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たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

地面師詐欺の背景 <積水ハウス 土地詐欺被害 「社長案件」社内審査怠る>などを読んで

2018-03-22 | 企業運営のあり方

180322 地面師詐欺の背景 <積水ハウス 土地詐欺被害 「社長案件」社内審査怠る>などを読んで

 

地面師という言葉を久しぶりに目にしました。しかも報道だけでなく、被害当事者の調査報告書にもしっかりと書かれていました。

 

80年代は、そういう類いの人物が跋扈していたように思います。私のような弁護士にまでどういうルートかわかりませんが、何百億円という土地売買の交渉依頼がありました。曰く付きの東京でも有名な土地でした。関係する人たちもどうも怪しいのです。こういう案件はたいてい所有者の依頼だとか、所有者を標榜するとか、所有者をブラックボックスのようにして暗躍しています。私はどうみても所有者からの依頼がはっきりしないかったことと、当時大手デベロッパーの法務部にいた知人から情報を入手して、結局、彼らからの仕事を断りました。その後どうなったか、・・・大きく変貌した東京の一面だったように思います。

 

ところで、今回は先般、わが国では環境問題に先端的な取組をするRE100に加盟した4社の一つということで紹介した積水ハウスですが、大変なお家騒動があり、その原因が地面師詐欺に企業トップが没入していたらしいということで、困ったものです。

 

毎日記事では3月18日付けで<積水ハウス土地詐欺被害 「社長案件」社内審査怠る 安価情報、取引焦る 「問題あり」複数指摘を無視>と報じていました。

 

この内容はわかりやすいので、これを引用しながら、事件の概要を観てみたいと思います。

 

事件の概要は<東京都品川区にある約2200平方メートルの土地建物について、積水ハウスが昨年4月、所有者を名乗る人物(後に偽者と判明)らと売買契約を結んだ。6月までに積水ハウスが計63億円を支払ったが移転の登記ができず、「所有者」からの預かり金を差し引いた55億5900万円の損害が発生。書類を偽造して他人の土地を無断で売却する犯罪(地面師事件)に巻き込まれたとみられる。>とのこと。

 

問題の土地は、<詐欺の舞台となった土地は、マンションを建設すれば即完売は間違いないとされる場所にあるが、売りに出ない土地としても同業者の間では有名だった。>こういう案件は、所有者の確認、その意思確認が簡単でなく、かつ慎重を要するのですが、どうやらかなりの手抜きをやってしまったようです。

 

<仲介役から土地売買の情報を入手した積水ハウスの営業担当者は、所有者になりすまして無断で土地を売却する「地面師」の関与を当初疑っていたものの、公正証書などを提示されて信用した。><所有者の本人確認の方法として、顧問弁護士は「知人による確認」を提案したが、結局書類で済ませた。写真を近隣住民に見せる方法もあったが、「所有者の機嫌を損ねるのでは」と考えて採らなかった。>

 

この記事からは、所有者本人確認が書類と、公正証書によったように見えます。たしかに公証人は本人確認を慎重に行います。むろん公証人にとって本人と称する人間を知らない訳ですから、運転免許証やパスポート、印鑑証明書などで行います。でもこれらは絶対のものではないです。顧問弁護士が指摘する<知人による確認>ってどういうことだろうと思われる方もいるでしょう。

 

それは今回の本人確認の書類自体が、積水ハウスの内部的な調査報告、<分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告>によれば、所有者本人と称していたA氏(後で偽物と判明)の<パスポートや公正証書等による書面での本人確認>を<過度に信頼し切っ>た結果、それ以上の調査を怠ったために、真実の所有者でないA氏との土地売買契約を行い、売買代金を支払ってしまって、最終的に55.5億円の損害を被ったのです。

 

このことから<パスポートや公正証書>は所有者本人を偽る偽造のものであったと考えられます。公証人も、司法書士も見抜けなかったのでしょう。巧妙な偽造がなされていれば、通常のこういった専門職でも判断できないことがあります。地面師の方が上手であることはままあることですね。

 

高額の土地取引における慎重な取り扱いがおそらく積水ハウスぐらいだとしっかりとした規則が整備されているはずです。

 

ところが、毎日記事によると<土地購入を社内決定するための稟議(りんぎ)書は、阿部俊則社長(現会長)が現場を視察した昨年4月18日に起案され、20日に社長決裁、24日に売買契約が締結された。通常は社長決裁前に、仲井嘉浩取締役常務執行役員(現社長)や稲垣士郎副社長(現副会長)ら4人の役員が確認する決まりだった。だが、マンション担当役員から至急の対応を求められていた不動産部の幹部が後回しにすると判断し、4人は契約日の24日以降に回覧した。>

 

なんか森友問題のような雰囲気がありますね。むろんここではトップ自身の明確な意思が表れていますので、彼の責任がはっきりしていますが、周辺や部下も、異例な措置であっても、「忖度」を働かせたのでしょうね。

 

毎日記事は<稟議書が不動産部に届いた3日後(土日除く)に契約されており、通常とは違った決裁の段取りを踏んだ。社長がいち早く視察し決裁したため「社長案件となり、社内は反対しにくい」(関係者)空気となり、チェック体制が働かなかった一因になったとみられる。>とうまく総括しています。

 

しかも、外部からさまざまな警告が示されていたのに、リスク管理もコンプライアンスも、ガバナンスも働いた形跡がありません。

 

<「4通もの内容証明郵便を取引妨害とみなすことは非常識である」「単なる売買行為の妨害のために、警察が出動することは考えられない」>と毎日は報じていますが、同感です。

 

内容証明は真の所有者から届いていますが、たしかにその見極めが簡単でなかったとしても、こういった内容証明を取引妨害と一方的に決めつける対応は、企業統治のあり方としてはなはだ疑問です。

 

だいたい、うまい話に裏があると思うのが取引の常識ですし、いい物件で所有者が隠れているとき、偽造や本人をかたるたぐいの手法は、積水ハウスのトップ方も、若い頃十分経験したはずなのに、どうしたのでしょうね。

 

ただ、不動産業者、宅建取引業者、司法書士、といったこの道の専門家たちも、その例は少ないと思いますが、油断して本人確認やその意思確認を怠ることもあれば、あるいは、最近では所有者の判断能力がないような場合にでも、家族の了解があれば取引を成立させてしまう、旧態依然の取引も残っているように思えます。

 

昨日奈良で久しぶりに先輩と飲んで談論風発したせいか、疲れ果てています。それに少しトラブルがあり、書く元気があまりなかったので、何日か前の記事で少し気になっていたのを思い出し、その記事を元に少し書いてみました。

 

積水ハウスの内部調査報告は、概要だけの3pですので、中身がよくわからないところもありますが、毎日記事や経済プレミア記事<積水ハウスが“地面師”に55億円だまし取られた事情><積水ハウスがだまされた“地面師詐欺”(2)>がより詳細に記事にしていますので、興味のある方はご覧ください。

 

今日はこの辺でおしまいとします。また明日。


企業を活かすのは <東芝、WDと和解>と<シャープ 祝東証1部復帰>などを読んで

2017-12-15 | 企業運営のあり方

171215 企業を活かすのは <東芝、WDと和解>と<シャープ 祝東証1部復帰>などを読んで

 

東芝の上場維持は無理かなと思っていたら、一昨日の毎日記事<東芝、WDと和解再建へ前進も再成長見通せず>と微妙な表現ながら上場廃止は免れたようですね。一方、数年前から資金繰りが苦しくなり大量人員整理を敢行しても焼け石に水、昨年は債務超過で東証2部に降格し、存続の危機状態にあったシャープでした。それが鴻海に買収された後1年で黒字化、しかも1部昇格ですから、驚きです。しかも<シャープ祝東証1部復帰 社員に「3万円」 感謝の仕方がシャープ?>と含みを持った言い回しながら、金一封を社員に配るというのですから、首切りから一転した印象はありますね。

 

では両者になにか違いがあるのか、比較対象にならないといえばそうなのですが、たまたまほぼ同時期に問題を抱え、危機に瀕したそれぞれの経営者のスタンスの違いは明瞭で、その結果はまだ見えませんが、どうも明暗が分かれそうな雰囲気に感じます。それで、毎日記事だけを材料に、なにかいえるか、記事を読みながら少し考えてみたいと思います。

 

個人的に言えば、東芝もシャープもPC製品を使ったりして、身近ですし、東芝の環境配慮的な姿勢や先端的なガバナンスの導入など興味の対象でした。シャープは身近な商品が多いのと革新的なアイデアがつまっているように思えて、商品選択で言えば優先順位が高かったですね。

 

このブログでも両社とも取り上げてきましたが、とりわけ東芝は結構多かったように思います。とはいえ、第三者委員会報告書は別にして(実際はこれもそう変わらない面がありますね)、情報媒体は雑誌・新聞などが中心ですから、資料的な信憑性は十分とはいえませんね。それを前提に、書いてみます。

 

シャープは、今年の夏に黒字化の道筋が見えたと言うことで発表があったと思いますが、その間の報道がほとんどなく、狐に包まれたような印象でした。それで毎日が連載した次の記事は少しはその解明になるかと読んでみました。

 

シャープ変転/上 鴻海流「信賞必罰」浸透 太陽電池、総出で営業

シャープ変転/中 液晶、世界へ再挑戦 8K前面に独自路線

シャープ変転/下 人材確保、再建の鍵 買収1年、問われる真価

 

まず変転上では、<電機業界では、代理店の販売促進活動をメーカー社員が手伝うことは極めて異例という。この代理店は東京でも販促活動をしており、ほぼ連日シャープ社員が1、2人加わり、買い物客に商品を説明している。ブルーコンシャスの高松豪社長(41)は「『台湾企業の傘下に入って大丈夫かな』と思ったが、社員の態度ががらっと変わって親身になった」と、シャープに起きている変化を実感する。>

 

これはどういうことか、販売促進なんかは当たり前かと思うのですが、そうではなかったのですね。ある意味では鴻海のやり方自体は、本来に戻った?現場営業に注力する形で社員のやる気を引き出したということでしょうか。

 

とくに赤字垂れ流しの<太陽電池事業>は変革が必要だったようです。<「ぜひ商品の良さを知ってもらおう」。奈良県天理市の研修施設に昨年12月、設計や品質管理といった太陽電池に関わる社員数十人が集まった。3カ月は通常の業務を離れて、太陽電池のセールスで販売会社社員と一般の住宅を回った。関西地区の営業を統括するシャープ子会社の三島広史さん(43)は「それだけ追い込まれていた」と振り返る。信賞必罰を旨とする鴻海の傘下となり、危機意識が早くも浸透していた。>しかし、これ自体も特段目新しいことではないように思えます。地道ではありますが。

 

営業に注力するのはいいのですが、その分、これまで商品開発力が素晴らしかったものがどうなるのか懸念もあるように思います。

 

変転中では、これからの主力事業として、超高精細画質8Kか有機ELかという問題について、<有機ELでLGに後れを取ったシャープは、優位性がある8Kを戦略の中心に据えたのだ。>と思い切った選別をしているようにも見えます。

 

しかし、8Kには、放送局も多大な投資が必要で二の足を踏み、視聴者としても既存配線を使えないおそれとか、大型すぎて日本の住宅に不向きとか、問題を抱えているようです。

 

実際、鴻海本体は有機ELを追求する姿勢を変えていないといった記事があったと記憶しています。これまた微妙な状況でしょうか。

 

変転下では、経営危機で大量退職となったメンバーでチームSをつくり、新たなビジネスを始めている状況を取り上げています。有機ELの研究者で、それお下敷きとしてスマホとつなぐアイデアを商品化しようとしています。まさに元シャープマンらしい、アイデアではないでしょうか。

 

<チームSを束ねる代表取締役の高嶋晃さん(58)は、今のシャープ社内の雰囲気が心配だ。入社した1984年ごろ、社員の平均年齢は27歳前後で「『とにかく何でも挑戦してみろ』という自由な社風が好きだった」と振り返る。希望退職を経て、現在の平均年齢は43歳を超えている。>

 

そのような若い、熱意溢れる人材を獲得し、社内で創造力と活気で溢れる職場として、クリエイティブな人材を培養できるか、それが試されるのでしょう。

 

すでにこの買収による大きな道筋は見えてきたようで、楽観的かもしれませんが、光明が窺えます。

 

これに対し、東芝はどうでしょう。毎日記事は、和解報道を半日遅れたように思うのです。日経をはじめ他社は早々と和解を速報していました。これまでかなり丁寧に東芝とWDの対立を報道してきたのに、この和解は寝耳に水だったのでしょうか、あるいは私が見落としたのでしょうかね。

 

少なくとも<東芝、WDと和解再建へ前進も再成長見通せず>は周回遅れでした。いや、毎日記事を読んできた私も、まさか急転直下で来年3月のずっと前に妥協するとは思えなかったのです。

 

和解の骨子は<双方が全ての法的措置を取り下げる。東芝メモリの製造拠点、四日市工場(三重県)で協業関係を続け、2021年以降に稼働する岩手県北上市の新工場でも協業する。>

 

WDが訴訟による徹底抗戦を回避した一番の理由は<「メモリー製品を入手できる体制を確実に整えることを重視した」と説明。>ということのようですね。メモリー事業は成長産業で、新たな投資に参入できないと置いてきぼりになり、それを焦ったWDが振り上げた斧を下げるしかなかったのでしょう。

 

とはいえ東芝は、古屋敷尚子記者が指摘するように<経営再建に向けて前進した形だが、稼ぎ頭の東芝メモリの売却によって東芝の「稼ぐ力」は大幅に下がり、再成長への具体的な道筋はなお見通せない。>というのが厳しい現実ですね。

 

つまりは、東芝には成長分野は残っていない状況ではないでしょうか。<東芝は東芝メモリの売却で営業利益の約9割を失い、かつて半導体とともに「2本柱」だった原発は海外から撤退。成長事業とされた医療機器を手がける東芝メディカルシステムズも既にキヤノンに売却した。今後は、鉄道システムやエレベーターなどを展開する社会インフラ事業、国内の原発や火力を含むエネルギー事業を中核に据えるが、「大幅に成長できる分野ではない」(アナリスト)のも実情だ。>

 

そして残ったのは口出しする投資ファンドですね。<東芝の増資引受先の60の海外投資家には、旧村上ファンド出身者が設立したエフィッシモ・キャピタル・マネージメントなど「もの言う株主」がずらりと並び、東芝幹部は「経営の重要な判断に口を出されることも増えるだろう」と身構える。>

 

先の毎日記事<米ベインキャピタルWDとの和解に自信 東芝メモリ買収>では、すでにベインキャピタルがこの道筋を見通していた可能性が高く、同社のシナリオで動いているよう思えるのです。

 

このファンド日本代表は<協業先の米半導体大手ウエスタン・デジタル(WD)が、東芝メモリ売却に反対して法的措置に出ていることに対しては、「協業の条件などを提示することで、和解できる」と自信をみせた。>と2ヶ月前に見通しを明らかにしていました。

 

しかも代表の杉本氏は<買収完了後の東芝メモリの経営については、現在の経営陣が引き続き主導権を握り、成毛康雄社長が続投する方向だ。ただし、杉本氏や外部の人材を社外取締役に就けることで、経営を監視するという。>としっかりと手綱の緒を引き締めており、東芝経営陣は傀儡に近い状態になるおそれすらありえますね。

 

これでは、東芝の真の意味での再建を担うことができる意思決定組織があるのか、不安です。投資ファンドは短期利益を中心に考えるのが一般で、市場と製造工場をもつ鴻海による倍出とは大きく異なることになるでしょう。

 

やはり東芝の選択は、これからよりいっそう厳しい現実にさらされることになりそうです。経営改善と言った本来的な事がいつまでも見通せないような懸念を覚えます。

 

むろん白い騎士となって正義の味方を発揮することもありえますが、ダークナイトでもいいですから、問題を解消して立て直しを図ってもらいたいですね。

 

資料がないなか、適当に記事を読んで書いてみましたが、すっきりしません。

ちょうど一時間が経過。今日のところはこの辺でおしまいとします。また明日。


心が伝わる経営 <日経B・ドラマ「陸王」で読み解く不正連鎖の真因>を読んで

2017-12-05 | 企業運営のあり方

171205 心が伝わる経営 <日経B・ドラマ「陸王」で読み解く不正連鎖の真因>を読んで

 

もう業務時間が過ぎているのに、今日のブログのテーマが浮かばないのです。こういうことも時々あります。いろいろ見ているうちに、日経ビジネス本日付けの記事<ドラマ「陸王」で読み解く不正連鎖の真因>が興味を引きました。中身を読む前に、対象とするテーマとその視点が気に入り、これでいこうと思い、ざっと流し読みしたら、やはり溜飲がさがる思いになりました。

 

その記者は池松 由香氏です。自ら町工場の娘さんで、これまで記者としてさまざまな現場を取材してきたこと、そしてドラマ「陸王」のファンだそうです。実は私は途中から見出して数回その一部を見たくらいですので、内容を詳しく知っているわけではありませんが、私もこのドラマの各配役に心を動かされるものを感じていました。

 

さて池松記者のご意見を拝聴したいと思います。テーマはここ数ヶ月で問題となった大手製造企業の不正の実態と原因です。私もこのブログでなんどか取り上げてきましたが、池松記者の現場を歩いてきた感覚は参考に値します。

 

その不正については表になっていますのでそのまま引用させてもらいます。

9月29日

日産自動車が国内6工場で社内の認定を受けていない社員らが完成検査を行っていたと発表(日経記事

10月8日

神戸製鋼所が顧客が求める品質基準を満たしていない部品を出荷していたと発表(日経記事

10月27日

SUBARU(スバル)が同社の群馬製作所(群馬県太田市)で完成検査員の資格を持たない従業員が検査工程に携わっていたと発表(日経記事

11月23日

三菱マテリアルの子会社3社で品質データを改ざんする不正が発覚(日経記事)。翌日に記者会見を実施(

11月28日

東レが子会社の「東レハイブリッドコード」で製品データの改ざんがあったと発表(日経記事

 

この記事を書く動機となった取材場面が興味深いです。ある大手自動車メーカーの技術系OBに取材したときに不正問題について、そのOBから記者に突きつけられた次の言葉への対応に逡巡したことが起点となっているそうです。

 

<「あなたたちメディアはすぐに『品質問題』『日本のモノ作りの失墜』って話にしたがりますがね、実際はそうじゃない。あれは品質の問題じゃなくて、管理とかマネジメントの問題ですよ。あの不正があったせいで、実際の品質問題が出ていますか? ないですよ。それも分かっていないのに品質軽視だ、日本の品質低下だとまくしたてるからおかしなことになる。そうじゃないですか?」>と。

 

当時のメディアは、同時期に異なるメーカーで続いて起こったことから、<メディアは、十把一絡げに「現場のモラルが低下している」「品質に対する甘えだ」と処理してしまいたくなる。>と池松記者も自戒の念で吐露しています。

 

速報性が求められることも要因でしょうね。調査報告書自体が公表されたとしても、やはり上から目線というか、現場の声が必ずしも地となり肉となっていないこともあり、メディアが批判するのにちょうどいいような結果、ま、原因と対策といったちょうどよい落としどころを用意して、提供してしまっているようにも思えるのです。

 

でも池松記者は、直に現場に足を運び(おそらく何度も)取材してきた自負から、<そんな仲間を近距離で見ていていつも思うのは、「真面目だな」ということ。過剰なまでに品質に対する意識が高い。モラルが下がっているようにも、品質を軽視しているようにも見えなかった。>とほぼ確信しているのでしょう。

 

ではなぜ不正が起こったのか、それを池松記者は、日本の商慣行と諸外国との違いに着目しています。

 

<日本の製造業の特徴である「あうんの呼吸」という言葉だ。>というのです。そして海外ではそれは通用しない。<文字や数字、絵などにして見える化しなければ、現地の人には何も伝わらない」ということだった。>というのです。

 

そしてその違いの決め手は次のように述べて、契約書の詳細化によって製造工程を可視化させ、拘束させることで成り立っているするのです。

<その最たる例が「契約書」だ。日本では古くから「信用」による商習慣が根付いていたため、部品や素材を調達するのに細かな仕様を契約書に書いて取り交わす必要などなかった。>

 

わが国における企業間の契約書は、最近少し変わってきたかもしれませんが、きわめて簡単なものですね。契約書の内容を弁護士を通じて詰めるといったことも一部を除いてないのではないではないでしょうか。契約書の添付する仕様書などもそれが当事者の行為をコントロールするものとの意識はなかなか育っていないように思うのです。

 

池松記者は、<ドラマ「陸王」にみる日本の商習慣>こそ、日本の中小企業の姿を現していると思うのでしょう。大企業もさほど大きな違いはないと思います。

 

ドラマ「陸王」ではスポーツシューズを開発製造する事業化の中で、そのアッパーソールの素材メーカーがベンチャー企業でその経営者と意気投合して、取引を開始するのですが、競合するスポーツシューズの大企業に途中から介入され大量発注の取引を餌にその素材メーカーとの取引が中止になり、企業存続の危機にさらされるのです。このような場合きちんと契約書を取り交わしていれば、このような事態にならなかったのにと池松記者は嘆くのです。<日本ではこういったことは起こり得る。信頼関係で結ぶ約束はあくまで約束。約束を破られても訴えることはできない。>と。

 

ただ、信頼関係が確立しているような継続的取引の場合、内容や条件によっては途中の中止が違法になる場合もあり、昔から裁判例が相当ありますので、場合によっては裁判で闘うことができたかもしれません。でもその結論が出るまで、陸王の「こはぜ屋」がもたないでしょうね。

 

日本の商慣行は裏切られやすいと池松記者は指摘したうえ、なぜ生まれたのかについて、<信頼関係で取引を交わす両社が共有するのは、「安くて良い製品を作るために協力する」という1点だけだ。手段は何でもいい。良い製品が生まれて顧客が喜べばそれでいい。>と、理想の目標を契約当事者が追求することこそ、わが国の商慣行、企業人、そして現場の労働者の意識だったと言うのでしょう。

 

たしか渋沢栄一は、常々、信頼こそ商売の基本といっていたように思うのです。それは近代的な資本主義制度、たとえば銀行制度、株式会社制度、証券市場などなどを導入したその人が最も大事にしていたことだったのではないでしょうか。契約の文言で人を縛るといったことは愚の骨頂とでも思っていたのではないかと、渋沢の講演録などを読んでいると感じてしまいます。

 

池松記者は、さらに<こういう関係にしておくと各社は自ら改善点を探し、いわば「勝手に」努力を重ね、結果的に良い製品が早く生まれることにつながる。契約内容をひたすら実行する関係ではこうはならない。>これこそ、アメリカの契約社会との大きな違いであり、日本が誇って良いことではないでしょうか。アメリカでは契約書の分量がとてつもない量になり(それだけ弁護士の数も必要)、しっかり両者の関係を規律しているようにも見えます。でも訴訟社会ですね。それは契約書にいくら詳細に書かれていても、その条項の意味内容を解釈で争う余地は残ります。裏切りを前提に契約書に記載しても、本質が裏切る?当事者ですので、いい契約相手ができれば、契約書の穴を見つけていい条件の相手に取って代わりますね。M&Aなどはその典型かもしれません。インサイダー取引がはびこるのもそんな性分が背景にあるのでしょうか。

 

渋沢なら決して選ばない選択でしょうね。

 

池松記者は、神鋼の例を紹介しながら、<記者が社内の人に取材したところによると、現場は品質に関わるデータ(の記入)の改ざんが「悪いことだと思っていなかった」という。取引先との付き合いが長く、先方が必要な品質を現場はよく理解していたからだ。>という実態を明らかにしています。

 

さらに<現場は、契約書に書かれている「建前の数値」と、製品化された時の品質を確保する「本音の数値」が異なることを知っていた。本音の数値を十分に保証しさえすれば、建前の数値を多少ごまかしても、実際のモノ作りにはなんの影響もないと考えていたわけだ。>

 

これが不正の実態に近いことではないかと私も思います。

 

加えて<現場の人にとっては、「契約書」という後からやってきた文化よりも、「安くて良い製品を作る」という顧客との約束を守ることの方が優先された。建前の数値にほんの少し満たないからといって破棄して作り直せば、コストや納期の面で顧客の生産に悪影響を与えてしまう。本音の数値に達していないなら論外だが、そうでなければむしろいいことだ、と。>

 

現場では、契約書の文字、条件はさほど重視されないのが多くの事業の実態ではないでしょうか。安全率も、法令等で求められているより、かなり上乗せした安全率で設計・施工が行われているのが、日本の企業社会の実態ではないでしょうか。

 

むろんコンプライアンスの遵守は企業人すべての重要な命題です。それに違反すること、また契約条件に違反することは、決して許されることではありません。

 

問題の解消には何が必要かについて、池松記者は、<不正が二度と起こらないようにするには何が必要か。最初にやるべきなのは、「建前の数値」と「本音の数値」をそろえることだろう。そこが合致していれば、現場はデータの改ざんなどする必要性を感じないはずだ。

 ただそのためには顧客との擦り合わせが必要になる。ここが最大の難関。なぜなら、顧客と擦り合わせて契約書の内容を書き換える権限を持つ人と、現場の実情、つまり本音の数値を知っている人が同じではないからだ。>

 

そう経営者の意識・行動の改革が必要というのです。そうだと思います。これまで不正が発覚したすべての企業経営者は誰一人としてその現場の状況を理解していなかったとしか言い様がないように思います。たしかに現場には一度か何度かはキャリアアップの中で担当させられたことがあるのでしょう。でも、企業経営のトップになって、本当に自社の扱う製品の具体の作業をしっかり理解している人がいるのでしょうか。否と思われるのです。

 

現在の大企業は昔で言えばコングロマリットの巨大化で、製造メーカーといえども多様な分野に進出し、とても一つ一つの製品事業を理解することができる状況にはないかもしれません。

 

しかし、その結果、現場の実態とかけ離れたコンプライアンスの基準を作って遵守を求めても、現場の人たちは困惑するばかりでしょう。

 

池松記者の指摘を再び援用します。<問題は、経営者が現場のことを知らなすぎることにあるのではないか。現場には建前の数値と本音の数値が存在しているのに、そうとは知らずにコンプライアンスの徹底ばかり強調する。それがどんなに現場を心理的に苦しめているかも気づかずに、だ。>同感です。

 

池松記者のいい言葉をもう少し援用します。

<問題が出てきた時、現場を知らずにただ当事者を批判することは簡単だ。だが、本当に必要なのは「犯人探し」ではなく「全員が幸せになれる方法を経営者が率先して考えること」だろう。>そのとおりですね。

 

最後に記者が援用する人物の言葉を私も活用させてもらいます。

<独自動車部品の巨人、コンチネンタルのエルマー・デゲンハートCEO(最高経営責任者)は、企業の不正についてこう話していた。

 「失敗は人間の性質の一つですから、当然、起こり得るものです。大切なのは失敗から学ぶ姿勢。失敗を透明性を持ってしっかり受け止め、そこからちゃんと学べる社風です。>

 

企業経営において失敗することが前提でしょう。失敗からどう学ぶか。それには失敗の透明化、可視化が必要ですし、その改善も全員で共有できるものでなければ、意味のないものになるでしょう。他企業のまねではなく、自社の全員の意識を活動を直視して、失敗・不正の原因を追及して見直すことこそ求められているのでしょう。

 

すでに一時間を優に超えてしまいました。今日はこれでおしまい。また明日。


黒田バズーカの行方 <都市銀の事業削減計画>と<不動産バブル再熱>を見ながらふと思う  

2017-11-22 | 企業運営のあり方

171122 黒田バズーカの行方 <都市銀の事業削減計画>と<不動産バブル再熱>を見ながらふと思う

 

昨夜のBS日経プラス10では、都市銀の本来の事業部門の業績下落を踏まえた、目標時期を異にしつつ事業削減計画を大手都市銀3行発表などを証券会社の銀行担当が開設していました。みずほは行員の4分の1に当たる1.9万人を26年度までに削減、店舗も100カ所でしたか削減です。三菱UFJも、三井住友も23年度とか少し短期で何千人規模の削減計画でした。

 

といっても定年退職と新規採用減という自然減をうたっていて、リストラ的なものではないようです。しかし、それだけ都市銀に限らず金融機関はほとんどが本来業務である預金・貸出が大幅に減っているようです。まさに黒田バズーカのマイナス金利を含む金融緩和策が金融機関の従来業務のあり方に変更を求めた結果でしょうか。

 

とりわけ窓口業務などは、AIなどを活用して、現在の業務内容を大幅短縮するということでしょう。これは銀行業務に限りませんが、AIIoTは、専門分野も含めあらゆる分野で、現在人が行っている作業を代替することになるでしょうね。

 

北米で90年代半ばを過ごしたとき、どの銀行でもたいてい窓口が簡素で、だいたい待つ人のための椅子の席やスペースもあまりなかった記憶です。個人や企業向けの投資・金融相談のために、個室のブースが別に用意されていて、そこで充実した行員の専門能力が発揮されていたように思います。

 

帰国してシティ銀行などと預金取引していましたが、やはり北米並みの感じがありましたか。でもわが国の金融機関は、大手都市銀の本店でもゆったりとした席を用意して窓口対応のお客さんを大事にしてきた状況が長く変わらなかったように思います。私は小口預金者にすぎませんがその席が好きでのんびりくつろがせてもらいましたが。むろんわが国では行員がお客さん周りで自宅や企業訪問して個別対応してきたと思いますが、AIなど高度な専門技術を活用するとなると、戸別訪問では容易でなかったでしょう。

 

黒田バズーカの影響もあってか、最近ではどの金融機関も、仕切りをして個別相談に対応する方向が鮮明になってきましたが、まだまだという状況でしょうか。

 

他方で、人員削減策は、少なくともバブル破綻以降、大手都市銀や地銀など、一定年齢になれば子会社・関連会社に出向させる形で、行員の人数調整を行い、一方、契約社員などで対応するといったマネジメントはやってきたと思います。

 

でもこれらは本来的な銀行の構造改革ではないですね。その意味で、AIなど最新技術を活用できる能力を行員がもち、窓口業務を含む店舗機能は大きく変わらないといけないのでしょう。

 

ただ、そうなると高齢者などはどうするのでしょう。ゆうちょ銀行やのJAバンクが対応するから大丈夫でしょうか。これらもいまは対応できていますが、現在の状態では業績悪化は避けられないので、新たな対応が求められるでしょう。

 

と脇道にそれましたが、昨夜の日経プラスでは大手都市銀の新戦略みたいなものに期待できそうな雰囲気でした。

 

しかし、今朝のNHKおはよう日本は、バブル破綻20年の検証で、不動産バブルの再熱が取り上げられていました。東京や大阪など一部に限られていると思われますが、バブル期と不動産価格が同じになった銀座地価も紹介されました。その要因の一端を現場レポートで紹介されていました。マンション一棟を買おうかとか、あるいは何棟も保有しているとか、まるで少し以前取りざたされた中国バブルのような出来事がわが国のサラリーマンにも起こっているのです。

 

それぞれの発言は、銀行がどんどん貸してくれる。1億以上の物件を購入しても、賃貸料でローンの支払いをした後、収益が上がっている、だから新たに次の物件を物色しているとか、海外の200㎡を超える戸建て物件(北米では普通の大きさ・設備)が3,500万円とかだから、購入したとか(高すぎる)との話です。

 

いま現在アメリカで起こっている不動産バブルは、リーマンショックのときのジャンク債権の集積とはいいきれませんが、日本を含む各国の大幅金融緩和でだぶついた金がやはり投資が投資を求める形で実体のない地価上昇を招いている危険性を感じます。

 

すでに破綻者がでている報告もわずかにありました。地方のアパートに投資したが、賃貸率が60%とかで、ローンが支払えず、毎月20万円を手持ちから持ち出しているというのです。そういった投資物件のローンを支払えないという相談も相談センターに増えているというのです。

 

それは破綻の前触れではないかと感じない人は少なくないと思います。現在の証券バブル、さらに不動産バブルが、適正な金融機関の審査によって貸出が行われていれば問題ないのですが、横並び式、あるいはただ同じように不動産投資の競争に励んでいる、銀行貸し出しによるものであれば、危険きわまりないことになりますね。

 

昨夜と今朝の金融機関をめぐる報道を見て、ふと懸念が過ぎりました。

 

 


革新的な企業統治スタイルは? <東芝 報告書で「不正会計」表現・・>を読んで

2017-10-22 | 企業運営のあり方

171022 革新的な企業統治スタイルは? <東芝 報告書で「不正会計」表現・・>を読んで

 

今朝早々と最寄りの小学校にある投票所にでかけて投票を終えました。普段の会場が別の団体が先に予約していたためか、代替の狭い空間で行われていました。大勢が集まっていた本来の会場と異なり、変更された投票所は係の人が10数人いるものの、投票者は私以外にだれも現れませんでした。天候を考えて期日前投票を済ました人が多かったのかもしれませんが、それにしてもあまりに閑散としていました。投票所への行き帰りでもだれとも会いませんでした。これが突然の電撃的な解散の結果かも知れません。いや、いまの日本の政治状況に対する国民意識の表れかもしれません。

 

私の好きな毎日日曜版・「今週の本団」では<海部宣男・評 『あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎』=デイヴィッド・イーグルマン・著>に興味が惹かれました。

 

「私」とは何かについて、先端脳科学者が広く切り込んでいる内容ということです。

 

<私たちの脳がAIと決定的に違うのは、千兆もの接続を持つ脳内ネットワークで、たくさんの選択肢が対立しながら選択の結果を行動に及ぼしていること。そうした脳内での対立・選択が「自由意志」につながるのは、もちろんだ。だが私たちの脳は、せめぎ合う欲望の集積だ。>見えないところで日夜せめぎ合っているのですね。生まれてから死ぬまで。

 

共感もあれば、外部グループを間化して、民族対立などもあるというのも脳内ネットワークの働きの一つのようです。

 

そして脳とAIなどの研究はさらに進化することは疑いないですね。

 

<脳の将来も、刺激的だ。スピーカやカメラの信号を、微細な導線で脳の聴覚野や視覚野につなぐ。脳はその信号を学習して、聴力・視力を獲得する。さらに、眼(め)の見えない人の腰に小型モータ群を当ててカメラからの信号で動かすと、腰に人の顔などのカメラ映像を感じはじめる。何と「腰で見える」ようになったのだ。>

 

<つまり脳は、どういう装置・どういう場所からでもしかるべき信号をもらえば、外界に合うように学習し解釈できるのだ。脳が使えるデータは私たちが感じる可視光や音波に限らないことも、はっきりしてきた。紫外線カメラから信号データを入力すれば、人は紫外線の「視力」を持つことになる。>

 

すでに60兆はあるといわれる細胞の中には、脳とは独立して、それぞれメッセージを交信し合い独自の機能を営んでいるという情報はNHKの「人体」で紹介されていましたか。

 

と長々と前置きを書いてしまいましたが、「私」という存在を決定する頂点にあると思われた脳についても、あらたな知見が生まれつつあるようです。同様に、会社の意思決定機構も、大きく変わるかもしれないというのが本日の話題です。

 

毎日朝刊では、東芝不正問題を追及してきた一人、古屋敷記者が<東芝報告書で「不正会計」表現 反省の意思明確に>と小さな記事で、昨日東芝が公表した点に触れ、<東芝が内部管理体制の改善報告書を公表し、不正会計問題について同社がこれまで使ってきた「不適切会計」から「不正会計」へと表現を改めた。反省の意思を明確にするためという。>としています。

 

また報告書の内容については、<報告書では、不正会計の原因を歴代社長に「財務会計の厳格さに対する認識が欠けていた」と批判し、前任社長に対する「ライバル意識など社内外からの評価に強く執着」したため、達成困難な損益改善要求を繰り返したと指摘。取締役会も形骸化し、けん制できなかったと結論づけた。>

 

日経の1011日付け記事<東芝、株式の特設注意市場銘柄及び管理銘柄(審査中)の指定解除について発表>を読めば、四半期報告書が遅れながらも提出されたことに加え、本年315日再提出の内部管理体制確認書が指定解除に重要な働きをしたと思うのです。

 

そして今回の報告書<「内部管理体制の改善報告」>は、上記の内部管理体制確認書を受けて、抜本的な改善策を報告したものでしょうから、この内容こそ重要だと思うのです。ところが、古屋敷記者の記事は、紙面がとれなかったのか、上記の通りあまりに簡潔で、重要な内容をほとんど取り上げていません。

 

わたしがこの報告に着目するのは、もしこの改善体制が実効あるものとなれば、日本の会社制度の大改革になる可能性があると思うからです。

 

いままでわが国における多くの会社の意思決定は、生え抜きの社長を中心に行われてきたと思います。習近平国家主席ほどではなくても、古い体質の企業では似たような状況であったかもしれません。取締役も生え抜きで、取締役会もイエスマンほどではないとしても、社長の決定に逆らうことは容易でないことでした。企業不祥事が繰り返され、企業統治に必要がうたわれ、社外取締役制度など、さまざまな監督制度が導入されましたが、社外取締役には情報を提供せず、また少数派で、実効性がないものでした。

 

あくまで会社の意思決定は、ある種、脳という単独ないし少数で決定してきました。外部の関与は極力排斥されてきたのが、繰り返し会社制度を改革しても実態としては残ってきたのだと思うのです。

 

だいたい最も先端的に社外取締役制度など企業統治に前向きで優等生の筆頭ともいうべき東芝が、今回の会計不正の中で明らかになったのは、歴代社長による会計・事業の適正さを無視した業績優先主義について、チャックする機構がまったく機能しなかった点です。

 

さて、この報告書は、それをどう改善するかを、まるで社外からの監視監督を優先するかのような体制を構築しようというのです。詳細は報告書でチェックしていただきたいですが、多くの企業も、他山の石として、検討してみてはいかがでしょうか。

 

そのいくつか取り上げてみたいと思います。(ここまで書いていて簡単にまとめて終わろうとしたら友人から電話があり1時間近く今回の選挙の話から70年代の美濃部都政問題(大気汚染、水質汚濁、公害研究所創設、六価クロム汚染など)まで遡って議論してしまい何を書こうとしたのか・・・)

 

この報告書では、改善策をいろいろ取り上げていますが、私はガバナンスの強化に注目しています。合計38pのうち、10pをさいています。

 

まず取締役会について、人数を減らして、社外取締役を過半数にするというのです。すでに従来16名だったのを11名にして、そのうち6名を社外取締役にしています。しかも取締役の専門性とその多様性の確保を求めています。そのため弁護士1名、公認会計士2名、経営者3名の布陣となっています。さらに議長を社外取締役にしています。これはわが国の会社組織としては想定外の出来事でしょう。

 

はたして企業の実態を知らない社外取締役が過半数を占めることで、そもそも形骸化がしてきされる取締役会が機能するかといった懸念が生じそうですが、それへの対応も配慮しています。いままで報告しなかった事項を社外取締役に報告するなど、経営内容を理解できるような整備をいくつも行っています。

 

その他現在の会社法が予定しないような組織実態になっています。今後どのような経営運営がなされるのか期待したいと思いつつも、果たしてこのような部外者による監視・監督強化で、組織が生き生きと、将来性ある企業の再生できるのかも心配されるところです。東芝メモリの売却をめぐる混乱も、もしかしてこのような組織体制が影響しているかもしれません。

 

とはいえ、先に述べた脳機能の多様性というのか、人体の組織細胞が働いていない部分を活用することによりその機能が蘇るほど、人間の潜在能力の高さを認めることができるように、企業というものも、多様な意思決定構造を構築することがいま求められているのかもしれません。企業の意思決定を構成する組織も柔軟に考える必要があるのではないかと思うのです。この東芝の実験は注目に値すると思うのです。

 

今日はこのへんでおしまい。