今日から始まった「よみがえる浮世絵-うるわしき大正新版画」を見てきました。
江戸時代に浮世絵は展示も多く、目に触れる機会に恵まれていますが、新版画となると聞きなれない。
以下にチラシの解説を引用。
新版画とは-
新版画とは、江戸時代の浮世絵版画と同様の技法によって制作された大正から昭和初期に発展した木版画です。当時、社会の近代化に伴い風前の灯であった伝統的な木版技術を復興し、新たな芸術を生み出そうと、版元、版画家、彫師、摺師らが結集し、さまざまな画題の 2,000 点を超える新版画が作られました。本展では、約250点の作品・資料を展示いたします。
ということで気になった作品について取り上げてみます。
高橋松亭「幡ヶ谷の寒林」
林の木々の描写の深みの色彩が版画っぽくないのです。
ただの浮世絵のままやってるのではなく技術が向上しているっていうことですよね。
橋口五葉「浴場の女」
五葉が試行錯誤を重ねて新版画にかける意気込みが鉛筆で描いたのからも伝わってきます。
そうして完成したものに五葉は納得してなかったそうですが、どうしてどうして素晴らしい出来です。
この「浴場の女」は目がヤバいです。
見ててドキっとするのですよ。
山村耕花「梨園の華 初代中村鴈治郎の茜半七」
この目の色気!
存在感の立ってること。息を呑む感じなのです。
同じ「梨園の華」シリーズの「七世松本幸四郎の助六」「七世松本幸四郎の関守関兵衛」も並んで展示されていましたが3点とも素晴らしい出来栄え。
「助六」もひん剥いた目の微妙なグラデーションに目を惹かれます。
「関守関兵衛」はびっくりしました。開いた口の中の上の歯を下の歯が完全にずれちゃってる。あきらかにおかしいのだけど、絵として勢いこれでよし!
このあとに「梨園の華」シリーズではあるものの、異色だったのが「十三世守田勘弥のジャン・バルジャン」。まさか、レ・ミゼラブルの新版画が見られるとは。
ただ、前述の3点に比べると獰猛さが目立ってまたトーンが違います。こちらはちょっと好みとはずれますね。
笠松紫浪「雨の新橋」
この前に濡れた路面の質感。ほのかなブルーと全体のセピアのトーンの調和が心地よし。
川瀬巴水「日本橋(夜明)」
記事にはしてませんが以前にこの江戸東京博物館で見た巴水の版画が忘れられませんでした。
このブルーのトーン、そして朝日のオレンジ。
整然とした穏やかな世界。文句なく好きですね。
土屋光逸「東京風景 根津神社」
江戸の面持ちを残す根津神社。
雪の降りつむ静かな夜の境内。ほのかな光がなんともいえません。
同じ「東京風景」の「日比谷の月」も雪の描写がうまい。版画ならではシンプルなグラデーション。
名取春仙「大河内伝次郎 丹下左膳」
正面から見た隻眼のおとこのドストレートなポートレート。
ポーズがばっちりと決まっててただただかっこいい。
川瀬巴水「清洲橋」
今回、30点が展示されたムラー・コレクション。そのロバート・ムラー氏がコレクションを開始したのがこの巴水の「清洲橋」。
日本人としてうれしくなりますね。この美意識がムラーさんに伝わったんだなあと。
鉄骨の橋ですがばっちりときまっています。当たり前ですが、浮世絵には鉄の橋は出てこないわけで。
山村耕花「四世尾上松助の蝙蝠安」
前述した耕花の作品で、今回のポスターとチラシのメインビジュアル。
この表情、なんともいえませんね。喜怒哀楽の「哀」の類に入るのって難しい。
しかし、頬の蝙蝠ってどういうシチュエーションなのでしょう。
伊東深水「林檎とバナナ」
これは2度びっくり。版画なのに水彩画ちっく、さらにあの深水の作なのです。
川瀬巴水「芝弁天池」
ブルーがおなじみのイメージですがこのグリーンにピンクもなかなか新鮮。
遠くの森の描写のかすれた感じもよいです。
鳥居言人「髪梳き」
髪を梳く裸婦なのですが、輪郭線がない無線彫り。
アニメの輪郭線の黒を白などの色でやる色トレスに近い表現だなあと思いました。
小原古邨「雪中の五位鷺」
ムラー氏が特にこだわって集めていたという古邨の版画。
いやー、なんていうんでしょう。すごく直球で変哲ないのですが、ものすごくよく描けています。
フリッツ・カペラリ「黒猫を抱える裸女」
この空間の取り方。浮世絵っぽいのですが、描かれている女性の顔はまた独特でちょっとアニメちっく。
外国のひとのトーンの入り込む面白さが出ているなあと思いました。
やはりトータルで250点と点数が多いのでさすがに疲れました。
でも、気になる作品が多く、巴水はもちろんのこと耕花の役者を描いた新版画が見れて満足でした。
11/8まで。