「へンくつ日記」

日常や社会全般の時事。
そして個人的思考のアレコレを
笑える話に…なるべく

父の釣り

2007年12月22日 16時15分30秒 | Weblog

父は大の釣り好きだった
とある漁港近くに住んでいた時など
日曜ごとに、朝早くから竿を片手に海に出かけた
季節の魚を釣り上げた時は
それが晩御飯のオカズになった

夏の暑い日も、冬の雪の日も
父の実益をかねた趣味は続いた



だが、ある日を境に
パタリと海には行かなくなった
その理由を、最後の釣りから帰ったその日
父は僕に話してくれた…


その朝、父は友人の漁師が所有する
青べかのような小船を借り
防波堤から少し離れた沿岸で
いつものように船釣りを楽しんでいた
普段ならすぐにアタリが来るのだが
その日に限って浮きはピクリともしない

2時間ほど粘ったが釣果が見込めないので
別のポイントに行こうとオールで漕ぎ出した時…

海中の深いところで
巨大な何かがユラリと動くのが見えた

「!?」

海に慣れているはずの父も
さすがに心臓の鼓動が早まった

その巨大な何かは
ゆうに小船の3倍の大きさがあった

慌てた父の手からオールが滑り落ちた

無常にも、海面に落ちた二本のオールは
小船からドンドン離れていく
父は手で漕ぎ、オールに近づこうとした

すると…
巨大な何かは、グッと父の小船の方に近づき
ある深さから父の方を睨んだのだ



深い藍色の海中から、光る二つの目が見えた
父は竦(すく)んでしまい
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった

どのくらいの時間が経ったのだろう
時間が止まったようにも感じた
額から流れた脂汗が目に入った
痛くて目を閉じたいが
目をつぶれば、それで終わってしまうように思った
父は懸命に、その「光る目」と対峙した

やがて、巨大な何かは
「よし、許してやるか」とばかりに
再び、ユラリと体をひねらせ
海中深くへと潜っていった

「あんな恐ろしい思いは初めてだ…」

興奮して聞く僕に
父は酒をチビリとやりながら
「鮫のようでもあったし、違う生き物のようでもあった」
「そう…目と目の間は、これくらいはあった」
と、両手を広げ、その目の間隔を示した
目の間隔から想像すると
その生物は「ゆうに15メートルはある」と父は語った

「その目は海のそこで光って…」
父の話は続いた
父はよほど怖かったのだろう
それ以来、海で釣りをすることはなくなった





さて、父は酔うと思い出したように、その話をした
僕は、ある時期まで興奮して聞いていたが
さすがに小学生高学年になる頃には聞き飽きて
相槌を打たないと機嫌の悪くなる父に気を使い
「ふんふん」と生返事ならぬ生相槌を打ち聞くフリをしていた


僕が飽きたのを察したのか
その話を始めた父は、僕の興味を引こうと
その巨大な何かの“目の間隔”を広くしはじめ
僕が中学生になる頃には
その巨大な何かの“目の間隔”は
六畳間の部屋の端から端の長さになっていた

僕の「話を大きくする」癖は
きっと父からの遺伝なのだ…


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コメント (2)
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