たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

地面師詐欺の背景 <積水ハウス 土地詐欺被害 「社長案件」社内審査怠る>などを読んで

2018-03-22 | 企業運営のあり方

180322 地面師詐欺の背景 <積水ハウス 土地詐欺被害 「社長案件」社内審査怠る>などを読んで

 

地面師という言葉を久しぶりに目にしました。しかも報道だけでなく、被害当事者の調査報告書にもしっかりと書かれていました。

 

80年代は、そういう類いの人物が跋扈していたように思います。私のような弁護士にまでどういうルートかわかりませんが、何百億円という土地売買の交渉依頼がありました。曰く付きの東京でも有名な土地でした。関係する人たちもどうも怪しいのです。こういう案件はたいてい所有者の依頼だとか、所有者を標榜するとか、所有者をブラックボックスのようにして暗躍しています。私はどうみても所有者からの依頼がはっきりしないかったことと、当時大手デベロッパーの法務部にいた知人から情報を入手して、結局、彼らからの仕事を断りました。その後どうなったか、・・・大きく変貌した東京の一面だったように思います。

 

ところで、今回は先般、わが国では環境問題に先端的な取組をするRE100に加盟した4社の一つということで紹介した積水ハウスですが、大変なお家騒動があり、その原因が地面師詐欺に企業トップが没入していたらしいということで、困ったものです。

 

毎日記事では3月18日付けで<積水ハウス土地詐欺被害 「社長案件」社内審査怠る 安価情報、取引焦る 「問題あり」複数指摘を無視>と報じていました。

 

この内容はわかりやすいので、これを引用しながら、事件の概要を観てみたいと思います。

 

事件の概要は<東京都品川区にある約2200平方メートルの土地建物について、積水ハウスが昨年4月、所有者を名乗る人物(後に偽者と判明)らと売買契約を結んだ。6月までに積水ハウスが計63億円を支払ったが移転の登記ができず、「所有者」からの預かり金を差し引いた55億5900万円の損害が発生。書類を偽造して他人の土地を無断で売却する犯罪(地面師事件)に巻き込まれたとみられる。>とのこと。

 

問題の土地は、<詐欺の舞台となった土地は、マンションを建設すれば即完売は間違いないとされる場所にあるが、売りに出ない土地としても同業者の間では有名だった。>こういう案件は、所有者の確認、その意思確認が簡単でなく、かつ慎重を要するのですが、どうやらかなりの手抜きをやってしまったようです。

 

<仲介役から土地売買の情報を入手した積水ハウスの営業担当者は、所有者になりすまして無断で土地を売却する「地面師」の関与を当初疑っていたものの、公正証書などを提示されて信用した。><所有者の本人確認の方法として、顧問弁護士は「知人による確認」を提案したが、結局書類で済ませた。写真を近隣住民に見せる方法もあったが、「所有者の機嫌を損ねるのでは」と考えて採らなかった。>

 

この記事からは、所有者本人確認が書類と、公正証書によったように見えます。たしかに公証人は本人確認を慎重に行います。むろん公証人にとって本人と称する人間を知らない訳ですから、運転免許証やパスポート、印鑑証明書などで行います。でもこれらは絶対のものではないです。顧問弁護士が指摘する<知人による確認>ってどういうことだろうと思われる方もいるでしょう。

 

それは今回の本人確認の書類自体が、積水ハウスの内部的な調査報告、<分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告>によれば、所有者本人と称していたA氏(後で偽物と判明)の<パスポートや公正証書等による書面での本人確認>を<過度に信頼し切っ>た結果、それ以上の調査を怠ったために、真実の所有者でないA氏との土地売買契約を行い、売買代金を支払ってしまって、最終的に55.5億円の損害を被ったのです。

 

このことから<パスポートや公正証書>は所有者本人を偽る偽造のものであったと考えられます。公証人も、司法書士も見抜けなかったのでしょう。巧妙な偽造がなされていれば、通常のこういった専門職でも判断できないことがあります。地面師の方が上手であることはままあることですね。

 

高額の土地取引における慎重な取り扱いがおそらく積水ハウスぐらいだとしっかりとした規則が整備されているはずです。

 

ところが、毎日記事によると<土地購入を社内決定するための稟議(りんぎ)書は、阿部俊則社長(現会長)が現場を視察した昨年4月18日に起案され、20日に社長決裁、24日に売買契約が締結された。通常は社長決裁前に、仲井嘉浩取締役常務執行役員(現社長)や稲垣士郎副社長(現副会長)ら4人の役員が確認する決まりだった。だが、マンション担当役員から至急の対応を求められていた不動産部の幹部が後回しにすると判断し、4人は契約日の24日以降に回覧した。>

 

なんか森友問題のような雰囲気がありますね。むろんここではトップ自身の明確な意思が表れていますので、彼の責任がはっきりしていますが、周辺や部下も、異例な措置であっても、「忖度」を働かせたのでしょうね。

 

毎日記事は<稟議書が不動産部に届いた3日後(土日除く)に契約されており、通常とは違った決裁の段取りを踏んだ。社長がいち早く視察し決裁したため「社長案件となり、社内は反対しにくい」(関係者)空気となり、チェック体制が働かなかった一因になったとみられる。>とうまく総括しています。

 

しかも、外部からさまざまな警告が示されていたのに、リスク管理もコンプライアンスも、ガバナンスも働いた形跡がありません。

 

<「4通もの内容証明郵便を取引妨害とみなすことは非常識である」「単なる売買行為の妨害のために、警察が出動することは考えられない」>と毎日は報じていますが、同感です。

 

内容証明は真の所有者から届いていますが、たしかにその見極めが簡単でなかったとしても、こういった内容証明を取引妨害と一方的に決めつける対応は、企業統治のあり方としてはなはだ疑問です。

 

だいたい、うまい話に裏があると思うのが取引の常識ですし、いい物件で所有者が隠れているとき、偽造や本人をかたるたぐいの手法は、積水ハウスのトップ方も、若い頃十分経験したはずなのに、どうしたのでしょうね。

 

ただ、不動産業者、宅建取引業者、司法書士、といったこの道の専門家たちも、その例は少ないと思いますが、油断して本人確認やその意思確認を怠ることもあれば、あるいは、最近では所有者の判断能力がないような場合にでも、家族の了解があれば取引を成立させてしまう、旧態依然の取引も残っているように思えます。

 

昨日奈良で久しぶりに先輩と飲んで談論風発したせいか、疲れ果てています。それに少しトラブルがあり、書く元気があまりなかったので、何日か前の記事で少し気になっていたのを思い出し、その記事を元に少し書いてみました。

 

積水ハウスの内部調査報告は、概要だけの3pですので、中身がよくわからないところもありますが、毎日記事や経済プレミア記事<積水ハウスが“地面師”に55億円だまし取られた事情><積水ハウスがだまされた“地面師詐欺”(2)>がより詳細に記事にしていますので、興味のある方はご覧ください。

 

今日はこの辺でおしまいとします。また明日。


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