べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

melancholic

2007年02月01日 19時57分01秒 | 哀愁

とある秋の日の夕暮れどき
ぼくは見知らぬ街の石畳の小路を
あてどもなくひとり歩いておりました
通りに人影はなく
朽ちた枯れ葉がただただ風に舞うばかり
空はどんよりと鈍色(にびいろ)にたれこめ
静かな寂びしい気配があたりを満たしておりました

と、どこからか
物憂げなメロディーが聴こえてきたのです
ふと音のする方に目をやると
いつからそこにいたのか
路端に男がひっそり立っておりました
男はどうしたわけか道化のいでたちをして
手まわしオルガンを奏でていたのです
ぼくの足はひとりでに歩くのをやめて
ぼんやり立ちつくしたまま
道化の奏でる哀愁をおびた旋律に
知らず知らず耳をかたむけておりました
ぼくにはこれといって
先を急ぐあてなどありませんでしたから

道化師がゆっくりとオルガンのハンドルをまわすにつれて
センチメンタルな美しい曲が流れだします
道化師の顔には
白塗りの厚い化粧がほどこされておりました
右の頬には涙がひと粒描かれていて
まるで泣きたいのを我慢して
無理に作り笑いを浮かべているような表情です
青みがかった瞳はどこか遠くを見つめているようで
深く澄んだ海の色をしています
そうこうするうちいつしかぼくの心は
手まわしオルガンのつむぎだすメロディーに
すっかりからめとられてしまったようで
魂は無意識の放浪をはじめていたのです

とある秋の日の夕暮れどき
見知らぬ街の石畳の小路には
朽ちた枯れ葉が風に舞っておりました
人通りの絶えた街角には
哀愁をおびた音楽が静かに静かに流れています
夕闇がせまりガス燈にぼんやり灯かりがともるころ
ふと気がつくと
ぼくはオルガンのハンドルを手にしていました
そうしてゆっくりゆっくりまわしていたのです
道化の恰好をして
顔には厚化粧をほどこして
人通りのすっかり絶えた街角で
手まわしオルガンを奏でていたのはぼく自身でした
いつのまにかぼくは
泣きたいのを我慢して
無理に作り笑いを浮かべるひとになっていたのです
やがてメランコリックな宵闇が
見知らぬ街ごと
静かにぼくを包んでゆきました





☆絵:ジャンセン☆
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