ふくろう日記・別室

日々の備忘録です。

言葉のたまり場  大野新

2016-06-16 12:39:07 | Poem



黒田三郎はのどの奥を癌にやられた
高見順はもうすこし下がって食道だった
言葉のたまり場を灼かれた 
火の断崖(きりぎし)だった

いま前の座席でおさなごが目をあける
うるんで半睡
水の精になっている
まだ言葉が回復していない
鬱血のぬるぬるした
夢ののどに
まだ言葉がめざめていない

梅を観ての帰り
一輪の声が言葉のたまり場でぬるんでいる


   詩集『続・家』 より。


電車に乗って、私は本を読まない。むろんスマホも持っていない。
私の視線を奪うものは、いつでも小さな子。そしてこの詩を思い出す。
一輪の花が開花を待つように、幼子ののどにはたくさんの言葉が眠っている。
聞き逃さないで。