朝方布団の上で、無意識に腕をボリボリ掻いている自分を見つけた。
うぅん、蚊に刺されたか・・
何気なく腕を見て驚いた。一面に発疹ができている。
こ、これは・・・もしかして・・
私は昨日の夕方、一本の木を伐り倒したのだった。
枝を見上げて、たぶんクルミの木だろうと思った。幹はすらりと伸び、径は鍋ほどあってツタの葉に覆われている。葉のつき具合がクルミに似ている。
けれど伐り倒してみると、枝の張り . . . 本文を読む
さて、今日もこれで・・とどぶろくを注いで枝豆を食べようとしたら・・・
豆が半分納豆になっていた。莢を摘まんでも糸を引いて下に落ちない。
一昨日収穫して茹でた豆だった。つい穫り過ぎてしまった。昨日一昨日と食べ切れずに、その食べ残しを台所の机の上に置きっ放しにしてしまっていた。なるほど、納豆菌というのは空気中にふんだんにあるもののようだ。
いや、さすが夏だ。今年の夏はなんだあまり暑くないぞ、など . . . 本文を読む
バクとピーターの兄弟がわが家に引っ越して来たのは去年の12月。
突然の家族の増加に猫家は慌てふためいた。何よりも彼らの餌をどうするのか?やがてそれは町のスーパーからキャベツの上皮の葉を頂けることになって解決したのだったが。
おかげさまで仲良し兄弟は雪多き冬を乗り越え(まあ、屋根のついた小舎の中にいるのだから雪はさほど脅威ではないが、それでも吹雪の日には小舎の床一面が雪で覆われる)、無事に緑の季節 . . . 本文を読む
「ああ、確かに『隠し念仏』ってもぁ、言うな。」
私は驚いた。九州から来る知人に、このでは葬儀のやり方に一風変わった風習が残っていると話したところ、ぜひ話を聞きたいから土地の古老に会わせてくれという。なんでも「隠し念仏」とかいう民俗宗教を調査しているそうだ。そこで隣りのジッちゃんに頼みに行ったら、なんとこのムラの念仏が「隠し念仏」なそうだ。
「オレらはただ、『お念仏』っていうがな。このあたりじ . . . 本文を読む
「ジッちゃんいますか~?」
用事があってちょっとお隣りの戸を叩いた。「おう!なんだ?」座敷から出てきたジッちゃんはヤッケを羽織っていた。
「あれ、出かけるところですか?」
「ん・・・いや、ちょっと寒いからナ・・」
ジッちゃんは半袖シャツにヤッケを羽織って休んでいたのだった。たぶん冬服はみんな仕舞ってしまっていて、手近にあった雨具を着込んだのだろう。
そう、確かにこのところとても涼しい。
もう小学校 . . . 本文を読む
ふと、なんだかおかしいな、と思った。
遠くに見える若木の枝が一本裸になってる。
近づいてよく見たら、枝の先から葉っぱがきれいに無くなっていて、その下の葉に隠れるように、一匹の芋虫がいた。
モクメシャチホコ
蛾になるととてもきれいな木目の模様が羽根に出るという。でも私はまだ彼らの成虫には出会ってない。
つい先日も幼虫には会ったのだけれど、翌日見たらもういなかった。それ以降その木の葉は食べられて . . . 本文を読む
朝食の後に田の草取りをしていたら、おお!と驚いた。
目の前の稲葉で、まさにヤゴからトンボが生まれ出ようとしている。
すわ!トンボの羽化!これはカメラにおさめないと。
おいちょっと待ってろよ今カメラをとってくるから・・・とトンボに言い残して畦畔を上がる。折りよく軽トラにデジタルカメラが積んであった。
こんな場面には滅多に会うものじゃない。実際稲作5年目にして初めてだ。
按配よくカメラにおさめて . . . 本文を読む
あれはたぶん、イチモンジセセリ・・・
足元の蝶はキツネ色に輝く羽をひらひらとはためかせ、私のぐるりを舞い飛んだ。
なんという蝶か、または蛾なのか確かめたかったけれど、そんな思いも叶わず手の中をするりと抜ける子どものように、明滅しながら風に吹かれて空へと消える。
それが飛び立った辺りを見回すと、数枚の葉が糸で綴られた「つと」が目に付いた。
まさか今飛んだ蝶の子どもでもないだろうに、でもそれを見てな . . . 本文を読む
昨夜帰ったのは12時近かった。
眠くて眠くてすぐに寝たかったんだけど、いざ布団に入るとなんだか眠れない。
どこかでプ~ン・・と音がする。起きだして今年初めての蚊取り線香を焚いた。
やはりお酒を飲んでから寝よう。ついでに家に入りたがりのアポロを入れてやろう。
その時に玄関からたくさんの虫たちが一緒に入ってきた。
そうして居間の蛍光灯に群がっていた虫たちが、やがてちゃぶ台の上にポトリ、ポトリと落ちて . . . 本文を読む
昼寝をしていたら近所のおばあさんがやってきて、「あんだあ、ヘビいらねか~」と言う。私が食べると知ってのことだ。「あ、今行きます」と答えて慌てて玄関を出た。
マムシのようでいてそうでもなさそう。もちろんシマヘビじゃない。でも随分大きなヘビだ。差し渡し1m20cmはある。
モアで草を刈っていて殺してしまったそうだ。見たところ外傷は深くはないが確かに死んでいる。
ヤマカガシ
隣りのジッちゃんに訊い . . . 本文を読む
ほんにまあ、この齢になってまだ
こんなこわい思いするとはなぁ・・・
土手に立った僕の顔を撫でていく
風は新緑 水を含んで
肌にとても心地よい。
おばあさんの手は深く刻まれて
隅々まで土の色が濃く
そりゃそうだもの朝に夕べに
この人を田のへり畑の中で見ない日はないのだから。
じいさんはもうできねえって言うし
息子はあのとおり会社が忙しく
嫁はやっぱり勤めに出ててとても時間なんてないっつう
だっ . . . 本文を読む
華やかに猫家を彩った菜の花ももう終わりに近い。
アブラナたちはもう、どの株もしっかりと莢を結んでいる。花から種へ、黄から緑へと草の外見は変わるのだけど、しかし「いのち」という視点で見れば形や色は変わっても同じものが途絶えることなく受け継がれている。
どこからが新しい生命で、どこからが古い世代なのだろうか。
毎年彼らを見ていて思う。一年草のアブラナは夏に自分の育てた種を地に落とす。それが芽吹いて . . . 本文を読む
朝まだき、猫の声で目が醒めた。
ぅうん・・・誰かな?・・アポロ?・・・
体が布団に粘着して離れない。すっかり明るくなった頃にやっとこさ戸を開けたら、なんとそこにはロッキーがいた。
ひと目でわかった。下駄箱の上にへばったように腹ばいながら、窓の外のオス猫たちに向かって唸っている。
ロッキー!・・・おい、ロッキー、帰って来たのか!
おおよそ半年振りの帰宅である。コマリン(ロッキーの母)が鼻をすり . . . 本文を読む
あの枝を切るから・・・
クルミの枝が一本、屋根にかかっていた。あれは切らなきゃならない。でないと今度の冬には、雪の重みでどっちみち折られてしまう。
今年はたくさん、クルミを食べれるな。
クルミと言ったって、「実」じゃない。「芽」なんだよ。そう、桜の咲くちょうど今頃タラノメのように羽根を広げる、若葉の芽。(クルミの若芽はバドミントンの羽根を逆さに立てたように見える。)
見上げたら枝の先々にた . . . 本文を読む
ヒバの根株に刃先を入れた時に、ふと感じるものがあって頭上を仰いだ。
法面の上におじいさんが立っていた。両手に古びた新聞紙の包みを抱えている。
「あ、どうも、おはようございます。」
私は刃を抜いてチェンソーを止めた。音と振動の余韻が大気に木霊する。彼は今まで長い間そこに立っていたみたいだ。お互いに農家なので、機械を使っている人の耳には声を掛けても聞こえないことを知っている。また伐倒や草刈をしている . . . 本文を読む