豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

飢餓状態での登山ってどうなのよ?

2008年04月14日 | 山ネタ そのほか
登山は大量のエネルギーを消費するもので、1日行動していれば、3000キロカロリーなんてあっという間に使い果たしてしまいます。では山でテント泊する人はそれだけの栄養分を持参しているかといえば、それはまずありえません。3000キロカロリーはおにぎりに換算すると12~15分に相当しますから、それだけのカロリーを背負って行動するのは大変です。また日常の食事レベルのカロリーでさえ、長期間縦走するような人にとっては重すぎです。

そこで山をテントで縦走するような人々はカロリーの少ない食料で行動を続けるわけですが、中にはそれを極端に減らしてみた人がいます。

秘境日高三股へようこそ/伝説の岳人「細貝 栄」


細貝栄氏は上記のサイトの通り、伝説に近い人です。特に長期縦走ですさまじいことをやっているのですが、多くの記録は未発表のままなので、記録を知るには他の人が書いた山行記録にあたるしかありません。私が初めて細貝氏の名前を知ったのは、工藤英一著「北の分水嶺を歩く―襟裳岬から宗谷岬へ北海道主脈縦断」という本なのですが、ここで細貝氏は著者と一緒に40キロ以上の荷物を背負って雪の日高山脈を全山縦走しています。


で、この細貝氏は10年ほど前、珍しいことに岳人で記録を発表しています。その内容は飢餓状態でどれだけ行動できるか、というもので、ごくわずかな食料だけで2週間以上の縦走を敢行しています。前述のサイトから、ちょいと引用してみましょう。

引用
今回は、絶食の実験中で、南アを絶食しながら縦走しているとのことで、黒戸尾根から入り、3~4日掛け、食事を落とし、後は1日20グラムの黒砂糖だけで行動しているそうで、始め1週間はとても苦しく、1日の行程もコースタイムの1/3か、1/4位しか歩けなかったが、1週間ほど前からは気分も爽快で行動も普通にできるそうである。
引用おわり

黒砂糖は100グラムで350キロカロリーです。ということは、30グラムだと100キロカロリー程度でしょうか。これが1日の食事というわけです。何ともまあ、凄まじい話です。



で、これって普通の人でもできるのか、というのが今回のテーマです。極端な低カロリー状態でも、人間は山を歩けるのか・・・・・




私は山小屋に勤務する前、冬の北海道を野宿しながらひたすら歩いたことがあります。この時は50日間で約1200キロを歩いたのですが、最初の1ヶ月で体重が90キロから78キロまで落ちました。ようするに、あまり喰っていなかったんですね。

最初は数日分の食料をザックに入れていたのですが、なんせ荷物が重いのでどんどん減らしました。やがて食料はまったく持たず、途中で商店とかコンビニを見つけた時だけ仕入れるというスタイルに変更しました。

が、これがまたうまくいけばいいのですが、冬の北海道の海岸沿いって無人地帯に近いところがたくさんあります。なかなか食料が入手できない日もあるわけで、いつしか1日の食事が小さな柿ピーの袋ひとつとか、ラーメン1袋だけとか、どんどんひどくなっていきました。

ただ不思議なことに、そんな生活を続けていると特に空腹を感じなくなるんですね。前の晩にラーメン1袋食べた後、朝食はなしのまま35キロ歩き、晩飯抜きのまま寝て翌朝の朝食もなし。で、昼前までに15キロほど歩いた地点でようやくジュースの自動販売機を発見し、ジュース3本ガブ飲みした、なんてこともありましたけど、そんなに辛かったという記憶はありません。

なんとなくおなかが変だなあ・・・・程度の感触はあるのですが、通常のスピードで歩けますし、お腹が鳴ることもなかったように思います。

その旅を終えてから山小屋に就職したわけですが、その後1年ぐらいはシャリバテなんてまったく無かったですね。喰っても喰わなくても関係ない、って感じです。行動食を持って行っても、手つかずのまま下山することがよくありました。

で、現在はそのような魔法がかった状態は無くなり、情けないほどすぐにシャリバテ起こします。行動食は欠かせません。




で、その状態をさらに続けるとどうなるのか。私の場合、30日を過ぎたあたりから、背中の痛みが激しくて大変でした。まともに背負っていられないのです。荷物をどんどん削っていくのですが、最後には15キロ程度のザックでも辛くなります。それでも歩き続けたわけですが、冬の知床峠を越えるのに失敗した時点で気力がダウンしてしまい、リタイヤしました。

おそらくは、低カロリー状態で行動を続けた結果、体のタンパク質を大量に消費して脂肪を燃焼させていたために、筋肉がどんどん落ちてしまったのでしょうね。途中からヤバいと思い、それなりに食うようにはしたのですが、体力はまったく回復しませんでした。




というわけで、人間は飢餓状態になってもやがて体が順応し、そこそこ動けるようになります。万が一の時でもそのことを覚えておけば、吾妻山から12日ぶりに生還した人のようにカッコよく自力下山できるかもしれません。そのためにも非常食は大切です。またヤケになって非常食の一気食いはやめておくべきです。


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2 コメント

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Unknown (ULG)
2008-04-15 15:59:04
初めまして。
いつも拝見しています。

ダイエット絡みの聞きかじりですが、
飢餓状態で行動できるようになるのはケトーシスで体脂肪を直接エネルギーとして使える状態になり、知床で30日後に動けなくなったのは、体脂肪が尽きて次の段階として体の蛋白質を使いだしたのかと思いました。
かなり危険な状態ですね。
意識的に体脂肪率のコントロールにケトーシスを利用する人を知っていますが、注意が必要と思います。
私も自分の体脂肪率を元にどれくらいの期間食わずに歩けるか計算したのですが、訳1ヶ月くらいは大丈夫なようです。嬉しいやら悲しいやら..
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Unknown (bongo-pete)
2008-04-15 21:40:21
体のタンパク質を使い始めたのは、おそらくかなり早い段階からで、ザックを背負うのがつらくなるほどの影響が出てきたのが30日以降なのかなあ、と思っています。

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