たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

流木の由来(4) <九州北部豪雨 1カ月 流木、被害の連鎖>を読んで

2017-08-05 | 災害と事前・事後

170805 流木の由来(4) <九州北部豪雨1カ月 流木、被害の連鎖>を読んで

 

今朝の毎日を見て驚きました。上記の見出し記事の写真と解析です。土砂崩れの発生は「赤谷川」という聞いたこともない小河川です。探すのに大変なくらいです。もう一つの写真には、山腹崩壊が多数発生したエリアで、ピンク色の斜線で表示されています。そのすぐ山を越えたところには日田林業で有名な日田市が一部写っていますが、山腹崩壊がさほどなかったということでしょうか。流木の堆積場所として黄土色で表示された箇所が筑後川に流入するおそらく長さ1020kmもない短い赤谷川の大半を埋め尽くしているのです。そして犠牲者の自宅等の場所もその流木堆積場所付近か、そのさらに支流の流域沿いに集中しています。

 

土砂崩れの写真では、まだ判別が困難ですが、概要2つの類型を見ることができるかなと思いました。一つは前面のなだらかな斜面で、畑耕作が行われているような土地利用の場所で、山崩れが起こっています。もう一つは、奥の方で、かなり急傾斜地で人工林の造林が行われたような場所で発生した山崩れです。ただ、ピンク色の斜線で表示されたところでは、赤谷川周辺よりも、山腹崩壊が大規模に起こっているようにも見えますし、より広範囲にも見えます。この写真だけではさらなる評価は困難かなと思っています。

 

で、これらの写真を見て、何が私を驚かせたかというと、筑後川の流域に発展した街、朝倉市の背後にある森林がある意味では山腹崩壊を起こして牙をむいたことです。他方で、まだ情報がきちんと集まっているとはいえない段階ですが、日田市ではそれほどの山腹崩壊が起こらなかったのではないかということです。

 

それはどういうことかというと、日田林業は西日本の中でも割合活発なところではないのかと思っています。統計資料を持っていないので、正確ではありませんが。他方、<朝倉森林組合>のホームページを覗きましたが、さほど活発な事業展開をやっているようには見えませんでした。同組合が管轄するのは朝倉市を含め3市町村で3.6haということですが、事業を担っているのは専従職員16名、現業職員17名です。これは一般的な林業地では標準的ではないでしょうか。ただ、これだけの人員ではとても現在ある間伐が必要とされている森林について、適正に間伐を実施できる体制にあるとはいえないように思うのです。年間に伐採・搬出する材積量は、本来必要とされる量に比べて相当低いと思うのです。

 

なお、林野庁の<間伐の実施状況等>では、<地球温暖化対策として、我が国は、2020年度における自主的な温室効果ガス削減目標を2005年度総排出量(139,700CO2トン)比3.8%減以上としており、森林吸収源対策では約3,800CO2トン(2.7%)以上を確保することとしている。>

 

<この目標を達成するため、「間伐等特措法」に基づき農林水産大臣が定める「特定間伐等及び特定母樹の増殖の実施の促進に関する基本指針」では、平成25(2013)年度から平成32(2020)年度までの8年間において、年平均52haの間伐を実施することとしている。>とされていますが、実際の間伐実績は減少の一途ではないかと思います。

 

いや、平成27年度以降は統計数値を上げていないのですから、わかりませんね。というより、間伐面積の換算自体がはたして適正かも疑念が残ります。

 

それにこの統計は単に間伐した面積ですが、その一定の割合が切り捨て間伐として山林内に放置されているのです。この朝倉森林組合の実績がどうなのか明らかになっていないので、なんともいえませんが、要間伐森林の適正な間伐があまり実現できていなかった可能性を考えています。

 

間伐事業はたしかに地球温暖化対策として有効と評価されていますが、治山・治水対策としての有効性をも検討する時期ではないかと思うのです。

 

仮に日田市の森林ではさほど山腹崩壊が起こっていなかったとすると、日田林業では、森林組合だけでなく民間林業者が活発に事業展開を行って、バイオマス事業への参画や集成材加工への進出など、新たな商圏を拡大して、間伐事業を推し進めているようにも聞いています(このあたりはまだ情報不足で確認の必要がありますが)。

 

他方で、朝倉市を含む問題の森林地域では、日田林業のような活発な間伐を行っていなかったのではないかと推測しています。

 

そのような間伐の内容・程度・適正さが、今回の山腹崩壊、さらには大量の流木流出につながったかは、早計な判断はするべきではないですが、このような視点での考察がいま行われているのか、疑念を抱きます。毎日記事などでは多くの多様な専門家の意見が出ていますが、どうも林業関係の専門家の意見は見たことがありません。それで、今回の大量流木発生の要因を明確に検証できるのか、懸念するところです。

 

むろん、山腹崩壊のメカニズムは、多様な要因を考える必要があり、異常な短時間集中豪雨に加えて持続的豪雨による累積的な影響、地質自体が保水性の点で脆弱性があったかどうか、多面的な考察をしてもらいたと思うのです。が、同時に上記のような視点を忘れてはならないように思うのです。

 

というのは、国土地理院の地形図で当地をざっと見る限りでは、海抜100m強のの赤谷川の周辺でも、標高200mないし300mといった小高い山しかなく、さほど急峻な地形ではないのです。少し奥には5ないし600mの頂をもつ山もありますが、だいたいにおいて休漁と言ってもおかしくないほどの規模です。

 

それでも流木が河川に流れ出すと、途端に凶器となり、また人工堰となり、とりわけ小河川では河川氾濫は時間のいとまがありません。そういった流木、換言すれば「立木」のハザード性について、改めて見直す必要を感じてています。

 

同じ毎日の別の記事では<くらしナビ・ライフスタイル浸水可能性 確認し備える>と、最近の異常豪雨がいつどこで発生するかわからないことから、事前の注意を呼びかけています。その中でハザードマップの存在を指摘しているのは、それ自体はよいことだと思います。

 

ただ、現在公表されているハザードマップは、残念ながら、ハザードそのものをきわめて限定的に想定していることから、当然、北九州豪雨のような事態には対応できません。すべてのハザードに対応するマップを作るのは容易でないことは理解できます。ただ、こういったマップを作成する上で、基本的な配慮を欠落していることがある場合もあるため、注意を要するのです。

 

たとえば、中小河川でも一定の水位以上は氾濫することは誰でも想定できます。その場合異常降雨量が突発的に発生したら対応できないのも予想可能です。しかし、今回の流木のような事態は、より不測の危険が拡大するにもかかわらず、ほとんど想定されていないのです。たとえば、河川の場合蛇行していると流木が堆積する可能性が高まりますね。あるいはかかっている橋桁などに流木が衝突あるいは詰まったりすることもあります。あるいは鉄道法敷の下に河川がトンネル状に流れているような場合はいっぺんで詰まってしまう危険性があります。そういった流木を含む流出物による河川の流れを遮断するハザードはあまり考慮されていないことを感じています。

 

自分たちの住んでいるところはいままで災害がなかったから大丈夫と安心しきっていると、現代の異常気象の下では、脆弱な森林や小河川の実情を考慮すると、きわめて危うい考え方だと思っています。

 

私自身はいつも死を念頭に置いていますが、それでも日常の煩雑さに埋没して、その危険性を没却することがあります。日本列島誕生以来、和が国土は脆弱な状況を維持しており、それだからこそ、可憐な自然生態系の妙を楽しめると思うのですが、他方で、多様なリスクを認識して、それらにどのように対応するか、日常的に考えておく必要があると思うのです。むろん第一義的には行政が行うべき事ですが、私たち一人一人も、さまざまな災害を想定して、その場合どうするか、検討しておくことは、意味のあることと思うのです。