読売新聞に以下の記事が掲載されていました。
わたしは興味を持って読みました。
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「外国人労働者は必要か・・論点スペシャル」
2014・08・12
政府が検討している主な外国人労働者活用策
○建設・・ 東京オリンピック対応のため、技能実習制度修了者が働けるよう見直し
○介護・・技能実習制度の対象職種に含めるなどして、受け入れを拡大
○家事・・女性の就労促進のため、国家戦略特区で家事サービスを提供
政府は外国人労働者の受け入れを積極的に進める方針だ。
建設や介護など一部の業界で人手不足が深刻なためで、人口減社会への危機感も背景にある。
外国人労働者は必要か?
受け入れの際の課題は何か?
関わりの深い3人に聞いた。
○埼玉大学名誉教授 小野五郎氏
「産業の合理化が最優先」
単純労働で働く外国人は安価な労働力となる。
企業は必要だといい、外国人も働きたいと言うだろうが、将来の日本の在り方を考えた上で必要性をきちんと検証しないといけない。
現在「労働力不足」と言っている産業は、すでに役割を終えたか、合理化が遅れている分野である。
構造改革により産業構造を高度化し、機械化などで生産性を向上すれば労働は足りるはずだ。
建設業を例にとると、主軸である公共事業は従来、地方の雇用対策として行われてきた。
だがこれから人口が減少し、消費者も減る中で、新しい建築物を建てれば、保守管理コストを負担できなくなる。
東日本大震災の復興需要は別として、今ある施設を保守するだけで目いっぱいのはずだ。
物流産業も同じだ。
トラック運転手が足りないと言うが、コストとのかねあいだ。
即日配達などの過剰なサービスを止め、単価を高くすれば受給バランスを調整できるだろう。
介護の人手不足も、最大の問題は待遇の低さにある。
これらの問題に取り組まず、外国人労働者を増やすと、問題を先送りするだけでなく、賃金水準が引きずられて、日本人の賃金も下がることになる。
政府は2020年までに限って外国人技能実習の修了生が引き続き働き続けるようにする方針だが、労働者保護の仕組みが希薄で問題が大きい。
技術移転による国際貢献が目的と言うが、本音が安価な労働力の確保であることは明らかだ。
これまでにも、賃金未払いなどの人権問題が多発している。
また、ゴミの出し方を巡り日本人の住民と衝突が起きたり、仕事に就けない日本人から嫌がらせを受けたりする恐れも大きい。
外国人労働者が増えれば、社会問題は必ず起きることを覚悟すべきだ。
これらの点をよく検証し、それでもどうしても労働力が足りないとなれば、必要な人数をきっちり精査した上で、期限を切らずに受け入れたらいい。
その際は日本人の生活や文化風土をよく理解してもらうことが重要だ。
雇った企業には、きちんと税金や社会保障料を納めてもらう。
また外国人やその子ども達の日本語習得が遅れていれば、行政に頼るのではなく、受益者である企業が費用を負担する。
そこまでして雇いたいという企業は、それほど多くないのではないか?
○首都大学東京教授 丹野清人氏
「受け入れ側 環境整えて」
長年、外国人労働政策を研究しているが、景気がよくなって、単純労働の分野で人手不足が深刻になると、外国人労働者の受け入れを求める声が高まる。
今回も過去の経緯と同じだ。
政府は「単純労働者は受け入れない」と言いながら、技能実習制度の拡充など、場当たり的な対応を続け、事実上単純労働者を受け入れてきた。
自動車やスイーツの生産工場、農作業などでは、中国などからの技能実習生や、南米から出稼ぎで来た日系人が経済を下支えしている。
深刻なのは、労働者として安心して働ける環境が十分に整っているとは言い難い点だ。
未払い賃金をめぐるトラブルは後を絶たず、低賃金で不安定な仕事に就くことが多い。
雇用主が保険料負担を嫌うなどして、社会保険に未加入のケースも目立つ。
2008年のリーマンショックの時、多くの日系人は解雇され、路頭に迷った。
その際、政府は渡航費を渡して帰国を促した。
雇用の調節弁と言われても仕方がない。
ところで外国人労働の動向に最近変化がみられる。
これまでは多くの外国人が日本に働きに来てくれた。
日本の方が彼らの母国より経済的に豊だったためだ。
かつては大学院を出た人が、日本に出稼ぎに来たこともあった。
しかし経済環境が変化して、ブラジルや中国などこれまで労働力を送り出してきた国が、経済成長を遂げ、わざわざ苦労して日本に出稼ぎにいかなくても母国で稼げる環境が整ってきた。
ブラジルでは大卒の新卒初任給が日本を上回るケースも出てきた。今後も進むだろう。
日本人の生活は、もはや外国人無しには成り立たなくなっている。
日本離れが進むならなおさら、日本語教育や就業訓練の充実、授業で遅れがちな子どもの教育への目配りなど、生活者として住みやすい環境作りが欠かせない。
参考になるのは韓国の政策だ。
韓国は2003年、「外国人雇用法」を制定し、翌年雇用許可制度を実施した。
使用者が政府から許可を得て外国人を単純労働者として雇う仕組みで、不当な差別的処遇をしない義務を課した。
雇用者が賃金をキチンと払っているかどうかや、社会保険の加入対象事業者かどうかもチェックされる。
雇用主の責任が徹底されており、日本も学ぶべき点が多い。
外国人を社会の一員として受け入れる環境づくりが必要だ。
○広島県安芸高田市長 浜田一義氏
「地域活性化の担い手に」
安芸高田市の人口は3万人。
広島空港から車で約1時間の中山間地域にあり、自動車関連の製造業や卸小売の中小企業が多い。
外国人は、日系ブラジル人ら約550人。
市民全体の2パーセント足らずだが、外国人にもっと来てもらいたい。
定住してほしいと考えている。
定住化に力を入れるのは、人口減への強い危機感があるからだ。
民間の有識者らで作る「日本創成会議」が5月、人口減の加速で将来消滅するかもしれない896自治体のリストを公表したが、うちの市もその一つに数えられた。
市の人口は、20年後には今より3割近く減る見通しだ。
65才以上が全人口に占める割合は現在36%で、全国平均(25%)を大きく上回る。
出生率も伸び悩んでいる。
介護の担い手不足は特に深刻で、2011年度から「市民総ヘルパー構想」と称し、元気な高齢者らを念頭に、介護のサポーター養成講座を本格的に実施しているが、急激な高齢化に追い付かない。
経済、地域への影響も大きい。
売り手も買い手も少なくなり、店舗は撤退、農業の後継者不足に拍車がかかり、荒廃地も目立つ。
消防団やお祭りの担い手が不足し、地域活動の維持も難しい。
まさに死活問題だ。
人口推移が分かる表を市長室の壁に張り出している。
勿論、若者の定住化や少子化対策に力を入れ、未婚男女に交流の場を提供し、子育て世代への住宅支援も行っている。
ただ子どもが成人するまでに、20年はかかる。
それまで座視できない。
そんな中で着目したのが、外国人だった。
助けてもらわないと、現状の課題に太刀打ちできない。
こちらの使いやすさばかり求めても、長く担い手になってもらえないだろうと、2010年に「人権多文化共生推進室」を設置した。
ポルトガル語、中国語、英語の通訳を置いたり、生活相談のハンドブックを作ったりしている。
13年には「多文化共生プランを策定、日本語教室や介護関係の資格取得を学ぶ講座を開催した。
審議会などの場にも参加してもらっている。
取り組みは始まったばかりだが、企業や市民の理解や協力を得ながら、仕事、住まい、子どもの教育などの施策を拡充し、日本人も外国人も暮らしやすい街づくりを進めたい。
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