後、東ドイツやポーランドをソ連に併合する案が出たときも、それをあえて拒否したのです。ソビエトが主権国家の連邦である以上、それも可能だったのに、独立した人民民主主義国としました。NATO諸国との間に東欧各国が存在すれば、バッファー(緩衝)となる中間地帯にできるからです。
もしもウクライナがNATOに加盟すれば、バッファーを失ってしまいます。これがロシアの安全保障観です。その意味からもウクライナ全体の占領や併合はせず、非軍事化された戦略的な中間地帯にしておきたいはずです。
「ハンガリー動乱」「プラハの春」と同じ方法を試みている
そして3つ目の目的が、親米で反ロシア路線のゼレンスキー政権を倒すこと。ただし、次の政権は傀儡ではなく、ロシアと融和的であることが条件となります。完全な傀儡政権はウクライナの国民に支持されないことを、プーチン大統領は歴史から学んでいます。
1956年の「ハンガリー動乱」(社会主義体制下のハンガリーで、民主化やソ連軍の撤退などを求めた民主化運動)にソ連が軍事介入した際、ワルシャワ条約機構(東ヨーロッパ諸国がNATOに対抗して作った軍事同盟)からの脱退などを表明したナジ首相の追放後に擁立されたのは、カーダール・ヤーノシュという人です。彼はナジ政府の国務大臣であり、ソ連軍の戦車に抵抗した人物でした。
1968年に社会主義体制下のチェコスロバキア(当時)で起こった民主化運動「プラハの春」でも同じです。「人間の顔をした社会主義」を掲げて民主改革を試みたドゥプチェク共産党第1書記でしたが、ソ連などの軍事介入によって失脚したあと、政権を任されたのはグスターフ・フサークです。彼にも、スロバキア民族主義者として逮捕され、終身刑を言い渡された前歴がありました。
カーダールやフサークは、自国を裏切ってソ連に寝返ったのではありません。大国にいつまでも向かっていても勝ち目はない。ならば自分たちの祖国や民族を守るために現実的な方法でソ連と調整していかなくてはいけない。そういった高いモラルをもっていたのです。ハンガリーもチェコスロバキアも、その後は安定的に国家を運営できました。現政権や抵抗勢力の中から次の誰かを探し出すのが、ソ連以来のやり方です。
ロシアは、「ウクライナの次の政権も、ロシアの軍事力を背景に数年維持できれば、国民は受け入れざるを得なくなる」と考えているはずです。したがって、ウクライナ国民をある程度まとめられる人が、国内の現実主義的政治家の中から自発的に出てくるだろう。プーチン大統領は、そう見越しています。
2月25日、プーチン大統領がウクライナ軍の兵士に対して「その手で権力を奪い取れ」とゼレンスキー政権へのクーデターを呼びかけたのは、その証しだと考えられます。ゼレンスキー政権が崩壊し、ロシアに対抗しない政権が生まれれば、ロシア軍は撤退するはずです。
軍事侵攻を合法だと言い張るための周到な準備
それから、ロシアは国際法を完全に無視したのではなく、乱用しているのだという点も、踏まえておくべきです。ロシアは今回の軍事行動を、日本でもさんざん議論された「集団的自衛権」を根拠に置いています。すなわち、同盟国が攻撃を受けた際の個別的・集団的自衛権を定めた、国連憲章51条です。
侵攻に先立つ2月21日、ロシアはドネツク州、ルガンスク州の親ロシア派武装勢力がそれぞれ自称している両“人民共和国”を、独立国家として承認しました。国家承認の要求は、国民がいて、実効支配できている政府があって、国際法を守る意思があることを条件になされます。この“両国”には、外形的にそれらが整っています。そのため要求に応じる形で国家承認を行い、次いで「友好、協力、相互援助条約」を締結しました。これは日米安保と一緒で、安全保障のための条約です。それをロシアの国会で批准しました。
ロシアの軍事侵攻前の段階では、親ロシア派武装勢力はルガンスク州とドネツク州の一部を実効支配しているだけで、全域を支配してはいませんでした。しかし、ドネツク人民共和国の領土はドネツク州全域、ルガンスク人民共和国の領域はルガンスク州全域だと、両“人民共和国”の憲法は定めています。すると、支配が及んでいない地域は、ウクライナによって不法占拠されていることになります。ロシアはその“解放”のため、「友好、協力、相互援助条約」に基づいて、集団的自衛権を行使できるという理屈になるのです。
もちろん国際的に是認されるわけがありませんが、合法だという理屈を周到に組み立て、計画的に実行したことがわかります。
1968年の「ブレジネフ・ドクトリン」がよみがえった
「プラハの春」でソ連がチェコスロバキアを弾圧する際、ソ連は「制限主権論」を唱えました。「社会主義共同体の利益が毀損される恐れのあるときは、個別国家の主権が制限されることがあり得る」という論理で、「ブレジネフ・ドクトリン」と呼ばれます。これによって、ワルシャワ条約に加盟していたソ連、東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、ブルガリアの5カ国軍のチェコスロバキアへの侵攻を正当化したのです。
今回のロシアの行動は、「プーチン版ブレジネフ・ドクトリン」に基づいていると思います。すでに社会主義共同体ではありませんが、「ロシア連邦の死活的に重要な地理学的利益に反する場合、個別国家の主権が制限されることがある」という考え方です。
これはもはや、帝国主義的な弱肉強食の論理です。ロシアの利益のためウクライナの主権が制限されるという身勝手な論理は、断じて容認すべきではありません。しかし、プーチン大統領の頭の中は、このような論理になっているのです。
プーチンのウクライナ侵攻の手順は「教科書」通り
プーチン大統領の行動を読み解くのにもうひとつ役立つのが、イタリアのジャーナリストであるクルツィオ・マラパルテ(1898~1957年)です。『壊れたヨーロッパ』や『皮』の著者で、その思想はイタリアの独裁者・ムッソリーニに強い影響を与えました。特に、ロシア革命を分析した『クーデターの技術』は重要な本です。
マラパルテは、革命には大衆運動や政党など必要ない。1000人ぐらいの専門家が水道、鉄道、電気などの基礎インフラを押さえてしまえば、政権は転覆すると書いています。今回のロシアの軍事行動は、当初マラパルテの教科書通りに進んでいました。まず、ウクライナ各地の主要な軍事インフラや通信インフラを攻撃して麻痺させ、次にチェルノブイリなどの発電所を確保したのです。
点を押さえて政権を麻痺させてしまおうという戦術に、プーチン大統領のインテリジェンスオフィサーとしての本領が出ていました。
NATOもアメリカも完全に足元を見られていた
では国際社会の反応を、プーチン大統領はどう読んでいたのか。アメリカやEUや日本が最大限の制裁に踏み切ることは、織り込み済みだったでしょう。しかし、ごく短期間で軍事的な目的を達成して、先述した3つの目的を達成する基盤を作ってしまえば、国際社会は現状を追認せざるを得なくなると見ていたはずです。
少なくともプーチン大統領は、ウクライナをNATOに加盟させないという目標を達成し、NATO軍が自国の国境まで迫る事態を回避しました。ウクライナは当面ロシアに敵対できないでしょうから、政治的影響力と緩衝地帯の維持に成功したのです。
NATOもアメリカ軍も直接は介入してこないと、完全に足元を見られていました。EU諸国は、天然ガスなどのエネルギーをロシアに大きく依存しています。ヨーロッパ全体で4割。ドイツに至っては5割超です。失う打撃の大きさを考えれば、時が経つほど弱腰になるとプーチンは見ています。
アメリカは、国内世論が厭戦ムードですし、バイデン大統領はあまりに早くから軍事的な手段をとらないと表明してしまいました。
ロシア国民はクリミア併合の時ほど歓迎していない
ロシア国内はどうかと言えば、2014年のクリミア併合の時ほど、国民は歓迎していません。あのときは、欧米にやられっぱなしだったロシアの逆転の象徴だと受け止められていました。
しかし、国際的な経済制裁を受けて、国民の生活は厳しくなりました。プーチン大統領の1期目と2期目である2000~2008年までは経済成長率は平均で年6.97%、リーマンショックにより2009年の経済成長は落ち込むも、2010~2013年までは3.84%ほどあった経済成長率は、クリミア制裁後の2014年から2021年では平均で0.92%まで落ちました。
今回も、国際的な銀行間の決済システム(SWIFT)からロシアの複数の銀行を排除するなどの制裁を受け、ロシアの通貨ルーブルが暴落しています。ロシア経済は再び、かなりの血を流すことになります。
しかしロシア人は、ソ連が崩壊した80年代終わりから90年代にかけて、非常に厳しい耐乏生活を経験しています。92年のインフレ率は、実に2500%です。石けんや砂糖や塩やマッチが手に入らない時代が、わずか三十数年前でした。あの頃に比べたらマシだと、多くのロシア人は感じているはずです。
経済制裁の影響はこれから出てきますが、ロシアという国が潰れるほどにはなりません。したがって、プーチン大統領の支持率が大きく下がることは考えにくいでしょう。他方、政治的エリートや体制派の知識人以外の民衆はこの戦争を積極的には支持していません。
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佐藤優「プーチン大統領の目的は『ウクライナに傀儡政権を樹立すること』ではない」
2022/03/03 15:00
https://president.jp/articles/-/55227
ロシアのウクライナ侵攻にはどんな目的があるのか。元外交官で作家の佐藤優さんは「プーチン大統領の目的は傀儡政権の樹立ではない。完全な傀儡政権はウクライナの国民に支持されないことを、プーチン大統領は歴史から学んでいる」という――。
プーチンの目的は3つある
ロシアによるウクライナへの攻撃は、国連憲章に違反し、国際秩序を力づくで変更しようとする試みで、断じて認めることはできません。ロシアの責任は法的にも道義的にも大きく、厳しく指弾されなくてはいけません。
ただし、ロシアの進軍が止まらない以上、これから何が起きるのか、ひいては今回の軍事行動がどのような内在的論理に基づいているのか、正しく理解する必要があります。
大半のメディアや識者が、「プーチン大統領の目的は、ウクライナに傀儡政権を樹立することだ」と言っています。しかし私の見立ては異なります。
まず、ロシアがウクライナへ侵攻した目的は、3つあります。
1つ目は、ウクライナ東部のルガンスク州とドネツク州にいるロシア系住民の保護。そのうち70万人は、ロシア国籍をもつ人たちです。
2つ目は、ウクライナを軍事的な脅威ではなくすこと。すなわち、ウクライナ軍の攻撃的な兵器をすべて叩き潰すことです。ロシアが一番恐れていることは、ロシアと隣接する国に敵対する軍事大国が存在することです。ソ連時代の第2次世界大戦時にドイツ軍の侵略を受けて、2600万人もの犠牲者が出た苦い経験から来ています。
ですから、第2次世界大戦後、東ドイツやポーランドをソ連に併合する案が出たときも、それをあえて拒否したのです。ソビエトが主権国家の連邦である以上、それも可能だったのに、独立した人民民主主義国としました。NATO諸国との間に東欧各国が存在すれば、バッファー(緩衝)となる中間地帯にできるからです。
もしもウクライナがNATOに加盟すれば、バッファーを失ってしまいます。これがロシアの安全保障観です。その意味からもウクライナ全体の占領や併合はせず、非軍事化された戦略的な中間地帯にしておきたいはずです。
「ハンガリー動乱」「プラハの春」と同じ方法を試みている
そして3つ目の目的が、親米で反ロシア路線のゼレンスキー政権を倒すこと。ただし、次の政権は傀儡ではなく、ロシアと融和的であることが条件となります。完全な傀儡政権はウクライナの国民に支持されないことを、プーチン大統領は歴史から学んでいます。
1956年の「ハンガリー動乱」(社会主義体制下のハンガリーで、民主化やソ連軍の撤退などを求めた民主化運動)にソ連が軍事介入した際、ワルシャワ条約機構(東ヨーロッパ諸国がNATOに対抗して作った軍事同盟)からの脱退などを表明したナジ首相の追放後に擁立されたのは、カーダール・ヤーノシュという人です。彼はナジ政府の国務大臣であり、ソ連軍の戦車に抵抗した人物でした。
1968年に社会主義体制下のチェコスロバキア(当時)で起こった民主化運動「プラハの春」でも同じです。「人間の顔をした社会主義」を掲げて民主改革を試みたドゥプチェク共産党第1書記でしたが、ソ連などの軍事介入によって失脚したあと、政権を任されたのはグスターフ・フサークです。彼にも、スロバキア民族主義者として逮捕され、終身刑を言い渡された前歴がありました。
カーダールやフサークは、自国を裏切ってソ連に寝返ったのではありません。大国にいつまでも向かっていても勝ち目はない。ならば自分たちの祖国や民族を守るために現実的な方法でソ連と調整していかなくてはいけない。そういった高いモラルをもっていたのです。ハンガリーもチェコスロバキアも、その後は安定的に国家を運営できました。現政権や抵抗勢力の中から次の誰かを探し出すのが、ソ連以来のやり方です。
ロシアは、「ウクライナの次の政権も、ロシアの軍事力を背景に数年維持できれば、国民は受け入れざるを得なくなる」と考えているはずです。したがって、ウクライナ国民をある程度まとめられる人が、国内の現実主義的政治家の中から自発的に出てくるだろう。プーチン大統領は、そう見越しています。
2月25日、プーチン大統領がウクライナ軍の兵士に対して「その手で権力を奪い取れ」とゼレンスキー政権へのクーデターを呼びかけたのは、その証しだと考えられます。ゼレンスキー政権が崩壊し、ロシアに対抗しない政権が生まれれば、ロシア軍は撤退するはずです。
軍事侵攻を合法だと言い張るための周到な準備
それから、ロシアは国際法を完全に無視したのではなく、乱用しているのだという点も、踏まえておくべきです。ロシアは今回の軍事行動を、日本でもさんざん議論された「集団的自衛権」を根拠に置いています。すなわち、同盟国が攻撃を受けた際の個別的・集団的自衛権を定めた、国連憲章51条です。
侵攻に先立つ2月21日、ロシアはドネツク州、ルガンスク州の親ロシア派武装勢力がそれぞれ自称している両“人民共和国”を、独立国家として承認しました。国家承認の要求は、国民がいて、実効支配できている政府があって、国際法を守る意思があることを条件になされます。この“両国”には、外形的にそれらが整っています。そのため要求に応じる形で国家承認を行い、次いで「友好、協力、相互援助条約」を締結しました。これは日米安保と一緒で、安全保障のための条約です。それをロシアの国会で批准しました。
ロシアの軍事侵攻前の段階では、親ロシア派武装勢力はルガンスク州とドネツク州の一部を実効支配しているだけで、全域を支配してはいませんでした。しかし、ドネツク人民共和国の領土はドネツク州全域、ルガンスク人民共和国の領域はルガンスク州全域だと、両“人民共和国”の憲法は定めています。すると、支配が及んでいない地域は、ウクライナによって不法占拠されていることになります。ロシアはその“解放”のため、「友好、協力、相互援助条約」に基づいて、集団的自衛権を行使できるという理屈になるのです。
もちろん国際的に是認されるわけがありませんが、合法だという理屈を周到に組み立て、計画的に実行したことがわかります。
1968年の「ブレジネフ・ドクトリン」がよみがえった
「プラハの春」でソ連がチェコスロバキアを弾圧する際、ソ連は「制限主権論」を唱えました。「社会主義共同体の利益が毀損される恐れのあるときは、個別国家の主権が制限されることがあり得る」という論理で、「ブレジネフ・ドクトリン」と呼ばれます。これによって、ワルシャワ条約に加盟していたソ連、東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、ブルガリアの5カ国軍のチェコスロバキアへの侵攻を正当化したのです。
今回のロシアの行動は、「プーチン版ブレジネフ・ドクトリン」に基づいていると思います。すでに社会主義共同体ではありませんが、「ロシア連邦の死活的に重要な地理学的利益に反する場合、個別国家の主権が制限されることがある」という考え方です。
これはもはや、帝国主義的な弱肉強食の論理です。ロシアの利益のためウクライナの主権が制限されるという身勝手な論理は、断じて容認すべきではありません。しかし、プーチン大統領の頭の中は、このような論理になっているのです。
プーチンのウクライナ侵攻の手順は「教科書」通り
プーチン大統領の行動を読み解くのにもうひとつ役立つのが、イタリアのジャーナリストであるクルツィオ・マラパルテ(1898~1957年)です。『壊れたヨーロッパ』や『皮』の著者で、その思想はイタリアの独裁者・ムッソリーニに強い影響を与えました。特に、ロシア革命を分析した『クーデターの技術』は重要な本です。
マラパルテは、革命には大衆運動や政党など必要ない。1000人ぐらいの専門家が水道、鉄道、電気などの基礎インフラを押さえてしまえば、政権は転覆すると書いています。今回のロシアの軍事行動は、当初マラパルテの教科書通りに進んでいました。まず、ウクライナ各地の主要な軍事インフラや通信インフラを攻撃して麻痺させ、次にチェルノブイリなどの発電所を確保したのです。
点を押さえて政権を麻痺させてしまおうという戦術に、プーチン大統領のインテリジェンスオフィサーとしての本領が出ていました。
NATOもアメリカも完全に足元を見られていた
では国際社会の反応を、プーチン大統領はどう読んでいたのか。アメリカやEUや日本が最大限の制裁に踏み切ることは、織り込み済みだったでしょう。しかし、ごく短期間で軍事的な目的を達成して、先述した3つの目的を達成する基盤を作ってしまえば、国際社会は現状を追認せざるを得なくなると見ていたはずです。
少なくともプーチン大統領は、ウクライナをNATOに加盟させないという目標を達成し、NATO軍が自国の国境まで迫る事態を回避しました。ウクライナは当面ロシアに敵対できないでしょうから、政治的影響力と緩衝地帯の維持に成功したのです。
NATOもアメリカ軍も直接は介入してこないと、完全に足元を見られていました。EU諸国は、天然ガスなどのエネルギーをロシアに大きく依存しています。ヨーロッパ全体で4割。ドイツに至っては5割超です。失う打撃の大きさを考えれば、時が経つほど弱腰になるとプーチンは見ています。
アメリカは、国内世論が厭戦ムードですし、バイデン大統領はあまりに早くから軍事的な手段をとらないと表明してしまいました。
ロシア国民はクリミア併合の時ほど歓迎していない
ロシア国内はどうかと言えば、2014年のクリミア併合の時ほど、国民は歓迎していません。あのときは、欧米にやられっぱなしだったロシアの逆転の象徴だと受け止められていました。
しかし、国際的な経済制裁を受けて、国民の生活は厳しくなりました。プーチン大統領の1期目と2期目である2000~2008年までは経済成長率は平均で年6.97%、リーマンショックにより2009年の経済成長は落ち込むも、2010~2013年までは3.84%ほどあった経済成長率は、クリミア制裁後の2014年から2021年では平均で0.92%まで落ちました。
今回も、国際的な銀行間の決済システム(SWIFT)からロシアの複数の銀行を排除するなどの制裁を受け、ロシアの通貨ルーブルが暴落しています。ロシア経済は再び、かなりの血を流すことになります。
しかしロシア人は、ソ連が崩壊した80年代終わりから90年代にかけて、非常に厳しい耐乏生活を経験しています。92年のインフレ率は、実に2500%です。石けんや砂糖や塩やマッチが手に入らない時代が、わずか三十数年前でした。あの頃に比べたらマシだと、多くのロシア人は感じているはずです。
経済制裁の影響はこれから出てきますが、ロシアという国が潰れるほどにはなりません。したがって、プーチン大統領の支持率が大きく下がることは考えにくいでしょう。他方、政治的エリートや体制派の知識人以外の民衆はこの戦争を積極的には支持していません。
>
結論から言えば
・実写の原作不足
・「これやっとけば当たるだろう」と言う非リスクテイクの資本判断
・実写の原作不足
・「これやっとけば当たるだろう」と言う非リスクテイクの資本判断