あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

みをつくし料理帖の最新刊を読んで

2011-04-10 20:29:12 | インポート

震災のため,最新刊が出ても購入できない状況が続いていたのですが,みをつくし料理帖の第5巻となる「小夜しぐれ」をやっと手に入れ読むことができました。時代小説の中で,いつも発刊を楽しみにしているのが,佐伯泰英の作品群と共に,高田郁のこのシリーズです。

主人公の澪と幼馴染の野江は親友でしたが,幼い時に二人とも水害で両親を失い,消息がわからなくなってしまいます。二人はそれぞれの道を苦労をしながら生き,澪は料理人として,野江は吉原「翁屋」であさひ太夫としての人生を歩みます。二人は会うことはできなかったのですが,間に立ってくれる人を介して,お互いの無事を知り,心を通わせることができるようになります。澪には二つの夢があります。一つは,吉原の太夫となった野江を身受けし一緒に暮らせるようになること。もう一つは天涯孤独の身となった澪を育て料理人としての腕を鍛えてくれた,大阪の料理屋「天満一兆庵」を再興することです。

江戸の『つる家』で,澪は料理人としての腕をふるいます。旬の素材を生かし創意工夫しながらつくる料理を,店の常連たちは目を細め舌鼓をうって味わいます。お客に喜んでもらえる安くておいしい料理を,真摯につくり続ける澪の料理人としての生き方が,毎回とても魅力的です。登場した料理は,巻末にレシピ入りで紹介していますが,その料理を味わう場面を読むと,食べるお客と自分が重なり,おもわずつばを飲み込んでしまいます。実際に我が家の夕食のおかずにもレシピをもとにした澪の料理が登場するようになり,とてもおいしく味わっています。物語と澪のつくる料理は,妻も娘も楽しみにしているようです。今回,吉原で料理をつくることになった澪が,舌の肥えた客人たちのためにつくる料理を,私も味わってみたくなりました。

主人公の澪を温かく見守り,支える人たちも実に魅力的に描かれています。もと「天満一兆庵」のご寮さんであlり,今は澪と暮らしている:芳。澪に亡き娘つるの面影を重ねる『つる家』の店主:種市。澪にとって料理のコーチ役であり,密かに慕う武士:小松原。それぞれが心惹かれる魅力的な人物たちです。小松原と澪との関係もこれからどうなっていくのか,楽しみです。

今回は4つの話が収録され,種市の悲しみと慟哭が心にズシンと伝わっててきます。種市最愛の娘つるがなぜ亡くなったのか,つるの母親(種市のかっての妻)やその愛人も登場し,業を背負って生きる人生の悲哀と,人はやはり信じられる存在であることを肯定的に受け止めることができました。

3.11以来心が晴れない日々が続いていますが,物語の世界に入ることで新たな元気を与えてもらったような気がしています。

庭に,カタクリの花が咲きました。スイセンも咲き始め,春は着実にやってきていることを実感します。暖かい日も続くようになり,畑仕事で心地よい汗をかくこともできるようになってきました。

被災された方々も,春の訪れを感じ取れるといいのですが……

暖かい春が新たな元気と希望を多くの人に与えてくれることを心から祈りたいと思います。

もうすぐ,今年の桜も咲き始めますね。