豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

遭難救助で活躍するヘリコプター

2006年04月05日 | 山を飛ぶヘリコプター
北アルプスに仕事で絡むようになってから、今年で10年になります。その間おそらく40件ほどの救助要請に関わっていると思います。

ほとんどのレスキューでヘリコプターを呼ぶことになります。今回はこれまでのレスキューで関わったヘリについて、「地上部隊」である私から見たインプレッションを書きましょう。



長野県警「しんしゅう」

自分にとって小屋番時代からなじみの機体です。3年ほど前まで、県警ヘリの出動と言えば「しんしゅう」でした。

元々山岳向けの機種ではないので、山岳地帯ので救助には苦労したようです。現場で待っていても、なかなか接近できないなんてことがよくありました。またホイスト(電動ウィンチ)の荷揚げ能力もそれほど高くなく、1回に1人が限度でした。

しかしパワーが少ないためにダウンウォッシュが弱く、落石が起こりそうな斜面でも安心感があります。

「やまびこ」が新しい機体になってからほとんど見かけなくなりましたが、今でも好きな機体です。1度訓練でホイストによる降下をさせてもらったこともあります。

また槍ヶ岳山頂の北鎌側で転落事故が起きた時、ガスが渦巻く中を突入してきて困難なホバーリングを続けていたのも印象深いです。もっとも、困難なホバーリングをさせたのも私が原因なのですが・・・



長野県警「やまびこ」

現在長野県警の主力になっているヘリです。「しんしゅう」と比べてスピードもパワーも段違いになりました。高所でも安定して飛行しています。「やまびこ」が登場してからは隊員と遭難者を同時にホイストで吊り上げるようになりました。昨年の白馬大雪渓崩落事故でも活躍しています。

しかし、パワーがある分、ダウンウォッシュがすごいです。ヘリの下で誘導していると、タコ踊り状態になります。急斜面にいると、上から石が飛んできます。落石がヤバそうな現場の場合、遭難者を安全な場所へ移動する必要があります。

北アルプス北部の夏山で遭難が起きた場合、「やまびこ」が出動することが多いです。

現在の「やまびこ」は2代目で、先代は20年以上使われていたそうです。1回だけ槍沢雪渓でのレスキューで飛んできたのを見たことがあります。先代は山に不向きな機体なので、燃料を少なくしたり余計な席をはずしたりして軽量化したそうです。


富山県警「つるぎ」

富山県警が誇る山岳仕様のヘリコプターです。北アルプスの富山側で事故った場合に富山県警を呼び出すことがありますが、その際には必ずと言っていいほど「つるぎ」が飛んできます。

山に強いせいか、狭い谷筋が現場でも突っ込んでくる時があります。一度唐松岳の牛首の鎖場でハードなツッコミを見て以来、ファンになりました。

関係者から又聞きした話ですが、アグスタのヘリを購入した場合、一度全バラにしてから整備しないとトラブるそうです。組み立てがあやしいと言っていました。


長野県消防防災航空隊「アルプス」

いわゆる防災ヘリです。山岳遭難救助のほとんどは警察が行うのですが、消防署へ通報があった場合、防災ヘリが飛ぶようです。また県警ヘリが機体整備や多忙な場合、「アルプス」が飛んできます。

一度訓練で乗ったことがありますが、内部は広いです。もっとも座席はなく、カラビナを結びつけたロープが張ってあり、これでビレイをとっておくだけです。

「アルプス」もパワーがあり、山岳飛行では安定しています。ですが、遭難救助の大半が県警への通報なので、出動機会は「やまびこ」にくらべてぐっと少ないようです。


東邦航空「ラマ」

報道で「民間ヘリが救出」と記事に出ている場合、ほとんどが東邦航空の「ラマ」です。

「ラマ」はコクピットとエンジンにフレームがついただけのシンプルな機体です。そのため山の関係者の間では「山の軽トラ」と呼ばれています。

「ラマ」は山小屋の荷揚げには欠かせない機種です。一度に揚げられる荷物は標高3000mで600キロ、涸沢あたりだと800キロぐらいなのですが、この荷物量が山小屋の少ない人手にちょうどよいのです。大きなヘリでドカンドカンと荷物を下ろされても、小屋内に収容が終わらないうちに次の便が来てしまいます。

「ラマ」のいいところは、横風に強く高所向きな点です。県警ヘリが接近できないような天候でも突っ込んできます。また山の荷揚げで腕を磨いてるパイロットが多く、高所でのホバリングはお手の物です。岩壁でも構わず接近してきます。困難なレスキューは、「ラマ」の専売特許かもしれません。

今の夏山では、「ラマ」の出動回数はそれほど多くないような気がします。北アルプス北部で5年パトロールやりましたが、「ラマ」が飛んできたのは1回しか経験していません。東邦航空と契約している小屋が多い北アルプス南部ではもっと飛んでいるのかもしれませんが、北部では見かけなくなりました。「やまびこ」や「アルプス」があるので、夏山なら出番は少ないのでしょう。

しかし冬山遭難では大活躍中です。長野県だけでなく、群馬の谷川岳での遭難まで出動しています。

ここ最近遭難が多発していますが、その度に白い「ラマ」が飛んでいる映像がテレビに流れます。あの白い「ラマ」の機体には、今は亡き篠原氏の顔をモチーフにした、ユニークなマークがついています。


よく「落ちるなら岐阜側。ヘリが無料だから」なんて言われますが、私はおすすめしません。山岳保険に加入して、無料の県警ヘリでも有料の民間ヘリでも心おきなく呼べるようにすべきです。

県警ヘリはたしかに無料ですが、遭難救助専門というわけではありません。機体整備や犯人の逃走車を追跡中で、現場に回せないこともあります。また遭難が多発する時には、なかなか飛んできてくれません。そんな時「民間でもOK」なら、「ラマ」がすぐに飛んできてくれる可能性があります。

また困難な地形や悪天候の時でも、「ラマ」なら可能ということもあります。山小屋での急病といったケースの場合、荷揚げで山小屋周辺の地形を知り尽くしたパイロットなら、かなりのガスでも飛んでくる場合があります。

泣きながら痛いのを必死にこらえるだけで済むのならいいのですが、死にかかっている時に民間ヘリを選択できないのはつらいと思います。年間数千円で済む保険なのですから・・・






3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
やっぱり (もりもり)
2006-04-05 21:50:33
元小屋番としてはラマがいちばんだね!
返信する
Unknown (bongo-pete)
2006-04-05 22:57:25
>元小屋番としてはラマがいちばんだね!



しかし、激しい荷揚げが続くと、ラマが夢に出てくる。
返信する
Unknown (ons)
2009-05-13 13:41:24
調べたついでに…
ベル206が自重737kg 約400馬力
「やまびこ」のユーロコプター365は自重2302kg 約1700馬力
やはり、人が乗ると小さなベルはつらそうですね。
「つるぎ」アグスタ109は自重1555kg 約1100馬力
ちなみに自衛隊のUH60は、自重5216kg 約3200馬力だそうです。
返信する