豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

人はどこで彷徨うのか

2009年09月09日 | 道迷い遭難を防ぐシリーズ
今年の夏山シーズンは遭難が少なく比較的平和だったのですが、唯一と言っていいほど大騒ぎしたのが天狗の大下り付近で行方不明になったパーティの件です。


7月29日の午後、隣の班から唐松山荘に電話連絡がありました。3人パーティが白馬岳~唐松岳間にある天狗の大下り付近で道に迷い、そのうちひとりだけ登山道に脱出してきて天狗山荘に駆け込み、山小屋の人に通報してきたのです。というわけで、唐松山荘にいた私は、ちょうど通常のパトロールに出ようとしていた隊員をつかまえて急遽、出動させました。

この時点では大した情報が入っていないので、運がよければ登山道にはい出てきた登山者を見つけてチャンチャン、ぐらいに思っていました。が、この日は天候が悪くて視界がなく、呼びかけを行ってもほとんど声が届かない状態です。また出動したのが午後2時過ぎであり、現場は山小屋から離れているため、時間をかけた捜索もできません。というわけで、5時頃まで呼びかけを続けた後、天狗山荘に入りました。

翌朝3時半、天狗山荘に集まった隣の班とウチの班員とで天狗山荘を出発。相変わらずの視界不良でしたが無事に2名を発見できました。そしてヘリコプターもギリギリの天候をかいくぐって飛んできてくれたので、昼前には全員病院へ収容できたようです。


以上が事故の概要ですが、ではではいったい、どこで道を間違えたのでしょうか。



現場は天狗山荘から約1時間、天狗の大下りが始まってすぐの地点にある鎖場の直下らしいです。天狗山荘に逃げ込んできたお客さんの話だとサッパリわけがわからないそうなんですが、たぶんココだろう、と、出動した隊員から聞きました。

下の画像は、天狗山荘方向から見た、道を間違えたと思われる地点です。






最初の鎖場を降ると、ラインが2つに分かれます。ひとつは昔からのラインで、鎖を伝っていきます。もうひとつのラインは比較的新しいラインで、踏み跡がいつのまにか道になったものです。数年前まではありませんでした。

目印がついている関係上、鎖場のラインを通過する人が多いのですが、この鎖を伝って降りきった地点が画像で見ますと直角にターンするところにあたります。正式なラインは点線ですが、鎖にしがみついて降りているとうっかり実線のとおりに行ってしまう人がごくマレにいるようです。そこでここには、以下の画像のように緑のロープが張ってあります。





遭難したパーティは、このグリーンロープの存在に気づかなかったみたいです。たしかに地形の関係で高い位置に張ってあるのですが、それでも3人もいれば普通は気づくと思うのです。もしくは見ているけど、忘れているのでしょうね。

先頭は天狗山荘に逃げ込んできた人で、比較的初心者とのこと。そしてパーティにはこのコースの経験者がいたのだとか。それでも先頭が間違ってルンゼに突っ込んでいることに気づかず、全員でガンガン下ってしまっています。ここは下に行けば急斜面でガラガラであり、普通はすぐにおかしいと思うはずですが、ようやく気づいた頃には、登り返すのが困難な地点に突っ込んでしまい、パーティの一人はザックを捨てて行動し、もうひとりは落石喰らって軽傷を負い、さらにパーティがバラバラになっています。レスキューに出た隊員は現場へ接近する時にロープを使って下降したほどですから、よっぽどヤバいところだったんでしょうね。


==追記==

画像を追加。クリックで拡大します。
これは唐松・不帰方面からみた現場です。画像中央から左ななめ下が間違って下ったラインで、右ななめ下が正式なラインです。



======


ちょっと長くなったので、また別ネタで「人はどこで彷徨うのか その2」を書きますが、鎖場とか岩場ってルートをミスってとんでもないところに行く例が多いです。緊張しながら通過する時には視界が狭まってしまうもので、周りをよく見ていないんですね。唐松山荘の横にある牛首の岩場でも、もう安全地帯だというのに鎖にしがみついて縮こまったままジリジリ歩いている姿をよく見かけます。