171216 揺れる嫡出推定 <受精卵無断移植 父子関係を認定・・奈良家裁>を読んで
今朝の毎日記事では、来年度予算以外では、奈良家裁の判決が大きく取り上げられていました。たしかに最近の受精卵移植数の増加傾向を見ますと、この種の問題も増えてくるでしょうし、法整備が整わない中、家裁としても判断に悩むことかもしれません。
さて毎日朝刊は1面に<受精卵無断移植父子関係を認定 「同意必要」も指摘 奈良家裁>と、社会面に<受精卵無断移植訴訟 「父親だと思えない」 子見かけ揺れる男性>とかなり大きく取り上げています。
記事を引用しながら考えを会見ようかと思います。
<凍結保存していた受精卵を別居中の妻が無断で移植し、出産したとして、奈良県の外国籍の男性(46)が生まれた女児(2)と法律上の父子関係がないことの確認を求めた訴訟の判決で、奈良家裁は15日、訴えを却下したうえで父子関係を認める初判断を示した。>
そして<渡辺雅道裁判長は「移植には夫の同意が必要」と指摘する一方、同意がなくても、妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定する民法の「嫡出推定」が適用されるとした。>
訴訟技術的には、嫡出推定が適用されれば、嫡出否認の訴えを提起すべきです。その推定が適用なければ、こんどは親子関係不存在の確認訴訟を提起できます。
ですから争点は、①受精卵移植に夫の同意が必要かどうか、②それを欠いた場合には嫡出推定が適用されないかどうかという点に集約されますね。
<男性側は「別居し、移植に同意していないため適用されない」と主張していた。>
で、判決は①について、<体外受精などの生殖補助医療で生まれた子と夫の父子関係が認められるには、夫の同意が必要と指摘。凍結受精卵は長期間保存できるため、「作製・保存に同意したとしても、移植に同意しないことがありうる」として、移植時の同意が必要とした。>というのです。
もっともかもしれません。受精卵の作製・保存に同意したからといって、具体化する移植の時点との間に時間的なスパンがありうることから、そのような判断は合理的ではないでしょうか。
さてもう一つの嫡出推定について、奈良家裁は<「法律上の親子関係を早期に安定させることが必要」として判決は嫡出推定を重視。男性が当時、妻と旅行をするなど交流があったため「夫婦の実態が失われているとはいえない」とした。>ということです。
判決の事実認定では<判決によると、男性は2004年に日本人女性(46)と結婚。不妊治療を受けるために奈良市のクリニックに通院した。10年に体外受精で複数の受精卵を凍結保存し、11年に一部の受精卵を使って長男を出産した。しかし、夫婦関係が悪化して13年に別居。女性は14年、男性に無断で残りの受精卵を移植し、15年4月に女児を出産した。男性は昨年10月に女性と離婚した。>と、別居は破綻状態でなかったとして、上記の判断に導いています。
さて嫡出推定はこれでよいのかについては、戦前の家制度の残滓といった批判などもあり、さらに最近の医学の発展、離婚の増加に加えて複雑な男女関係から、廃止を含めた改正への動きはなんどか出てきたかと思います。
無国籍問題もこの嫡出推定を前提にして生じている現象ともいえます。私自身もそういう相談を受けたことがあります。受精卵移植の相談を受けたことはありませんが、記事によるとすごい数に至っているのですから、今後同種の問題は起こりうることかと思います。
< 体外受精は、2005年には約12万5000件実施され、約1万9000人が生まれた。15年には3倍の約42万件で約5万1000人と過去最高を更新した。
他にも、▽夫以外の精子を妻の子宮に注入する人工授精▽夫の精子や夫婦の受精卵を使い、妻以外の女性が出産する代理出産--など多様化。新たな課題も出ている。>
裁判例も出ていますね。
< 第三者の精子で生まれた子について大阪地裁は1998年、夫の同意がなかったとして夫との父子関係を否定、法律上の父がいない事態が生じた。
夫の死後に夫の凍結精子を使って妻が出産したケースでは、最高裁は2006年、父子関係を認めず「立法で解決すべきだ」と指摘した。>
では現場の医療機関はどうなんでしょう。
<父子関係を認定 意思の把握難しい 久慈直昭・東京医科大教授(生殖医療)の話>では
<判決が、受精卵の移植時にも同意が必要と指摘したことは評価できる。一方で、移植のたびの同意は負担で、医療機関にとっても管理が課題になる。保存期間が過ぎても連絡がない場合があり、移植の意思があるか把握するのは難しい。期間を決め、連絡がない場合は廃棄するなどのルール作りが必要だ。>とのこと。
当然、受精卵の移植時に夫の同意を確認するでしょうけど、夫が用でこれないと、第三者が代筆して似たような筆跡で書けば、医療機関としても、筆跡の同一性まで求められるのは耐えられないかもしれません。
別居中の夫婦の場合に、離婚届を勝手に出されないように、役場に不受理申出をする扱いが一般ですが、それと同じような感じで、受精卵の保管医療機関に移植不同意の申出を受ける処理も必要かもしれませんね。
でもこういった小手先の解決でよいのかという問題でもあるでしょう。そもそも嫡出推定制度は、子どものためにあるといえるのでしょうか。嫡出と非嫡出子の相続分の差別的取り扱いを違憲とした最高裁大法廷決定があるものの、いまなお従来型の婚姻制度・嫡出制度は残存しています。
しかし同性婚や事実婚が増えて、程度の差はあれ社会的存在が確立しているともいえるかもしれません。他方で、離婚・婚姻・離婚といった身分関係の複雑さも増してきているようにも思えます。それは江戸時代から普通だったのではないかと思ったりしています。
嫡出推定により、子どもの身分関係が安定し子どものために有効といったことは一つの見方であっても、それが常に当てはまるとは思えないのです。
おそらく嫡出推定があることで、今後も無国籍の子がでてくるでしょう。それは例外的なこととして、子どもの成長に大きな影響がないといえるでしょうか。他方で、受精卵移植の普及から、受精卵の多様な移植形態が想起でき、従来通りの嫡出推定が働いてよいのか、疑念を起こるのではと思うのです。
この事件では04年婚姻時に46歳だった女性が15年に別居中、夫の同意を得ず、57歳で二人目の女児を出産していますが、夫としても別居中ということもあるでしょうけど、高齢化の手前でこれから2人の子を育てるというのはなかなか大変です。
夫婦の円満な関係が永遠であればいいのですが、無理矢理に嫡出推定という制度では、別離の危機が潜在するこの時代、子の幸せは、婚姻中の夫婦の子と決めつけるのは、そろそろ遣唐使直す時期に来ているかもしれません。
今日はあまり乗り気でないこともあり、簡潔に(少々長くなりましたが)終わらせます。また明日。
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