知の逆転 P197
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──以前、物語は、小説とそれ以外すなわちSFとに分けられるとおっしゃっておられました。ご自身は小説を読まれないそうですが、それはなぜなのでしょうか。
ミンスキー 私は探偵小説も含めて小説というもの、いわゆる「一般文学」と呼ばれるものはほとんど読まない。みなほぼ同じだからです。ユングの心理学と同じで、たいていの小説はまず人々の問題があり、彼らが陥った難しい状況というものがあって、それをどうやって解決するか、うまく解決できてハッピーエンドになるか、そうでなければ、うまくいかなくて罰を受けたり死んだりするか。一〇〇冊小説を読んだら、みな同じなんですね。
子供の頃、たくさんの本を読みました。好きだったのは、新しいテクノロジーや科学についてのアイディアをいろいろ提供してくれたジュール・ウェルヌや、歴史というものがどうやって変わっていくか、変わりうるのかということをたくさんの物語で教えてくれたH・G・ウェルズなどです。もう少し大きくなってからは、ロバート・ハインラインやアイザック・アシモフなどになります。彼らは、いろいろな動物や生き物について、また新しいものの考え方について、多彩な物語を提供してくれました。
いまでは、読むのはほとんどSFですね。少なくともこれらの中には、往々にしてなんらかの新しいアイディアが入っているから。任期小説と言われるものを読むと、いつも古いアイディアに新しい名前の人々を入れかえただけですから。
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・うーむ、ミンスキーに楳図かずおの「14歳」を読んで、衝撃を受けて欲しい。
・確かに小説は大体そう。
江戸川乱歩賞なんて「人が三人ぐらい死んで、地方に言って社会的問題を絡めて謎解きをする」という傾向と対策なる方程式が決まっているので面白くない(ように思える)。ある時10人くらいが死ぬ作品が選考に出て、「うーん、10人は死にすぎ」とか言う言葉が審査員から出てその後、人が死ぬのは3~4人になったと言う。
・要は人の心理的葛藤や精神的課題を何らかの形で消化し、そして物語中で昇華するのがいい。
それが人類や生命体の存続に関するものであれば、それだけ物語が大きくなる。
(全人間社会の危機:鋼の錬金術師、全人間+全妖怪の危機:うしおととら、全生命体の危機:グレンラガン)
いずれも大変面白かった。
・さて、現実に戻るが、現代社会において、我々が共感しうる心理的葛藤、精神的課題はどこにある?
学校でのいじめ? 会社での陰湿さ? 雇用の不安? 失われた20年?