歌わない時間

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全集における曾野さんの作品

2010年04月16日 | 本とか雑誌とか
小学館の〈昭和文学全集〉では第25巻が『深沢七郎 水上勉 瀬戸内晴美 曾野綾子 有吉佐和子』で、曾野さんの収録作は「地を潤すもの」「幸吉の行灯」「殉死」「星との語らい」「銀杏の梢にかかる星」「只見川」「愛」「落葉の声」「チェ・ゲバラの春」「慈悲海岸」。これは1988(昭和63)年刊で今も入手できるそうですよ。「殉死」「星との語らい」「只見川」「落葉の声」が〈現代の文学〉と共通。「星との語らい」がここでも選ばれているのはうれしいなあ。けど「殉死」ってそこまでの名編とは思わんけどな。「只見川」は戦争に引き裂かれた夫婦の殉愛もの。「落葉の声」は、アウシュビッツでコルベ神父に自分の身代わりになってもらって命を救われたガイオニチェック氏をポーランドに訪ねる話。

ついでに、たまたま今年復刊された筑摩書房の〈現代日本文学大系〉では第88巻が『阿川弘之 庄野潤三 曾野綾子 北杜夫集』で、収録は「たまゆら」「遠来の客たち」「海の御墓」「べったら漬」。1970(昭和45)年刊。「たまゆら」は長めの中編小説で、曾野さんの代表作の一つ。芥川賞の候補になった「遠来の客たち」以下の三編は最初期の短編。

SuperNipponicaProfessionalでは「曾野」ではなく「曽野綾子」で項目が立っていました。執筆者は〈尾形明子・田中夏美〉。説明の前半に、「『遠来の客たち』(1954)が芥川賞候補となる。『海の御墓』(1954)、『たまゆら』(1959)など、知的で洗練された都会的感覚と、人生に過度な期待を抱かない諦念、ロマンチシズムが融合した作品を発表、」などとある。

アフリカを舞台に人間の生と死の問題を取り上げた『時の止まった赤ん坊』が1984年、ダム建設を題材に、その大工事にかかわったさまざまな人びとの運命の変転を語る『湖水誕生』が1985年で、このころが小説家としての曾野綾子のピークぢゃなかったか、って話は以前書いたことがありますが、ちょうどそのころ、読売新聞社から『曾野綾子選集』って作品集が出てたんですね。学生だったから当時はそんなの買う気もなかったし、だいいちそんなのが出てたなんて知らなかったけど、状態のいい揃い本で適正価格の古書の出物があったら買いたいなあ。