豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

直径5センチのハイマツ

2009年02月04日 | 山岳遭難
===2016年1月28日追記===
ボートが滑落したのはハイマツが折れたのではなく、ロープの結び方が不十分だったからだと、裁判で認定されたようです。よって以下の内容は参考になりません。
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例の積丹岳における事故ですけど、ボートを括りつけた樹木ってのが直径5センチのハイマツだったそうですね。


生きている木という前提なら、直径5センチのハイマツは比較的安心して使える支点です。少なくとも、大人の男性ひとりを載せたボートを40度の斜面に固定する程度だったら、バキーン、となるわけがないと思います。

そんなわけで、この件についてはかなり不思議だなあと思っているのですが、折れた原因について私はハイマツの枯死した枝にロープを結んでしまったのではないかと思っています。


見かけ上枯れているように見えるハイマツの枝でも、ブッタ切ってみると中はまだまだ肌色をしていて生きているものが多いです。それらは概ね頑丈で、私も支点として使ったことがあります。ご存じの方も多いと思いますが、ハイマツは枝から根っこが地面に伸びるという性質がありますので、実を言いますと枯れている部分のほうが葉っぱとか邪魔が無くて支点に使うには手っ取り早いです。

ただ本当に死んでいる場合はやはり弱いもので、簡単にパキーンとなることもあり得えます。





他に気になるのは、支点チェックの難しさ、です。「生と死の分岐点」にも書いてあったかもしれませんが、やはり見た目だとか手で揺さぶる程度では、確実性はないと思います。

若い頃、登山道上に倒れていた大きな倒木を乗り越えようとした時、枯れ枝つかんではい上がったら枝が折れてしまい、10mぐらい登山道から滑落したことがあります。枯れ枝を手で揺さぶってみてチェックしたつもりでしたけど、倒木にまたがった瞬間にぱきーーーーーん、となってそのままずり落ちました。ケガはしませんでしたが、他の倒木の下に勢いよく潜り込んでしまい、体が抜けなくなってヤバかったです。10分後にようやく出てきましたが、あのまま抜けられなかったら、単独だったので雪に埋もれたまま凍死してたかもね~~・・・・・

そんなわけで、仮にこの救助隊員が支点を簡単にチェックしていたとしても、微妙な強度だと見逃す可能性は無きにしもあらず、だと思います。

だからバックアップだとか必ず2点から支点を取るというのはやはり大切で、どんな状況下でも守らねばならない鉄則だと思いますよ。今回のケースでは支点に墜落の衝撃がかかりませんし、斜面にボートを固定するだけだから支点にそれほど荷重はかかりませんけど、偶然が偶然を呼べばこういうことも起こりえるわけです。



この場合、何も支点を無理にもう1個作る必要はありません。1個で充分です。木に支点を取ると同時に隊員が一人ボートより少し上にあがり、人間アンカーとなってロープかスリングをピンピンに張っておくだけで問題ありません。仮に木の支点が崩壊しても、ボートと大人ひとり程度の重さでしかも斜面ですから、まず大丈夫でしょう。





まあ、これはかなり不運なケースであり、また「よくもまあ、こんな天候でレスキューにいくなあ」と思うほど厳しい天候下ですから、この件について重大ミスだ!といって救助隊をむやみやたらと責めるのもアレですね。

おまけに雪庇が崩落して滑落するし、少ない人数で人力搬送ですし、遭難者は生きるか死ぬかの瀬戸際ですから、現場の焦りは想像以上でしょう。






そして遭難者についても、ちと書きます。

遭難された方は雪洞を掘る知識もあり、また簡易テントも持参していたということですから、まったく無防備なボーダーということではないでしょう。でもビバークした翌日には、寒さで弱って歩行困難となっていたわけです。

ちと厳しいことを書きますけど、もうちょっといいコンディションを維持できなかったのか、と。寒さで朦朧としている状態で発見されたそうですが、たとえケガをしていてとしても比較的元気ならば、「搬送に時間がかかるから、今晩は雪洞にでも泊まって、明日天気が良くなったらヘリコプターで帰ろうか~」という選択が出てきます。本人はともかく、救助隊にとっては選択肢があればあるほど気分的に楽です。

ちょっと前にもビバーク態勢に入りながら簡単に凍死してしまうケースが続きましたけど、今回のケースは比較的若い人ですから、もうちょっと何とかならなかったのか、と思ってしまいます。これだけ凍死の例が多いと、ビバークの技術とか知識について、再検討すべき時期に来ているのかなあ、と思いますね。



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11 コメント

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Unknown (亮介)
2009-02-04 18:22:55
ビバークの知識、おおまかなところはマニュアルでも覚えられますが、コツみたいな物を経験豊かなビートさんにお聴きしたい気がします。新聞紙持ってけとか、ザックは大きめの方が足が突っ込めていいとか、そういう豆知識系の物。
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Unknown (bongo-pete)
2009-02-05 00:20:45
亮介様

いえいえ冬山でビバークなんて、したことないですよ。私は夏の北アルプス北部の猫の額のように狭い地域のプロなんで・・・・・

まあ冬山で寝ていて寒い時は・・・・

○フライシートをはずして寝袋の上にかける
○雨具とか着込まず、寝袋にかけて薄着で寝る

ぐらいですかねえ
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Unknown (亮介)
2009-02-05 06:02:42
フライシート寝袋がけ、いただきです。
水筒であんかを作るなんてのも、ちょっと前まで知りませんでした。ビバークというレベルの話じゃありませんが(笑)

昔、冬に寝袋の中でどうにも足の指が冷たくて仕方ない時に、ぬいだ靴下を指のまたに架け渡して五本指をばらばらに遠ざけたら温かいという「技術」を開発したことありました。もうちょっと考えたら五本指靴下の特許が取れていたんだろうか、、、なんて。
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Unknown (bongo-pete)
2009-02-05 13:03:03
亮介様

>五本指をばらばらに遠ざけたら温かい

微妙な味わいのあるテクですね(笑)


以前、フライシートとシュラフカバーを忘れて入山し、フライ無しテントのまま雨に降られたことがありますけど、雨具を着てそのまま寝袋に入って寝たことがあります。ちなみに山小屋はちゃんとあるのですが、お金がもったいないのでそのままガマンしました。

それでも、意外に熟睡してしまいましたね。目が覚めると寝袋どころか全身がグショグショでしたけど、冷たくもなんともなかったです。
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Unknown (ばぎ)
2009-02-06 00:32:45
フライを外して寝袋にかけるって暖かいんですかね?
フライもテントも生きてるなら 普通に設営した方が良い気がするんですがどうでしょうか?
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Unknown (bongo-pete)
2009-02-06 07:28:10
ばぎ様

寝袋が薄く、寒くて眠れない時にやってみたのですが、なんとか寝れるようになりました。

普通にテント設営して寝れるならそれでいいと思います。私も毎回やっているわけでなくて、寒くて眠れない時に試しでやってみるだけです。それをやっても寒いときはもちろんあります。
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Unknown (ばぎー)
2009-02-07 02:30:24
なるほど 確かに雨とかが無ければ良さそうですね。
天気が良ければツェルトも張るよりくるまる方が暖かそうですね。
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Unknown (bongo-pete)
2009-02-07 06:38:26
ばぎ様
ツェルトしか無い場合にそれにくるまってしまうと、風が直接当たって体温を奪ってしまうと思います。

フライシート付きのテントで、なおかつ雨とか雪が無い時に使えるテクだと思います。フライなしテントで風があたるのを防ぐわけです。
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Unknown (ばぎー)
2009-02-10 00:34:01
うーん 確かに

こんど10人くらいでビバーク訓練するんですが 何かアイデアとか実験の案とかありませんかね?
人体実験(笑)
一応 フライくるまり試してみるつもりです!
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Unknown (bongo-pete)
2009-02-10 01:14:13
ばぎー様

雪があるなら、雪洞つくってみるのが一番だと思いますね。私もやったのは1回こっきりですが、参考になりました。

私がやったのは八方尾根でしたけど、ちょいと雪が少なめでしたので逆にブロック積みとかいろいろやれました。
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