歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

シェイクスピアの歌曲

2010年08月03日 | 音楽について
パーセルはシェイクスピアを下敷きにした劇作品のいくつかに音楽をつけています。『妖精の女王』は『夏の夜の夢』がもとだし、『テンペスト』もあり、曲数は多くないけど劇音楽『アセンズのタイモン』もあります。しかしパーセルが活躍した17世紀の後半は、シェイクスピアの原作が時代の好みに応じた改作によってもみくちゃにされていた時代のようで、パーセルが曲をつけたのもほとんどはシェイクスピアのオリジナルにではなく、改作部分のマスクに対する作曲でした。パーセルがシェイクスピアのせりふそのものに曲をつけていたらどんなだったろうと近ごろしょっちゅう思うのですわ。だって、たとえばパーセルより50歳くらい年下になるのかな、あの『ルール・ブリタニア』の作曲者であるアーンは、〈Sigh no more, ladies〉にも、『テンペスト』でエーリアルが歌う〈Where the bee sucks〉にも曲をつけているんですよ。それ以降は、リンリーもボーンウィリアムズもクィルターもブリテンも、さかんにシェイクスピアの詩に曲をつけてます。

映画『から騒ぎ』をめぐって

2010年08月01日 | 演ずる人びと
デンゼル・ワシントンとキアヌ・リーブスが兄弟といわれてもぜんぜん違和感なく受け入れられるんだけど、これはこちらが日本人で、肌の色のちがいに鈍感なせい? むしろベアトリスのエマ・トンプソンと、ヒーローの侍女として出てくるアーシュラ役の女優さんがよく似てるのが気になった。調べてみたら、アーシュラのフィリダ・ローはエマ・トンプソンの実のお母さんなのだそうな。

歌手のバルサザーというのが出てきますが、これを音楽担当のパトリック・ドイルがみづから演じているそうです。主題歌の〈Sigh no more, Ladies〉は劇中でバルサザーが歌う歌でもあり、ドイルがバルサザーとして歌っている。そんなに巧くない。しろうとっぽい。でもそれがまた味なのかな。それなりに嵌まっている。

Sigh no more, ladies, sigh no more,
Men were deceivers ever,
One foot in sea, and one on shore,
To one thing constant never.
Then sigh not so, but let them go,
And be you blithe and bonny,
Converting all your sounds of woe
Into hey nonny nonny.

YouTubeには80年代のBBCのドラマ版もあった。ブラナの映画版を見てからBBC版を見ると、あまりに間延びした演出に呆れてしまう。ベアトリスは美人だが、ベネディックはルー大柴に見える。ドン・ペドローをやっているジョン・フィンチという人が二枚目。フィンチは、デレク・ジャコビがリチャード王をやった『リチャード二世』でヘンリー・ボリングブルック(後のヘンリー四世)を演じ、その後も『ヘンリー四世』第一部、第二部でおなじ役をやっている。フィンチはジャコビより少し年下だそうだ。BBC版のハムレットはジャコビよりフィンチのほうがよかったんぢゃないだろうか。

70年代の末から80年代にかけて、BBCがテレビドラマのようにしてシェイクスピア全集を制作し、それをNHKでも教育テレビで放送するということがありました。なにしろ作品数が多いので、NHKでも全編放送したものやらそれは分からないんですが、『ハムレット』と『お気に召すまま』は見たおぼえがある。『ハムレット』は、熊のぬいぐるみのようなデレク・ジャコビのハムレットがどうにも違和感あってそれで記憶に残っています。その後、北杜夫のエッセイにこの熊ハムレットのことが書いてあるのを見ました。北さんはこれまでとちがうユニークなハムレットだととても褒めていた。『お気に召すまま』のほうは、ヘレン・ミレンのロザリンドと、多分ロンドンの近くのどこかでロケしたのであろう森の美しさをおぼえています。劇中、どっかの聖歌隊からひっぱってきたのであろうboySふたりが、トマス・モーリーの〈It was a lover and his lass〉を歌ってた。