湖

なんだか、今。
泣きそうだから、ここに来てみた。
手が届かないんだよな。あなたのことが心配でも。
誰か、あの人のことを助けてやってほしいのだが。
救ってあげてほしいのだが。

ここで、あの人の全ては把握できないし
するような立場では決してないが、あの人の言葉には
いつも、なんだか泣きたくなる。

心の奥に、何かを抱えてないかい？
あの人の奧には、そう簡単には溶けない湖の氷のような
森閑とした寂しさのような
そんなものが、広がってる気がしてならなくて
それを思うと
いてもたってもいられなくなるのだ。

あの人だけじゃないけどね。

助けてあげてほしい。
僕のかわりに誰かが、救ってあげてほしいのだが。

情けない哉
泣きそうなので、ここに来た。

あの人に、光あれ。
僕の分、あの人にあげてやってほしいのだ。
頼みます。

自由

今頃朝日は、東の空で、消えていく月に手を振ってる

あと一ヶ月もしたら、僕はどこにいるんだろう
君の瞳の奧に見えた光を
横顔に見たいつかの記憶を
まだ残したまま、いるのだろう

分かってるんだ
そう簡単にぬぐい去ろうとしたって
ぬぐえるもんじゃない
ぬぐい去れる僕なら、白み始める窓の外なんて
この部屋で迎えることなんてしていない

僕だけじゃない
みんな通り過ぎる、格式あるゲート
　
門の先には、街が広がってる
どの道を選んで行くかは、自由に連想していこう
戻るという選択もあるのかもしれない
それさえ含めた自由

この白い朝を、どう染めるのかも自由
そんな自由を選べる国にせっかく生まれたんだ
自由の中の迷いを
とりあえず、精一杯
受けとめてみるか

夜でも朝でも、夕暮れでも
見上げれば自由が
転がってるはずだ
平等に

人ひら

人の感情っていうものは、こんなにも複雑に出来てるんだな。
自分でも、隅の隅。心の細かいひだまでは、理解出来ていないとみえる。

これは良いことなのか。
たぶん良いことだろう。

ウィットにとんでるとか、世知辛いとか、冷たい風が吹いてるとか
愛に溢れてるとか、
世間は、世間も、複雑なものごとが張り巡らされていて
その中で、なんとか真面目な精神ひっさげて
僕らはこの夜で呼吸している。

人は皆、結局のところ真面目だから、いろんな感情があると思うんだ。
コンビニの前で座り込んでいる彼らも、
ど派手な出で立ちで、年輩の方々に後ろ指さされてる彼女らも、
真夜中、爆音とどろかせているマシンな人たちも、
真面目なんだよな、きっと。

真面目だから、何かに対して、頭にきてるんだろうな。
自分に正直なんだよな。
自分に正直っていうことには気付いてないようにも見えるが、
奧の奧では気付いていて、やるせないような感情もあるのかもしれない。
自分に対しても、社会に対しても、真面目なんだ。

誰しも人は皆真面目だ。多分ね。

そんな僕も真面目なのか？　こればかりは分からない。
自分の、君の、心のひだにどんなことをしてきたのか
していたのか、しているのか
はなはだ、理解出来ていない。
複雑怪奇なこのひだに、光が少しでも届くよう
この先も、翻弄されていくことだろう。

この夜も、複雑に張り巡らされているみたいだな。

空が、白み始めた。
夜が行こうとしている。

夜

眠れない夜はここで過ごし、冴え渡る夏の夜空に
過度に期待と不安が募る。

明日は、心穏やかに過ごせるだろうか。
少しでも、納得のいく心意気で　
君の幸せについて考えられるだろうか。

期待なのか、不安なのか、焦燥感なのか　
たまに混乱するときがきても　
隙間、隙間に、濁りのない希望を埋めて
時計の針を見送れたらいいけどな。

眠れないのは、さっきのうたた寝のせい。
この夜が長いからではない。
どうしても、自分から逃れられないからではない。

そう思っておこう。
だろ？

木の

この椅子に座りだしたのは、バランスをとるため。
気付いてはいたが、傾き始めていた。
日常とは、雑多なことで埋め尽くされているから、どうにかすんなりと生きようとしたって、
必ず幾つかの問題や悩みなど、疎ましいことが浮き上がる。
その幾つかに加え、君のことや、僕自身のことなど、ぼちぼち抱えきれなくなっていたのかもしれない。
だから、この椅子が用意された。
何の変哲もない、家具屋に行けばどこにでもあるような、木の椅子。

この椅子に座って、何かと向き合う。
思いを巡らす。
多分、この椅子には、僕の気持ちは伝わっているんじゃないか、と思う。
木目一本一本に伝わっていると、夜が静かな程に、思う。

伝わったら、何がどうなるってわけでもない。
この椅子が、君だったら
良かったのにな。