私の本業は、ハンググライダー関係のギアの製造。
もう30年ほど、この仕事をやっていますが…。
最近、困ったことが起こっています。
それは…。
ハンググライダーを車に乗せるとき、ファスナーを上にするか下にするか!なんです!!
もうこれ、面倒くさくて…。
ハンググライダーの構造など分かっていなくクセに、全く「その人の気分」で決まっています。
いちいち一人一人に、「ファスナー上?下?」なんて聞いたりして…。
あ~。俺チャック(チャックじゃない!正式名はファスナーだ!!)は下!
間違っていたら、その人の気分を損ねてしまう…。
もう、面倒くさくて仕方がありません!
ここで、私がこの問題に結論を出します。
そんなのどっちでも構わないよ!
でも、強いて言えば、今のハンググライダーの構造を考えると、ファスナーは上の方が良いかも…。
なんです!
じゃ、なんでこんなややこしいことになったのか…。
そのいきさつを、今夜はお話しします!
もともとこの問題が起こったのは、キングポストレス機という機体が、約25年前ほど前に出来たことが発端です。
このキングポストレス機とは、性能を良くするため、ハンググライダーの上部の構造材をすべて無くし、空気抵抗を
少なくした機体の事を言います。
この図の上の部分がまったくない機体ですね!
このキングポストレス機は、クロスバーと言われる構造材に、強度の高いカーボンを使用することにより、上部の構
造材を一掃することが出来ました。
しかし…。
この種の機体が出来た当時、まだカーボンの信頼性が未知数だったのです。
そのため、危険を冒さぬよう、敢えて、いままで禁止だったファスナーを下にする積み方を奨励したのです。
ファスナーを下にすれば、カーボンのクロスバーが直接車のキャリアにぶつかることがありません!
実際、初期のころのキングポストレス機の中には、クロスバーをカーボンとハニカム材やケブラーなどとの複合素材
にしたものが登場しており、確かに、それらが直接キャリアにぶつかるような積み方は、やめた方がよさそうと言え
るものでした。
でも…。
時代が進むにつれ、あらゆることを考えると、クロスバーは少々重くなっても厚肉の信頼性の高いものの方が良い!
ということになり、その形も、あらゆる方向に対して強い、円形に近いものヘと進化を遂げてきました。
この時点にて…。
車のキャリアの強度よりも、クロスバーの強度の方が、はるかに高くなっていたのです。
こうなってくると、もう、クロスバーの強度を気にして、ハンググライダーを車に積むこと自体が、無意味になって
しまいました。
だって、あんなに分厚い肉厚をしたカーボンのクロスバーが、わずか、0.9ミリの肉厚のアルミ材に、強度で負ける
はずはありません…。
でも、昔から続いた習慣と言いますか…。
ハードウェアの進化を無視した、浅はかさと言いますか…。
ハンググライダーの上下を、意味もなく気にして車に積むという習慣だけが残ってしまったのです!
おそらくですが…。
やたらめったら、ハンググライダーの上下を気にして車に積んでいる人は、ハンググライダーのハードウェア―を、
真には理解していないからでしょう。
だから、無意味なことなので、こんなこと、もうやめましょうよ!
…。
最初の方で、結局は、全部のグライダーについて、ファスナーを上にした方が良いのでは!と、お話ししましたが、
この理由についてご説明します。
まず、ファスナーを下にした積み方の場合、コントロールバー周りにトラブルが起こる可能性があります。
また、このコントロールバーに干渉して、セールを傷める可能性もあります。
更に、カーボン材は熱に対して弱い特性があります。
つまり、カーボン製のクロスバーを上にする、つまり、ファスナーを下にする積み方をした場合、炎天下でクロスバ
ーの強度が低下してしまう可能性があるのです。
このような理由で、私は、すべてのハンググライダーは、ファスナーを上にして車に積んだ方が良いと考えていま
す。
今回お話しした、ハンググライダー運搬で、ファスナーは上か下か問題…。
確かに面倒臭く意味のないものだったのですが…。
実は、一つだけ「利点」もありました!
それは…。
やれ自分はファスナーが下だ!とかやたらこだわる人は、上達が遅い傾向がある!このことを知ることが出来ること
です。
これは、私のようなハングフライヤーを指導する立場の人間にとっては大事なことです。
これ、考えてみれば当然のことで…。
意味も理解しないまま、やたら一つのことにこだわるということは、柔軟さがない、臨機応変さがない!
そういうことです。
この二つは、ハンググライダーの上達に、なくてはならないものであり、その方の適性を前もって知ることが出来
る…。
そんな利点はあります!
皮肉に聞こえますか?