歌わない時間

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ディック・フランシス『障害』

2010年08月15日 | 本とか雑誌とか
ディック・フランシス/菊池光訳『障害』(ハヤカワ文庫)読了。ローランド・ブリトン、32歳、会計士でアマチュア騎手。例によって、けっして諦めない男。でも人間らしい恐怖心を備えた主人公。

なにしろ冒頭いきなり、誘拐された主人公が、縛り上げられて真っ暗闇の部屋の中、ってところからはじまる。しかもその日彼はレースで優勝したというのに。まあフランシスの主人公だから、読み進めりゃ脱出してくれるんですが、脱出はしてもだれが何の目的で彼を拉致したのかが分からない。前半の盛り上がりと緊張からすると、後半やや筋が膠着ぎみにはなるけれど、最後近くになって現れる大物の犯人には、正直、驚かされました。ただ共犯者はわりと早めに見当つきましたけどね。

神は細部に宿る、というけれど、ディック・フランシスの巧さは、それぞれの作品にほんの少ししか登場しない脇役たちの見ごとな造型によく現れている。これはたいていの人がそう思っているのではないかと思います。『障害』のばあいは卑怯な調教師ビニイ・トムキンズとか、情けない依頼人ウェルズ氏とか。こういう人たちが巧く書けているので、主人公のとほうもない不撓不屈ぶりが現実離れしないで、読む者をお終いのページまでぐいぐい連れて行ってくれるのだ。

わたしはディック・フランシスを読むときは、立ち上げておいたMacBookで地名を探しながら読んだりします。今回出てくる地名は、主人公が船で連れて行かれるミノルカ島(地中海)、主人公が住んでいるイングランド南部のニューベリー(競馬場のある町)、主人公が生まれ育ったワイト島(イギリス南岸)など。ニューベリーはロンドンの西にあって、googleマップを大ざっぱな目分量でみたところでは東京都心から八王子くらいの位置です。