豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

身元不明と行方不明

2008年04月02日 | 遭難と救助について考える
ニュース24時:佐久穂・登山服姿の男性遺体を発見 /長野
毎日新聞 2008年3月31日

北八ケ岳連峰付近の林道で倒れている70歳くらいの男性が発見されたのですが、ニュースになった時点では身元がわからないようです。

このニュース、どこかで聞いたような?と思って長野県警山岳救助隊のサイトを見ましたら、「登山者の身元を捜しています」というページにやはり八ヶ岳連峰で発見された身元不明遺体について出ていました。こちらは30~50歳となっています。偶然ですが、発見された日付も同じですね。後者はたしか1年前に出ていました。

山の遭難では、身元不明というのはあまり無いようです。行方不明になれば家族が捜索依頼を出すのが普通ですし、遺留品にも普通は身元を知る手がかりが残っています。70歳男性の場合は家族がまだ捜索願を出していないだけなのかもしれませんが、1年も放置されている後者の男性はちょっと変な感じです。もしかしたら捜索願は出ていても、家族や友人に「山へ行く」と伝えていないのかもしれません。



ところで、山で行方不明になって長い間出てこない場合、失踪宣告という問題が出てきます。これは家族等が行方不明になり生死がわからなくなった時、その人を死んだものとみなすという規定です。

失踪宣告は裁判所に申告し、審判を経て確定するわけですが、これが確定しないと生命保険が下りなかったりするわけですね。通常の行方不明では7年間、海での遭難だと1年で認められるのですが、山の遭難だと1年で認められることがあるようです。

数年前、北アルプス北部で激しい雷雨があった時、蓮華温泉周辺を歩いていた親子が行方不明になったのですが、この時の捜索には仲間のパトロール隊員が出動しています。で、この時彼は地元の民間山岳救助隊員から、このように言われたそうです。


「遺留品を見つけたら、そーっと拾え。もしかしたら指の骨ぐらい残っているかもしれん」


少しでも遺体の一部が発見できればDNA鑑定で本人を確定でき、失踪宣告せずに済みます。すると生命保険もすんなりと遺族に下りてくるから、経済的にも助かるわけです。



そういえば、そこそこハードに登っていた頃は、山の装備のあちこちに自分の名前を書いておいたものです。最近はめんどくせーって感じになってきたので雨具とザックぐらいにしか書いていませんが、山をやる人間のたしなみだと、とある山の先輩に言われたことがあります。つまり、自分が行方不明になった時、捜索してくれる人間が遺留品を見つけたら即座に身元がわかるようにしておくためです。

そのことに影響された私は、単独で縦走する時には万が一に備えていろいろ考えたものです。例えば途中に避難小屋があると必ず立ち寄って、そこにメモ書きを残しておきます。避難小屋には大抵、記念に書き込むためのノートが置いてあったりするので、簡単に通過日時等を記しておくのです。こうすると、万が一の事態が起きた時に救助隊がこの書き込みを発見してくれれば、捜索範囲を絞れるのです。

もうちょっと付け加えておきますと、これらの行為は助かるためではなく、見つけてもらうためのものです。



というわけで、「縁起の悪い話だ」としかめっ面されそうな話をしましたが、たとえハイキング専門だとしても山登りってのはこういうモノなのです。


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