あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

演劇『ブンナよ、木からおりてこい』を観て

2016-06-09 09:16:56 | 日記
主人公はトノサマガエルの子:ブンナ。
ブンナは、ここよりもっと住みよい世界がある考え、住み慣れたお寺の境内にそびえ立つ椎の木を登り、てっぺんを目指します。
しかし、苦労の末にたどり着いた世界は、天国どころか鳶の餌場だったのです。
次々と鳶に捕まり傷ついた餌たちが運ばれてきます。
ブンナは、そこにあるわずかな隙間にできた穴の中に隠れて 不幸な運命にある生き物たちの様子をながめ関わることになります。
スズメ、モズ、ヘビ、ネズミなどが運ばれてきて、それぞれが捕まったことを嘆き、もう助からない運命を悟ります。
ところが、鳶がやってきて食べられる瞬間が訪れると、死を受け入れる覚悟は一瞬に立ち消え、自分だけは助かりたいと抵抗します。
いざとなった時には 死は受け入れがたく、誰もが生を求め必死になるのは、命あるものの自然の本性なのだと思いました。

捕まった生き物たちは、そんな必死の抵抗を試みるものの、次々と食べられていきます。

しかし、最後に残ったネズミだけは別で、鳶に食べられる前に、深手をおった傷のために亡くなり、その死を看取ったのがブンナだったのです。

やがてその死骸からたくさんの小さな虫が誕生し、その一つ一つがブンナの大切な食料となり、命を支える貴重な役目を果たしてくれました。

モズやヘビやネズミにとって、カエルは格好の餌となったものの、鳶にとっては、カエルを食べるモズたちが格好の餌となる存在でもあったのです。
力の強いものをさらに力の強いものが食べるという弱肉強食の世界。弱いものは、ただ餌となり食べられるだけの存在なのでしょうか。

ブンナは 自分より強いネズミの 命の分身となった虫を食べることで 生きることができました。

強者と弱者、食べる側と食べられる側という 関係を越えたところで、命あるものは相互に命を支え合う関係にある。
弱い立場の存在であっても、命を支える役目を確かに果たし、そのおかげで世界は成り立っている。
そのことにブンナは気付き、椎の木を下りることにしたのだと思います。
たとえ命が奪われる危険があっても、地上の世界こそ 心許せる仲間たちがいて 自分の住むべき 求める世界なのだと感じながら…。

この劇の原作者は、水上勉さんでした。改めて原作を読んでみたいと思いました。