白夜の炎

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「適正な裁判や当事者の権利は二の次」 元裁判官が最高裁の「人事支配」を厳しく批判

2014-02-28 20:08:55 | 政治
「33年間にわたり、東京地裁や大阪高裁など日本各地の裁判所に勤務し、最高裁判所の調査官を経験したこともある元裁判官・瀬木比呂志氏が2月27日、外国特派員協会で記者会見を開き、日本の裁判所の「病巣」を厳しく批判した。

裁判所の内部に長く在籍した人物による表立った組織批判は、異例のことだ。2月中旬に『絶望の裁判所』と題する新書を出した瀬木氏は、同書の内容を引用しながら、「最高裁長官の意を受けた最高裁事務総局が、裁判官の人事を一手に握ることによって、容易に裁判官の支配・統制をおこなうことが可能になっている」と指摘した。

そのうえで、「裁判官たちは、ヒラメのように最高裁事務総局の方向ばかりをうかがいながら裁判をするようになり、結論の適正さや当事者の権利は二の次になりがちだ」と、現在の裁判所の人事制度がもたらす問題点を批判した。

スピーチでは、最高裁長官による「大規模な情実人事」や、最高裁の暗部とされる「思想統制工作」についても触れており、組織内部の体験者ならでは生々しさが感じられる。以下、瀬木氏のスピーチの内容を紹介する。

●「思想統制工作」を自慢げに語る裁判官たち
「日本の裁判所はどのような裁判所かということですが、大局的にみれば、それは国民・市民支配のための道具・装置であり、また、そうした装置としてみれば、極めてよくできているといえます。

なぜ日本の裁判所・裁判官が、そのような役割に甘んじているのかを多角的に解き明かすのが、この書物(『絶望の裁判所』)の目的です。

私は思想的には、広い意味での自由主義者であり、また、個人主義者でもあると思いますが、いかなる政治的な党派・立場にも与してはいません。

以下、書物の内容に沿いながら、論じます。

まず、私が最高裁で経験した2つの事件について、述べます。1つは、私が事務総局民事局の局付裁判官だった時代の経験です。

ある国会議員から入った質問に対してどのように答えるかを、裁判官たちが集まって協議していたとき、ある局の課長(裁判官)がこう言いました。『俺、知ってるんだけどさ、こいつ、女のことで問題があるんだ。質問対策として、そのことを週刊誌かテレビにリークしてやったらいいんじゃないか』

もちろん彼のアイデアは採用されませんでした。(裁判官からこのような言葉が出たことに)他のメンバーはショックを受けていましたが、その課長は平然としていました。彼は、のちに出世のヒエラルキーを昇り詰め、最高裁に入りました。

また、私が最高裁の調査官時代、最高裁判事と調査官の昼食会の席上、ある最高裁判事が大声をあげました。『実は、俺の家の押し入れには、ブルーパージ関連の資料が山とあるんだ。どうやって処分しようかな』。すると、『俺も』『俺も』と他の二人の最高裁判事からも声があがりました。

このときも、昼食会の会場は静まりかえりました。『ブルーパージ』というのは、大規模な左派裁判官排除、思想統制工作であり、最高裁の歴史における代表的な恥部です。そのような事柄について、6人の下級裁判所(地裁・高裁)出身の裁判官のうち3人もが、自慢げにこのような発言をおこなったことに、他のメンバーはショックを受けました」

●最高裁事務総局を頂点とする「上命下服のピラミッド」
「2000年代以降、長く人事上劣勢にあった刑事系裁判官は、裁判員制度導入を利用して、裁判所の支配権を握りました。彼らがおこなった情実人事については、本書でも詳しく記しています。

このような状況について、ある元裁判官は『最高裁長官・竹崎博允(ひろのぶ)氏が進めたこのような人事は、言語道断である。こうした大規模な情実人事が、下級審裁判官たちに与えた影響は計りしれない』と述べています。

竹崎長官の就任後、最高裁判所のいわゆる『学者枠』に元裁判官である女性学者が任命されました。しかしこの人事については、学者の間から『彼女の業績は非常に乏しいものではないか』という批判が数限りなく聞かれました。

この人事についても、元裁判官の有力者は次のように述べています。

『筋の通った反対意見を書くことが多く、影響力が強い《学者枠》の裁判官に、そのような人物ではない人を得るというのは、裁判所当局にとって都合の良いことであろう。たとえば、必ず提起されるに違いない《裁判員制度違憲》を訴える訴訟について、全員一致の合憲判決を得ることが容易になるに違いない』

この合憲判決については、彼の予測は当たることになりました。

日本の裁判所のもっとも目立った特徴は、あきらかに『(最高裁)事務総局中心体制』であり、それにもとづくところの上命下服の『ピラミッド型ヒエラルキー』です。そのヒエラルキーは、たとえば横綱から幕下力士までの名前が細かく掲げられた相撲の番付表にも似ています。日本の裁判所が、およそ平等を基本とする組織ではなく、むしろ、その逆であることを認識してください。

最高裁長官、事務総長、そして、その意を受けた事務総局人事局は、裁判官の人事を一手に握ることによって、容易に裁判官の支配・統制をおこなうことが可能になっています。こうした人事について恐ろしいのは、裁判所当局による報復が何を根拠としておこなわれるのか、いつおこなわれるのか、わからないということです。

そのため、裁判官たちは『最高裁や事務総局の気に入らない判決を書かないように』ということから、ヒラメのようにそちらの方向ばかりをうかがいながら裁判をするようになり、結論の適正さや当事者の権利は二の次になりがちです。

事務総局は、気に入らない者については、かなりヒエラルキーの階段を昇ってからでも、たとえば『もう、あなたは東京には戻さない』といったことを告げ、公証人など別の職業を紹介するといった形で、切り捨てることができます」

●『それでもボクはやってない』はいつでも起こりうる
「日本の裁判官は、このような事情から、たとえば国が被告になっている、あるいは行政が被告になっているような困難な判断につき、棄却・却下の方向をとりやすい。また、困難な判断を避け、当事者に和解を強要する傾向が強いといえます。

最高裁の判例の一般的な傾向については、このように言えると思います。すなわち、統治と支配の根幹はアンタッチャブルであり、しかしながら、それ以外の事柄については、可能な範囲で一般受けの方向を狙うということです。

刑事裁判については、日本では『それでもボクはやってない』という周防正行監督の映画が話題になりましたが、実際には日本の法律家にとって、あの映画はショッキングなものではありません。ああいうことは、いつでも日本の刑事司法で起こりうる。つまり、あなたがたにも起こりうることだと考えます。

裁判員制度についても、そのあるべき姿がゆがめられてしまったといえます。被告人選択制の陪審制度に移行すべきです。

日本の裁判官は、かつては2000名あまり、現在も3000名足らずと非常に少ない。一般的にいえばエリート集団ですが、その非行はかなり多く、ことに2000年代以降、8件もの事件で、多くの裁判官が罷免等されています。ほとんどが性的な非行です。これは裁判所の荒廃の端的なあらわれではないかと思います。このような事態を生む裁判官の精神構造の病理については、本書で詳しく触れています。

日本においても、たとえば大学では、ハラスメントに関する適正な規律がなされています。しかし、裁判所には、そのようなガイドラインも、相談窓口や審査機関もなく、いわば野放しの状況になっているといえます。

つまり、裁判官たちの非行については、収容所的な組織がもたらす悪影響と個人的な原因があるということです」

●日本の裁判官は「見えない収容所」の囚人
「日本の裁判官たちは、見えない『檻』『収容所』の中に閉じ込められた『制度の囚人達』であるといっても良いと思います。それはある意味で、旧ソ連の全体主義的共産主義体制すら思い起こさせます。

日本の社会はそれなりに充実した民主社会ですが、その構成員にとって、あるいは日本に住む外国人にとって、息苦しい部分があると思います。

その原因の一つは、おそらく社会の二重構造、二重規範にあるのではないかと思います。つまり、法などの明確な規範の内側に、それぞれの部分社会特有の『見えない規範』があるのです。人々は、どちらかといえば、その『見えない規範』によって縛られています。

日本の裁判官の社会は、この『見えない規範』が極めて強固であり、またそれに触れた場合の制裁が極めて過酷な社会なのです。

日本国憲法76条には『すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される』と記載されています。

しかし、日本の裁判官の実態は、『すべて裁判官は、最高裁と事務総局に従属してその職権を行い、もっぱら組織の掟とガイドラインによって拘束される』といったものになっています。この憲法の条文は、日本国憲法の他の数多くの輝かしい条文と同じように、愚弄され、踏みにじられているといえます。

日本の裁判所・裁判官制度が根本的に改革されなければ、日本の裁判は、本当の意味において良くはならないでしょう。また、現在の裁判所はもはや自浄能力を欠いており、法曹一元制度の採用による根本的な改革が必要だと考えます。

まとめの言葉として、次のように述べておきたいと思います。

本書はある意味で、司法という狭い世界ではなく、日本社会全体の問題を批判する書物です。バブル経済崩壊以降の日本社会の行き詰まりには、私がこの書物で分析したような問題に起因する部分が大きいのではないでしょうか。

日本の裁判官組織は、法律専門家エリートの非常に閉ざされた官僚集団であるために、そのような問題が集約・凝縮されてあらわれていると考えます。その意味で、本書で私が提起した問題には、かなり大きな普遍性があるのではないのかと考えています」

【瀬木比呂志氏プロフィール】

1954年名古屋市生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。1979年以降、裁判官として東京地裁、最高裁等に勤務、アメリカ留学。並行して研究、執筆や学会報告を行う。2012年明治大学法科大学院専任教授に転身。民事訴訟法等の講義と関連の演習を担当。」

http://blogos.com/article/81366/

日本で広がるナショナリスト的風潮―中韓との対立で

2014-02-28 18:55:51 | アジア
「【東京】日本では第2次世界大戦中の特攻隊員を賛美する映画が2カ月にわたり興行収入のトップを記録している。東京の書店では、日本の近隣諸国を非難する書籍のコーナーが設けられている。そして、「ネトウヨ(ネット右翼の略称)」と呼ばれ過激なナショナリスト的な思想を持つ匿名の投稿がツイッターやチャットページで急増している。

 中国と韓国との緊張が高まる中で、第2次世界大戦に対する後悔の念によって長年かけて形成されてきた日本の世論が変わりつつある兆しが各地で見られている。

 周辺海域での中国政府の武力威嚇に対する脅威や、今後の日本経済に対する不安から、ナショナリスト的な感情や近隣諸国への不信感、時には強い敵意をあらわにする人が増えている。 

 民主党の辻元清美衆議院議員は「これは差別じゃないかとか、激しい嫌悪感とか、今まで押さえ込んできた感情や思想がふたを開けて飛び出してきている。日本中で同じようなリズムを持った人が、自分は正しかったと、振り子の共振作用のように発言している」と述べた。

 日本では平和を守ろうとする考え方が深く根付いており、右傾化はまだ始まったばかりにすぎない。しかし、主に30代と40代で、米国のティーパーティー(茶会党)と共通点もある強硬な保守的思想を持つ人が増えるにつれて、こうした右寄りの風潮が日本の政治にも影響を及ぼし始めている。 

 今月上旬に行われた東京都知事選で、外国人たたきで有名な右翼団体のトップを務める元航空幕僚長の田母神俊雄氏は、日本の主要メディアが同氏を泡沫候補と見なしていたにもかかわらず、予想外に大量の票を集めた。朝日新聞の出口調査によると、20代の回答者の24%が田母神氏に投票した。

 今までよりはっきり意見を言う少数の国家主義者の台頭で、東アジア諸国だけでなく、米国の当局者の間でも懸念が広がっている。中には、これが東アジアの緊張を悪化させ、中国と日本が衝突するリスクを高めかねないと危惧する声もある。

 米国のダニエル・ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は先の議会証言で、日中関係が「極めて悪化している」ことを引き続き憂慮していると述べ、両国に「緊張を緩和させ」、「言葉遣いのトーンを抑えるよう」呼び掛けた。

 日本と中国の戦闘機や監視船が尖閣諸島近くでにらみ合いを続けていることを受けて、バイデン米副大統領など他の米政府高官も危険な衝突のリスクに警鐘を鳴らしている。 

 日本の多くの当局者と政治家は国内の世論の変化について、別の解釈をしている。彼らは戦時中の問題をめぐり中国と韓国はいつまでも不当に日本を批判していると考えており、これに国民がようやく反応し始めただけだと話す。また、中国と韓国は戦時中の残虐行為に対する謝罪と償いをしようとする日本の再三にわたる努力を認めようとしないと訴えている。

 中国と韓国はこうした見解をはねつけている。両国の首脳は、日本政府は歴史をゆがめているとして批判し、1年2カ月前に安倍晋三首相が就任して以来、同首相との二国間の会談を拒否している。

 韓国の上級外交官であるキム・ジュンハ氏は1月の国連会議で「日本の主要政治家らが最近、歴史修正主義の立場で過去の悪事を否定、ひいては正当化しようとしていることは遺憾だ」と述べた。

 政府系シンクタンクの中国社会科学院の日本専門家、楊伯江氏は、中国共産党機関紙「人民日報」の24日付論説で、安倍政権下の日本は、第1次世界大戦前のドイツや第2次世界大戦前の日本が犯した過ちを繰り返しているようだと指摘。「このことは人類が再び戦争の底なし地獄に引きずり込まれないように、平和を愛する世界の国々の警戒心をあおるはずだ」と述べた。

 中国と韓国でも、近年はナショナリズムが台頭している。だが、日本が第2次世界大戦で侵略国だった歴史を考えると、最近の日本の状況はとりわけデリケートだ。日本で最後にナショナリズムが急激に台頭した時期は1920年代と30年代で、その後、日本は戦争に突入した。当時、日本は関東大震災からの復興と世界的な景気後退に苦しんでいた。

 当時とは異なり、現在の日本は成熟した民主主義国家で、数十年間にわたり世界平和に貢献してきた。自衛隊は厳しい文民統制下にある。多くの政治学者は、振り子がナショナリズムの方向へ振れ続けるなら、日本社会にはそれを押し戻す柔軟性があると指摘する。ちょうど80年代と90年代に地域の緊張が今と同様に高まった時のようにだ。

 大半の日本人にとって、地域的な対立は最大の関心事ではない。日本経済新聞が24日に掲載した世論調査によると、安倍首相にとって最も重要な政策課題は国家安全保障だと回答した人は全体のわずか6%しかなかった。それに対して、38%が社会保障だと回答し、30%が経済改革だと回答した。

 その一方で、多くの日本人が自らが置かれた状況により不安を感じていることは確かだ。昨年10月の内閣府調査では、「中国に親しみを感じない」と答えた人の割合が回答者の81%に達し、過去最高となった。この割合はわずか4年前には59%、20年前には40%だった。昨年の別の世論調査では、回答者の40%が韓国に対する考え方が前年より悪化したと答えた。その多くが戦後処理をめぐる韓国側からの日本に対する批判をその理由に挙げている。

 こうした漠然とした不安感は大衆文化にも広まっている。週刊誌などは韓国や中国を攻撃する衝撃的な見出しで競い合っている。週刊文春の最近の特集記事の見出しは「韓国の暗部を打て」だった。また、週刊新潮では「大嘘承知で反日プロパガンダ!」との見出しが躍った。

 また、書籍の売り上げランキングによると、中韓両国の経済破たんを予測する本、例えば「破綻する中国、繁栄する日本」や「サムソンの真実」などが飛ぶように売れている。

 さらに、米国への敵意もゆっくりと首をもたげてきている。米国が中国と経済的な結びつきを強化していることを背景に、日本の政府関係者や議員らは、仮に日本が中国の攻撃を受けた場合、米国が果たして日本を守ってくれるかどうかについて懐疑的になっている。 

 中には、米国が近隣諸国との関係で日本に自制するよう圧力をかけ続けていることを鬱陶しいと見る向きもある。また、戦犯も合祀(ごうし)された靖国神社に安倍首相が参拝したことを受け、オバマ政権が首相に苦言を呈したことを特に苛立たしく感じた向きも多い。

 衛藤晟一首相補佐官は動画サイト「ユーチューブ」に投稿したビデオメッセージ(後にこのメッセージは削除された)で、米国が公式に「失望した」と表明したことに触れ、「むしろわれわれの方が失望した。米国はなぜ同盟国の日本を大事にしないのか」との不満を表明した。

 米国務省当局者は26日、「米国は日本との深くて長期的な同盟関係にコミットし続ける」と述べる一方、安倍首相の靖国神社参拝については米国の立場を「とても明確に」示したと述べた。

 日本のナショナリスト的な傾向は特に若者の間で目立っている。

 時事問題を扱う月刊誌「WiLL」は「世界の嫌われ者、韓国」や「中国は一線を越えた!」といった人々の注目を集めるナショナリスト的な見出しで知られているが、この2年間で発行部数が30%増え、10万近くに達したという。花田紀凱編集長によると、今や読者層の40%が20代から30代の若者で、女性にも多く読まれている。50歳を超える男性が大半だった以前から様変わりしているという。

 そんな中、若い保守派の中核となりつつある政治家が安倍首相を支持している。

 その1人が就職斡旋会社の経営者から政治家に転じた宮崎謙介氏(33)だ。

 宮崎氏は「われわれの若い世代には、自分たちの国に対して誇りをもてない人、将来に対してネガティブな思いを持っている人が多い」としたうえで、「自分たちの国が侵略をした国だという自虐的な歴史観を徹底的にすりこまれてきたからだと思う」と述べた。

 そうした若手議員は個人としての影響力は限られているものの、集団としては安倍首相の挑戦的な外交・防衛姿勢に影響を及ぼしている。日本の憲法では軍の役割を自衛のみに厳しく制限しているが、首相は米国などの友好国が敵の攻撃を受けた場合に自衛隊が反撃できるよう憲法見直しに向けた動きを推進している。

 首相による年末の靖国神社参拝は、若者の間での人気の高さを一段と裏付けることになった。参拝は近隣諸国の怒りを買ったものの、朝日新聞が昨年行った世論調査で30代の回答者の60%が参拝を支持すると答えた。全体の割合と比較してはるかに高い数字だ。

 また、春の例大祭に靖国神社を参拝した議員の数は168人と、前年の81人から大幅に増え、過去最高となった。

 そうした中、第2次世界大戦時の特攻隊員を題材にした映画「永遠の0」はヒットしている。興行通信社によると、「永遠の0」は国内映画ランキング(観客動員数)で今月初めまで8週連続トップとなった。

 首相をはじめとする同映画のファンは、若者に戦争の残虐性を伝える機会になると称賛している。

 一方、悲劇的な政策の過ちによる無益な死を美化するものだと批判する人たちもいる。

 この映画のヒットをきっかけに、日本の戦時のイメージをもっと前向きにとらえたいと考える人たちの期待に応えた特攻隊関連の展示会がちょっとしたブームを呼んでいる。映画のロケ地となった旧筑波海軍航空隊史跡は映画公開に合わせて記念館として期間限定で公開されている。パイロットをモチーフにしたイメージキャラクターも作成され、12月20日のオープン以降、来場者は1万人以上に上る。

 映画の原作となった同名のベストセラー小説の著者で首相の友人でもある百田尚樹氏は最近、NHKの経営委員に任命された。しかし、任命から間もなく野党議員の批判にさらされることになった。1945年の原爆投下と東京大空襲を「大虐殺」と呼び、米国を厳しく非難したことが大きな一因だ。

こうした社会的潮流の変化は、2012年12月の衆議院選挙で安倍総裁率いる自民党が圧勝して以来、国会における首相の支持基盤強化に一役買っている。自民党の119人の新人議員の多くが今、首相が議場で日中や日韓関係について見解を示すたびに拍手喝采を送っている。

 それら議員は連立与党政権が国会で過半数を十分維持するのに貢献している。首相の支持率は50~60%と歴史的高水準にあり、最も異論のある政策を除き、従来中国との密接な関係を支持している党内のリベラル派からも首相はほとんどプレッシャーを受けていない。

 日本大学の岩井奉信教授(政治学)は「今の自民党は安倍さんの言うように動く」とし、「安倍さんに文句を言う人がいないから、どんどん物事が決まってゆく」と指摘した。

 新人議員の1人、武藤貴也衆議院議員(34)は大学教授になる道を断念した後、政治の世界に入った。「最もタカ派の議員の1人」を自称する同氏は、日本は米国に頼らなくても中韓に対して自ら防衛できる十分な能力を持つべきだと考えている。

 武藤氏は「アメリカがスーパーパワーだった時代は終わり、日本を守れなくなる時代がくる」とし、「防衛は自前でやらなくてはならない」と述べた。

 そのために日本はどうすべきか尋ねたところ、最もナショナリスト的な議員の間でさえ依然異例とされる答えが返ってきた。それは「核武装」だった。」

http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304227204579408363522000826.html?mod=trending_now_2