白夜の炎

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中国ではなぜ活動家の逮捕が相次ぐのか―共産党の組織防衛?

2011-04-07 12:27:40 | 国際
 中国で活動家・反体制派への取り締まりが厳しくなっている。

 http://chrdnet.org/2011/03/31/escalating-crackdown-following-call-for-%E2%80%9Cjasmine-revolution%E2%80%9D-in-china/

 ↑これは香港のサイトにのった最近の取り締まり状況である。

 習近平体制への移行を間近に控えての引き締めだろうか。


 ただ中国政府の対応は常にオーバーアクションだと-個人的には―感じている。

 かつての弱くて分裂していた時のこと、侵略を受けた事態への恐怖がトラウマとなっているのだろうか。


 客観的に見て現在の中国を外から脅かせる存在はない。

 アメリカにしても、EUにしても、ロシアにしても、いずれもである。

 かつて北からはロシア帝国が領土を蚕食し、南からはイギリスが(かつてインドはイギリス植民地)チベットを経由して介入し、沿海部から内陸の武漢まで列強の租界(治外法権地域)が作られていた時代とは全く状況がことなっている。

 中国が諸外国の侵略を受けた時代は、清朝の末期にあたり、中国の王朝体制自体が弱体化しつつあった。そのすきにつけ込まれたのである。

 もちろん現在中国国内にも、様々な問題はあるだろう。格差の拡大もよく言われ、だからこそ「調和の取れた社会」が政策目標になっている。しかし逆にいえば中国の指導部は自分たちが抱える課題を正確に理解しているということでもある。

 さらに今の中国に、社会体制・政治体制を本気でぶち壊したいと思っている人間がどれほどいるだろうか。

 もちろんイスラムの過激派もいるだろうし、チベットやウイグルの問題を抱えてはいるものの、大勢としては、多くの人々は今の体制の枠組みの中で、経済発展の中で、いかに自分自身の成功と生き残りを果たせるかを考えているのではないだろうか。

 
 そこで私が感じるのは、現在生じている事態は、レーニンによって作り出された共産党組織の原則が、巨大な官僚機構として定着し、その巨大化した組織が組織防衛を強化しているのではないか、ということである。


 中国共産党も、党組織の原則はソビエトから継承したものである。より正確にいえばロシア革命後、コミンテルンの指導のもとで、中国国内に存在したいくつかのマルクス主義運動組織が糾合されて作られたのであり、当然そこで生まれた共産党の組織はソ連型・つまりレーニン型となったわけである。

 レーニン型の党組織の原則は、「民主主義的集中制」である。

 それは広汎に党内で議論し、いったん決定した後は一糸乱れずに中央の指示に従う、というものである。

 しかし実際には党中央の決定が全体を一元的に支配する、集中の側面が強くなりがちだということは、だれにでもわかることである。

 今の中国は共産党が自らの軍事組織である人民解放軍を指揮して国民党に打ち勝ったという歴史の上に、総てを中国共産党が「領導する」体制を取っている。

 例えば民主諸党派といわれるいくつかの政党、例えば9・3学社とか中国民主同盟など、があるが、これら「政党」の党首は中国共産党員である。

 政党の党首でさえ中国共産党員、ということなのだから、それ以外はもちろんである。

 
 基本的なことなので整理しておくと以下のようになる。

 まず中央(政治局常務委員会)から村レベルまで中国共産党の組織がある。そこでは党書記が実権を握ることが多いが、これは党の書記局がかつて人事権を握っていたことによる。

 同時に行政機関に関しても中央(国務院)から郷鎮(小規模な市と町村)レベルの人民政府まで組織が作られる。


 さらに重要なのはこのような行政機構(国営企業等も)の内部に党組(日本風にいえば党支部)が組織されることである。

 これは別におかしなことではなく、共産党は自主的な意思に基づいて集まった構成員によって組織される政党なので、様々な組織の中に党の組織を作るわけである。

 その結果党中央の決定は、各行政機関内の党組を通じて、各機関に周知される。

 これは中国のように共産党が政権を握った国では極めて大きな意味を持つことになる。

 例えば、共産党員は民主集中の原則に基づき、党の決定に従う義務があり、同時に党員として把握している諸問題を、党組織を通じて上部組織に報告する責務を負っている.

 従って、行政機関と党組織が完全に分離されていると、行政機関員としての守秘義務と党員としての責務に矛盾が生じることがある。

 しかし行政機関内部に党組があり、なおかつ行政機関の主要幹部が党組の構成員であれば、このような問題は発生しない。

 共産党としては、様々な組織の決定や運営に、様々な形で影響力を行使するとともに、不断に情報を吸い上げるため、党組を形成することは不可欠のこととなる。このような実態があって、始めて様々な組織を領導できることになる。

 この結果、各組織の一定レベル以上の幹部の多くが、共産党員、ということになる。

 かくして中国では、実際問題として、組織の中で地位を占めるためには、まず共産党に入党し、党内で昇進すすることが条件となる。

 もちろん実態としては様々なルールに基づき、手続きがある、ということになるが、基本は今述べたところで間違いないと思われる。

 行政機関の中の幹部の一部は、党組織の幹部を兼ねる場合もあるし、また党内の人事異動によって、各行政機関を回ることも当然ある。

 省委員会の宣伝部にいた人間が、省人民政府の博物館館長になったりする。

 このような共産党組織のあり方は、特に民間企業や外資系企業の発展に際して大きな問題となった。

 改革開放以降の企業改革で一番問題になったことの一つは、企業の経営権を企業の経営者が握るか、党書記が握るかという問題だったことがそのことを示している。

 また郷鎮企業など民間企業が勃興してくる中で、企業経営者を党員に迎える方針を江沢民時代に打ち出したのは、まさに民間の企業にも共産党の目が行き届くようにするためだったと考えられよう。


 また人民解放軍は今でも中国共産党の軍であり、人民解放軍に命令する権限を持っているのは共産党中央軍事委員会主席である。これが現在は胡錦濤であり、次に習近平がなるといわれている。国防部はさしたる実験を持っていない。

 党組は企業内部にも労働組合や婦女連合会といった大衆組織内部にも、その他の様々な団体の中にも作られ、このネットワークが中国の統一を保障している。

 共産党のネットワーク、共産党の「領導」こそが広く多様な中国を統一するカギになっているのである。それゆえこのような党による支配に対する批判や、人民解放軍の国軍化―共産党から分離する―には強い反発が出てきた。


 そこで始めの議論に戻ると、このように拡大し、中国という巨大な社会を網の目のように掌握する共産党組織にとって、共産党組織のあり方やその組織と国内の他の組織とのかかわりに関する議論や、共産党組織から真に独立した組織や個人の活動ほど危険なものは存在しないだろう。

 はたから見てこれほどの大国がなぜ、このような個人の言動に神経をとがらせるのか、なかなか理解しがたい。

 しかしその背景には、共産党組織の肥大化と、拡大し複雑化する社会の中に生まれる、共産党支配にとっての空白地域への組織的防衛本能が、活動家への抑圧につながっているように思われる。


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