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「平安時代の国家行事としての相撲大会・・「相撲の歴史」新田一郎氏著(4)

2018-02-07 | 日本の不思議(現代)



引き続き、新田一郎氏の「相撲の歴史」のご紹介をさせていただきます。リンクは張っておりませんが、アマゾンなどでご購入になれます。

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             (引用ここから)

「相撲節(すまいのせち)」の起源

8世紀に始まり、9世紀には平安朝廷の年中行事として定着した「相撲節(すまいのせち)」は、12世紀末に断絶するまで、およそ400年にわたり、雅楽・饗宴などを伴う絢爛たる催事として、宮廷の初秋を飾っていた。

その間に熟した様式(式次第・舞楽・伝承など)が、後世の「相撲」に決定的な影響を及ぼした。


さまざまな儀式・故実に彩られた現在の「大相撲」は、その由緒をしばしば平安朝廷の年中行事であったこの「相撲節(すまいのせち)」に求めている。

そうした由緒には、議論の余地のあるものもあるが、「相撲」を「相撲」たらしめる格闘競技としての統一された様式は、この「行事」を通じて形成されたのである。


朝廷行事としての「相撲節(すまいのせち)」の源流は、「農耕儀礼」と「服属儀礼」の2つの側面に求めるのが常である。

「農耕儀礼」、ことに「水の神」にまつわる祭事と「相撲」との関係についての民俗学的な解釈には、

「国譲り神話」の敗者である「タケミナカタ」の名に、「水」=「水の神」の投影を見出す見解があり、

また「相撲節(すまいのせち)」の起源説話とされる「スクネ」と「クエハヤ」の「力比べ」が垂仁天皇7年7月7日に設定されていることは、

「相撲節(すまいのせち)」を「七夕」の「水の神の神事」に結びつける意図から出たものと推察される。


「七夕」と「相撲」の結びつきは、年の後半の農事を前にしての「年占(としうら)」の神事に求められるが、

「相撲節」でも、「相撲人」の取組に先立って、四尺以下の小童による「占手相撲」が行われた。


また、「諺にいわく、左方を帝王方となす」として、貞観年間(859年~877年)以前には、正規の取組の第一番には、右側の「相撲人」が、わざと負けるならいであった。


「相撲節(すまいのせち)」の起源のもう一つの側面=「服属儀礼」については、「スクネ」と「クエハヤ」の力比べ、タケミカヅチとタケミナカタの「国譲り」の2つの神話から、

「遠来の強者=マレビト」が土地の悪しき精霊を圧伏し、その力をもって天皇に奉仕する」というモチーフが共通して読み取れる。

天皇は国家的規模の「年占(としうら)」の主催者として、自らを位置づけ、自らの下に国土を統合する論理を提示してみせたのであった。


「相撲節」の起源を「服属儀礼」の側面から見る場合、注目するべきは、「隼人(はやと)族」による「相撲奉仕」、いわゆる「隼人相撲」である。

「隼人族」とは、南九州およびその南方の島々に出自をもつ人々であり、5世紀ごろから畿内国家に服属し、彼らの一部は畿内に来住して「隼人司」の支配に服し、天皇への奉仕の任にあたった。


「記・紀神話」では、天王家の祖先と、「隼人族」の祖先は兄弟であったとされている。

「日本書紀」によれば、「国譲り」の結果、「葦原の中つ国」の支配者となった天孫ニニギノミコトの子、「ホスセリ」(兄)と「ヒホホデノミコト」(弟)はそれぞれ、「海」と「山」を生業場としていた。

ある時、それぞれの漁具・猟具を交換し、生業の場を変えてみたところ、兄・ホスセリは、弟・ヒホホデノミコトに借りた釣り針を紛失してしまった。

このことから兄弟間の闘争となり、兄を呪詛する言葉と、潮の干満をあやつる珠を海神から授けられた弟・ヒホホデノミコトが、それらを用いて、兄・ホスセリに勝利をおさめた。

「海幸(ホスセリ)・山彦(ヒホホデノミコト)の神話」として知られるこの闘争を、海神の助力を得て制した「ヒホホデノミコト」は、海神の娘「トヨタマヒメ(豊玉姫)」を娶り、父ニニギノミコトの跡を継いで支配者となり、

この国土支配権がその子「ウガヤフキアエズ」を経て、孫・「カムヤマトイワレヒト=神武天皇」を祖とする天皇家に受け継がれる。


一方、敗者となった兄・ホスセリは「ヒホホデノミコト」に臣従を誓い、

その子孫は「阿田君」(阿多隼人)を名乗って、ホスセリが珠によって招き出した海に溺れ、苦しみ、助けを乞う様を歌舞として演ずるなど、種々の芸能をもって仕えるとともに、

都の警護者として昼夜天皇家に奉仕することとなった、という。


この説話は、「隼人族」の天皇家への奉仕の「起源説話」であり、畿内国家への服属の物語であることは言うまでもない。

服属した氏族の祖先を、天皇家の系譜に連なる者として物語に組み込むのは、「記・紀神話」のいわば常套の手法である。


さて、律令体制下、京にあって「隼人司」に属した「隼人」は、宮門の警護に当たる他、歌舞の教習と竹笠の制作とを日常の任とした。

ことに、「裸身にふんどし」を着し、顔面や体にペインティングをほどこした異相をもって演じられる歌舞は、「隼人楽」と称され、

犬の吠え声をまねて邪悪の気を祓う「狗吠え」と共に、「隼人」の技芸を代表するものであった。

これらの歌舞・技芸は、もとは「隼人族」の祖先神の「神おろし」の儀礼であったものを、天皇の前で演ずることによって、天皇=「隼人」の祖先神と重ね合わせ、従属の意をあらわしたのであろう。


この「隼人族」はまた、宮廷で「相撲」をも演じている。

「日本書記」には、天武天皇11年(682年)7月に、貢物を携えて上京した「大隅隼人」と「阿多隼人」が「相撲」をとり、「大隅隼人」が勝ったとする記事がある。

また、持統天皇9年に「隼人相撲」が行われた「西の槻の下」とは、飛鳥寺の西の広場であり、この場所は当時、辺境諸族の朝貢・服属儀礼のときに饗宴の場として用いられていた。

この点からも、「隼人相撲」が「服属儀礼」としての意味を帯びていたことは察せられる。


服属した民として、他によく知られた例として、「大嘗会」や「節会」などに奉仕される「国栖奏(くずのそう)」がある。

「国栖(くず)」は、「国主」と表記されることもあり、地方の土着勢力を指す普通名詞であったらしいが、

一般には、大和・吉野地方に盤踞した「吉野国栖」に代表され、彼らによって奉仕される国栖奏は、地方族長の服属にともなって、芸能が国家に集中され、管理されてゆく典型的な姿として理解される。

村松武雄の説くところによれば、畿内国家にとって、関心の対象は、異俗異能を持つ非征服者に期待された呪術的な異能であり、

異族による芸能を取り込むことによって、その呪術的異能をも自らの内に取り込もうとしたのではないかという。

「国栖」・「隼人」などの異族による芸能奉仕は、そうした呪術的異能の奏上の儀式として考えられていたのであろう。

そうしたモチーフのもとに、諸侯の「相撲」の原型を統合し、諸国の強者の持つ力を集中して、天皇に奉仕させることが「相撲節(すまいのせち)」の根幹をなす構造であった。

カイラーは、このことについて、

中国の漢朝に始まり隋・唐朝で定着した武芸大会が、遠国から優れた武芸者を招集して催される国土統一の象徴的な儀式であったとし、これと比較することによって、

地方の強者の服属の儀式としての「相撲節(すまいのせち)」の原型は、中国から移入されたものではなかったか、と推測している。

法廷の儀式に中国文化の影響が見られるのは「相撲節」のみならず、年中行事全体を通して言えることであり、カイラーの推測も注目に値しよう。


こうした構造が軍制と深く関わるものであったことは、容易に推察される。

後の「相撲人」がしばしば近衛府の番長に採用されることなども、諸国から招集されて天皇へ服属・奉仕することになる強者を、より即物的な軍事力の問題として意識していたことを示している。

諸国から「相撲人」を招集し、「相撲節」を運営するシステムは、「続日本記」養老3年(719年)7月には、「初めて抜出司を置く」とあるのがその萌芽であろう。

734年7月には「聖武天皇が「相撲儀」を見た」とあり、これが「相撲節」が確実に行われた記録上最初の例とされている。

いずれにせよ8世紀初頭には「相撲節」の制度が整っていたものと思われる。


                (引用ここまで)

                 *****

NHKで昼下がりに延々と中継される、あの「お相撲」の起源は、「記・紀神話」にさかのぼり、その行事は平安時代を通じて行われ続け、様式化され、洗練されてきた、ということを初めて知りました。

人々の、季節の祭礼であり、また、天皇制が中央集権化するにあたって、敗者となった者が演じる儀礼でもあった、ということです。

桃太郎が、キジやサルやイヌを従えて段々強くなっていった様子を、彷彿とさせます。


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