歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

ボルティモア・コンソート『パーセル_キャッチ集ほか』

2010年08月22日 | CD パーセル
The Art of The Bawdy Song
The Baltimore Consort and The Merry Companions
DOR-90155

1990年録音。70分17秒。DORIAN。'bawdy'は辞書によると「俗悪な、下品な、みだらな」ってことだそうですけど、ここでは「エロ」というよりか「酔っぱらいのふざけ歌」という感じです。言ってみりゃ『酒場歌の芸術』ってところですか。わたしはパーセルのキャッチ〈Come, let us drink〉を聴きたくて、いろいろ探したあげくこのCDにたどりつきました。かんじんの〈Come, let us drink〉はいちばん最後に出てきてわずか1分20秒で終わってしまいますが、これをふくめて要所要所でパーセルのキャッチ(計9曲)が歌われ、またほかの曲もなかなか聴きごたえがあり、全体としてノリのいい楽しい演奏です。

ボルティモア・コンソートは米ドリアンに録音実績のある古楽グループ。ふだんは小編成のシンプルな器楽合奏にボーカルが1人ないし2人くらいの編成が多いようです。ソプラノのCuster LaRueという人が録音当時レギュラーの歌い手だったらしいんですが、ここではそのラリューさんのほかに、The Merry Companionsという男声4人組が加わっています。(そのうちのひとりはポメリウムの指揮者であるアレクサンダー・ブラッチリー。)しかしThe Merry Companionsというのはその後の音沙汰もないようですから、この録音のために特別編成されたグループだったのかもしれません。

収録されているパーセルの曲は〈I gave her Cakes and I gave her Ale〉〈Fye, nay, prithee John〉〈The Miller's Daughter〉〈Tom the Taylor〉〈My Lady's Coachman John〉〈As Roger last Night to Jenny lay close〉〈Pox on you〉〈Sir Walter enjoying his Damsel〉〈Come, let us drink〉。このうち〈Sir Walter enjoying his Damsel〉はハープシコード曲として知られる〈A new Irish tune〉に歌詞をつけて、器楽伴奏をともなう独唱曲としたもの。ほかはいづれもごく短いものばかりですが、おそらく大半が競合盤のない貴重な録音。茶目っ気あるパーセルの素顔が垣間見られるような、これはこれでパーセルのファンなら一度は聴いてほしいなつかしい演奏です。なお〈Pox on you〉は冒頭のゲロがなまなましい。パーセルでいちばん品のない歌では?

そのほか、D'Urfeyというほぼパーセルと同世代の作曲家によるトラック6〈Cold and Raw〉など、なかなか印象的。パーセルを生んだ音楽風土をかいま見るよう。

〈Come, let us drink〉はかつてデラー・コンソートの録音があって、テナーにポール・エリオットが参加してもいて、わたしもCD屋で手にしたことがあったんですが、録音時間がたしか40分たらずだったせいで買いそびれました。パーセルのキャッチばかりを集めたアルバムでした。しかしそういう企画のアルバムってその後も出てないと思う。そろそろ新しいのが出てほしいなあ。