「女性部長」が多い企業はどこか?
最新「女性部長ランキング」トップ50
岸本 吉浩 :東洋経済(CSR調査、企業評価担当) 2013年01月12日
「女性活用でトップは介護サービスも展開するニチイ学館
マネジメント層の女性活用はCSRに積極的な企業でもほとんど進んでいないのが現実。男性部長数10万3145人に対して女性部長数はわずか1723人。女性部長が1人も存在しない業種も存在するなど、厳しい現実が明らかになった。制度の充実だけでない、企業の本気度が問われているようだ。
『CSR企業総覧』掲載データをさまざまな角度からランキングし、各社のCSR(企業の社会的責任)の取り組みを見ていく「CSR注目データランキング」。2013年版では初となる今回は女性部長の比率と人数のランキングを紹介する。
部長の数で女性活用の積極度を判断
部長といえば、役員一歩手前のミドルマネジメントの中心。この層に女性がどれだけ多いかで企業が女性活用を積極的に進めているかを判断できる。『CSR企業総覧』2013年版には1128社掲載しているが、このうち11年度の女性部長比率を開示している829社を対象に女性の部長比率、部長数のランキングを作成した。
女性部長比率とは、その会社の全部長に占める女性部長の比率。集計表には業種ごとの対象社数、女性部長比率の平均値、男女別の合計部長数をまとめた。これを一覧すると女性部長数の存在感のなさがはっきりする。女性部長比率の全社平均は1.74%。最も高い業種が保険業の6.12%(対象11社)。他にサービス業5.74%(同54社)、小売業4.96%(同57社)などが高い。それ以外の業種は総じて低い比率にとどまっている。食料品、鉄鋼、電気機器、輸送用機器、精密機器など1%を下回る業種も多い。対象社数は少ないものの女性部長が1人も存在しない業種もある。
全社の合計人数は男性部長数10万3145人に対して女性部長数はわずか1723人。対象企業はCSRに積極的と考えられるが、マネジメント層の女性活用はほとんど進んでいないことが明らかだ。
比率20%以上はニチイ学館、ベネッセなどわずか9社
では、女性部長比率の企業別のランキングを紹介しよう。
1位はニチイ学館で56.5%(人数35人)。医療事務受託の最大手で介護事業も行う同社は女性社員比率も80.4%と高い。一般社員からマネジメント層まで幅広く女性が活躍している企業といってよいだろう。
続いて、2位トライアイズ50.0%(同1人)、3位アニコム ホールディングス40.0%(同2人)、4位ザッパラス28.6%(同2人)。5位はプラネット25.0%(同1人)、ベネッセホールディングス25.0%(同19人、開示はベネッセコーポレーションの数字)、銀座ルノアール25.0%(同1人)の3社。以下、8位ラオックス22.2%(同2人)、9位丸井グループ20.0%(同1人)までが20%以上だ。
経済同友会が20年までに女性管理職比率を30%まで引き上げるよう提言したが、部長職について「5人に1人が女性」という「20%の水準」に達しているのは829 社中この9社にしか過ぎない。そのうち女性部長数が10人を超えているのは1位ニチイ学館以外では、5位のベネッセホールディングスのみで、それ以外は企業規模が中堅クラス以下だ。
人数上位の大手企業に存在感
最後に人数別のランキングをご紹介する。1位はNECの90人(比率3.2%)。2位富士通84人(同2.6%)、3位東芝62人(同2.1%)、4位ファイザー49人(同7.3%)、5位大塚ホールディングス48人(同6.1%)と続く。いずれも比率は高くないが、NECの90人は、対象とした829社の女性部長の総数(1723人)の5.2%を占めるなど存在感はある。女性部長を増やすためには、これらの大手企業の取り組みも参考になるかもしれない。
支援制度充実の意味
さて、部長などミドルマネジメントの女性比率は今後高くなっていくのだろうか。『CSR企業総覧』には各社のさまざまな女性活用支援制度が掲載されている。年々充実していく制度が徐々に効果を出し、比率も高まっていくと期待する向きも多い。
ただ、こうした制度が必ずしもうまくいっていないという見方もある。日興フィナンシャル・インテリジェンスの杉浦康之氏は「両立支援などの社内制度は女性の活躍を推進するためには必ずしも効果的でない」と分析している。
確かに、先ほどご紹介した比率上位の各社の制度は飛びぬけて充実しているわけではない。
たとえば、比率5位のベネッセホールディングスは女性の存在感は非常に高い(開示はベネッセコーポレーションの数字)。50~59歳の年齢別従業員数は男性76人に対して女性93人。全体でも男性1236人、女性1574人と女性が多い。勤続年数も男性9.8年、女性9.4年とほとんど差がない。部長候補である管理職も32.1%が女性と高い数字となっている。
しかし、女性活用の諸制度を見るとフレックスタイム制度や短時間勤務制度などがあるものの、全体では平均的な内容だ。育児休業は「1歳到達後の4月14日まで」と、他の大手が3年間などと長期化するケースもある中ではむしろ短い方で、一般的な制度ではトップクラスとはいえない。
一方で裁量労働制度、在宅勤務制度など子育て中の女性でもしっかり働ける制度の導入は積極的だ。働く時間を減らすのではなく、場所にとらわれず働ける環境を整備することが高い女性比率につながっているのかもしれない。
日本企業の女性活用の本気度
ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスに詳しいアパショナータ代表のパク・スックチャ氏は「日本企業は長期間の育児休業や時短勤務の導入には熱心だが、本気で女性を活用しようとしていない」と指摘する。
確かに『CSR企業総覧』に掲載されている各社の女性活用制度は、時短勤務や長期間の育児休業など女性の仕事量を減らす内容が目立つ。家事や子育ては基本的に女性が行うことを前提に制度が作られているケースも多そうだ。
時短などを取得している女性には責任ある仕事をあまり与えない上司もいるという。働き盛りの30代前半などで補助的な仕事しかしていなければ、当然その後のキャリアに影響が出るだろう。
管理職の女性を増やすためには、通常の仕事をこなしながら子育てを行い、少しずつキャリアアップできる環境を整備することが欠かせない。そのためには「夫の協力や家事の外注化で女性を職場に戻すべき」(パク氏)といった視点も必要になるだろう。
日本全体で見ると女性部長比率が高い企業は、まだニチイ学館やベネッセなどごく一部に過ぎない。だが、そうした企業には女性活用のノウハウが蓄積されている可能性がありそうだ。」
http://toyokeizai.net/articles/-/12314
最新「女性部長ランキング」トップ50
岸本 吉浩 :東洋経済(CSR調査、企業評価担当) 2013年01月12日
「女性活用でトップは介護サービスも展開するニチイ学館
マネジメント層の女性活用はCSRに積極的な企業でもほとんど進んでいないのが現実。男性部長数10万3145人に対して女性部長数はわずか1723人。女性部長が1人も存在しない業種も存在するなど、厳しい現実が明らかになった。制度の充実だけでない、企業の本気度が問われているようだ。
『CSR企業総覧』掲載データをさまざまな角度からランキングし、各社のCSR(企業の社会的責任)の取り組みを見ていく「CSR注目データランキング」。2013年版では初となる今回は女性部長の比率と人数のランキングを紹介する。
部長の数で女性活用の積極度を判断
部長といえば、役員一歩手前のミドルマネジメントの中心。この層に女性がどれだけ多いかで企業が女性活用を積極的に進めているかを判断できる。『CSR企業総覧』2013年版には1128社掲載しているが、このうち11年度の女性部長比率を開示している829社を対象に女性の部長比率、部長数のランキングを作成した。
女性部長比率とは、その会社の全部長に占める女性部長の比率。集計表には業種ごとの対象社数、女性部長比率の平均値、男女別の合計部長数をまとめた。これを一覧すると女性部長数の存在感のなさがはっきりする。女性部長比率の全社平均は1.74%。最も高い業種が保険業の6.12%(対象11社)。他にサービス業5.74%(同54社)、小売業4.96%(同57社)などが高い。それ以外の業種は総じて低い比率にとどまっている。食料品、鉄鋼、電気機器、輸送用機器、精密機器など1%を下回る業種も多い。対象社数は少ないものの女性部長が1人も存在しない業種もある。
全社の合計人数は男性部長数10万3145人に対して女性部長数はわずか1723人。対象企業はCSRに積極的と考えられるが、マネジメント層の女性活用はほとんど進んでいないことが明らかだ。
比率20%以上はニチイ学館、ベネッセなどわずか9社
では、女性部長比率の企業別のランキングを紹介しよう。
1位はニチイ学館で56.5%(人数35人)。医療事務受託の最大手で介護事業も行う同社は女性社員比率も80.4%と高い。一般社員からマネジメント層まで幅広く女性が活躍している企業といってよいだろう。
続いて、2位トライアイズ50.0%(同1人)、3位アニコム ホールディングス40.0%(同2人)、4位ザッパラス28.6%(同2人)。5位はプラネット25.0%(同1人)、ベネッセホールディングス25.0%(同19人、開示はベネッセコーポレーションの数字)、銀座ルノアール25.0%(同1人)の3社。以下、8位ラオックス22.2%(同2人)、9位丸井グループ20.0%(同1人)までが20%以上だ。
経済同友会が20年までに女性管理職比率を30%まで引き上げるよう提言したが、部長職について「5人に1人が女性」という「20%の水準」に達しているのは829 社中この9社にしか過ぎない。そのうち女性部長数が10人を超えているのは1位ニチイ学館以外では、5位のベネッセホールディングスのみで、それ以外は企業規模が中堅クラス以下だ。
人数上位の大手企業に存在感
最後に人数別のランキングをご紹介する。1位はNECの90人(比率3.2%)。2位富士通84人(同2.6%)、3位東芝62人(同2.1%)、4位ファイザー49人(同7.3%)、5位大塚ホールディングス48人(同6.1%)と続く。いずれも比率は高くないが、NECの90人は、対象とした829社の女性部長の総数(1723人)の5.2%を占めるなど存在感はある。女性部長を増やすためには、これらの大手企業の取り組みも参考になるかもしれない。
支援制度充実の意味
さて、部長などミドルマネジメントの女性比率は今後高くなっていくのだろうか。『CSR企業総覧』には各社のさまざまな女性活用支援制度が掲載されている。年々充実していく制度が徐々に効果を出し、比率も高まっていくと期待する向きも多い。
ただ、こうした制度が必ずしもうまくいっていないという見方もある。日興フィナンシャル・インテリジェンスの杉浦康之氏は「両立支援などの社内制度は女性の活躍を推進するためには必ずしも効果的でない」と分析している。
確かに、先ほどご紹介した比率上位の各社の制度は飛びぬけて充実しているわけではない。
たとえば、比率5位のベネッセホールディングスは女性の存在感は非常に高い(開示はベネッセコーポレーションの数字)。50~59歳の年齢別従業員数は男性76人に対して女性93人。全体でも男性1236人、女性1574人と女性が多い。勤続年数も男性9.8年、女性9.4年とほとんど差がない。部長候補である管理職も32.1%が女性と高い数字となっている。
しかし、女性活用の諸制度を見るとフレックスタイム制度や短時間勤務制度などがあるものの、全体では平均的な内容だ。育児休業は「1歳到達後の4月14日まで」と、他の大手が3年間などと長期化するケースもある中ではむしろ短い方で、一般的な制度ではトップクラスとはいえない。
一方で裁量労働制度、在宅勤務制度など子育て中の女性でもしっかり働ける制度の導入は積極的だ。働く時間を減らすのではなく、場所にとらわれず働ける環境を整備することが高い女性比率につながっているのかもしれない。
日本企業の女性活用の本気度
ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスに詳しいアパショナータ代表のパク・スックチャ氏は「日本企業は長期間の育児休業や時短勤務の導入には熱心だが、本気で女性を活用しようとしていない」と指摘する。
確かに『CSR企業総覧』に掲載されている各社の女性活用制度は、時短勤務や長期間の育児休業など女性の仕事量を減らす内容が目立つ。家事や子育ては基本的に女性が行うことを前提に制度が作られているケースも多そうだ。
時短などを取得している女性には責任ある仕事をあまり与えない上司もいるという。働き盛りの30代前半などで補助的な仕事しかしていなければ、当然その後のキャリアに影響が出るだろう。
管理職の女性を増やすためには、通常の仕事をこなしながら子育てを行い、少しずつキャリアアップできる環境を整備することが欠かせない。そのためには「夫の協力や家事の外注化で女性を職場に戻すべき」(パク氏)といった視点も必要になるだろう。
日本全体で見ると女性部長比率が高い企業は、まだニチイ学館やベネッセなどごく一部に過ぎない。だが、そうした企業には女性活用のノウハウが蓄積されている可能性がありそうだ。」
http://toyokeizai.net/articles/-/12314
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます