歌わない時間

言葉と音楽について、思うところをだらだらと。お暇な方はおつきあいを。

「ゑ」

2010年04月13日 | 気になることば
劇団民芸に日色ともゑという女優さんがいて、むかしはよくテレビドラマにも出ていた。わたしはこの人のおかげでひらがなの「ゑ」を知ることができたのである。小学校の中学年のころかなあ。今はどうか知りませんけど、「ゑ」なんて字、小学校ぢゃ習わなかったよね。もちろん最初はワ行のひらがなだなんて知りようもなく、「ともる?」などと読んでいたはずである。でも「る」の下にへんな足のようなのがついているし、女のひとの名前として「ともる」はいくらなんでもおかしい、という程度の分別はあって、しばらく謎だった。テレビの画面で出演者としての「日色ともゑ」という字のならびはちょいちょい見かけても、この名前が声に出して読まれるのには気がつかなかったのだと思う。

そしたらしばらくして、噺家さんで柳家「かゑる」さんて名前のひとがいるのを知ったのだ。噺家だから、出てくるのは芸能の番組で、共演者から「カエルさん」て呼ばれていた。そのおかげで、「かゑる」は「カエル」で、「ゑ」は「エ」って読んでいいんだととりあえず分かったのである。「かゑる」さんはちょっと脂ぎった感じで、ガマの油、なんてことばを連想させるようなひとだった。いかにも雪国のそぼくな奥さん、て感じの民芸の日色ともゑさんと、脂ぎっていた噺家のかゑるさんとはあまりにも雰囲気が違う。ぜんぜん共通点がない。ただ「ゑ」という異様な字が名前に入ってる、というのがただひとつ共通する点だった。いま柳家かゑるさんは鈴々舎馬風となって、偉いひとになっているそうである。

常用漢字表の改訂で、障碍者の「碍」は結局入らないことになったそうだ。国語審議会には「障害者手帳」を持っているひとはいないんぢゃないのかな。当事者の意見、聞いたのかな。